隼人が手を離したその瞬間、瑠璃の両手には冷たい感触が走り、心までもが一気に氷の深淵へと落ちていくようだった。彼女は隼人の名前を叫んだが、返事はなかった。隼人が彼女を安全な場所へと突き飛ばしたそのとき、鈍い衝突音が聞こえた。何の音なのかは分からなかったが、隼人が傷を負ったのではないかという不安が胸をよぎった。瑠璃は木箱の上から転がり落ち、地面に倒れ込んだ。数回むせ込みながらも、足首の捻挫には構わず、すぐに立ち上がって木箱で塞がれた扉のほうへ駆け寄った。「隼人!隼人、聞こえてる?早く返事して!」焦りに満ちた目で隼人の名を呼びながら必死に叫んだが、炎が燃え上がる音以外、返ってくるものはなかった。瑠璃の視界は一瞬で霞み、木箱を押しのけようとしたが、びくともしなかった。黒煙が視界を覆い、彼女の呼吸と鼓動までも呑み込もうとする中、燃え盛る炎を見つめながら、水気を帯びた大きな瞳を虚ろに見開いたまま、揺らめく火の影に似た情景が脳裏に浮かんだ。あの時も、大火事だった。黒煙が渦巻いていた。太った女が、鬼のような形相で狂ったように笑いながら彼女を指差して罵った。「瑠璃、このクソ女!今度こそ死ぬがいい!」その女は狂気じみてあちこちにガソリンを撒き散らし、一方で、情けない顔をした男が傍らに崩れ落ちていた。炎が広がる中、隼人は彼女と閉じ込められた君秋を窓から抱えて逃がした。だがその隙に、あの狂った女がナイフを隼人の腕に深々と突き刺したのだった。血が止めどなく流れたが、それでも隼人は君秋を抱いた腕を決して離さなかった。あのときの彼の眼差しに宿っていた強い決意と切なる不安、それは紛れもなく本物だった。瑠璃はハッと意識を現実に戻した。体中を包む灼熱の熱気の中、なぜか全身が凍りつくように冷たく感じられた。「隼人……」茫然と彼の名を呟くと、涙が静かに頬を伝って流れ落ちた。唇を噛みしめながら扉の前へ駆け寄り、木箱を隔てた向こう、濃煙に呑み込まれそうな前方へ向かって泣きながら叫んだ。「隼人、生まれ変わりなんていらない、私たちには今しかないの!もし本当に罪を償いたいと思っているなら、この人生で償って!隼人、聞こえてるの!?」隼人、聞こえてるの?しかし彼女の呼びかけに答えたのは、ますます荒々しく燃え上がる炎の音だけだった。瑠
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