瑠璃は顔を上げると、隼人が入ってくるのが見えた。整った眉の間には、わずかに疲れの色が浮かんでいた。ベッドに座っている瑠璃を見ると、隼人は穏やかな笑みを浮かべながら眉間をほぐし、「千璃ちゃん、起こしちゃった?」と声をかけた。瑠璃は首を横に振ってスマホを置いた。「昨日の夜、どうして帰ってこなかったの?」隼人は嘘をつきたくなかったが、それ以上に瑠璃に余計な心配や誤解をさせたくなかった。「ちょっと急ぎの案件があって、離れられなかったんだ。ごめん、心配かけたね」そう言いながら隼人はベッドに近づき、身を屈めて瑠璃の額にキスを落とした。ただ、それだけで、瑠璃は隼人の体から彼に似つかわしくない香りを感じ取った。彼女は匂いに敏感で、その香りが恋華の使っている香水のものと同じであることに気づいた。これまで隼人といろいろなことを乗り越えてきた瑠璃は、この男がもう自分を裏切るようなことはしないと信じていた。だからこそ、追及はせず、いつも通りに起きて、二人の子どもの朝ごはんを作りに行った。朝食を済ませると、瑠璃はいつも通り薬を一錠飲んだ。今日は月曜日。二人の子どもたちを幼稚園に送った後、隼人は瑠璃を会社まで送っていった。だが、会社に入った途端、彼女はロビーの受付に座っている恋華を見つけた。まるで、二人を待っていたかのようだった。ロビーの社員たちは、今朝話題になったスキャンダルの投稿をすでに見ていたようで、皆がこちらを注目していた。投稿には、隼人が浮気し、ある女と外で一晩過ごしたと書かれていた。しかし、隼人はその投稿の存在をまだ知らなかった。恋華の姿を見ると、嫌悪感とともに、彼女が瑠璃に何か余計なことを言い出さないか心配になった。昨晩の出来事は、瑠璃に知られたくなかった。だが、恋華はまるでわざとであるかのように、生き生きとした表情で瑠璃の前に立ち、「目黒さん、目黒夫人、お待ちしておりました」と口にした。「江本さん、こんな朝早くから、わざわざ待っていてくださったんですか?」瑠璃は穏やかに笑って問いかけた。恋華はにっこりと笑いながら、堂々と隼人の顔を見つめ、「目黒さんにお会いしたくて来たんです」と答えた。瑠璃は表情を変えた隼人をちらりと見た。その目には静かさの中に微かな鋭さが宿っていた。そして口を開いた。「江本さんがうちの夫に、ど
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