真思は腕を組み、まるで勝者のように私を見下ろして鼻で笑った。「慎一だって最初は新鮮さを求めてただけよ。男ってみんなそうでしょ?慎一も例外じゃないの。安井さん、そんなに落ち込まないでね」慎一の動きは驚くほど素早かった。ほんの数言、何気ない言葉のやり取り。その日、私の収録は突然ストップがかかった。監督がスタッフを引き連れてやってきて、数日かけて準備した原稿を私の手から奪い取り、真思に渡した。彼らはまるで不良の集団みたいに控室へ押し入ってきたくせに、真思にだけはやけに丁寧に頭を下げていた。真思はその場で、私の原稿を私の目の前でビリビリに破った。「こんなもの、私にはいらないわ」そう言い捨てて、私に向かって微笑み、口パクで「ごめんね」と挑発的に囁いた。私と監督は、一期だけの契約だった。まず一回目の放送を見て、その後のことは考えようという話だった。今日も、監督が昨日の収録で私と真思の間に「売り」があると感じて、追加で何か撮れないかと呼ばれたのだった。気づけば、広い控室に私ひとり。すべてがあまりにも急すぎて、何も始まっていないのに、すべてが終わってしまったようだった。そのとき、机の上の電話が突然鳴った。慎一からだった。「佳奈、救急箱ってどこだっけ?頭がふらふらして……早く帰ってきてくれ」スマホを握りしめて、現実感なんて全くなかった。何も言葉が出てこず、頭の中はぐちゃぐちゃにかき回されていた。帰るしか、ないんだ。私に帰る場所なんて、もう家しかない。「佳奈?佳奈?」「聞こえてた」「具合悪いんだ」「聞こえてた」自分でも何を言ってるのか分からない。慎一にも伝わっていないようだった。「何て言った?」「さっき、真思と電話してたときのこと……全部、聞こえてたよ」慎一、いつまで演技を続けるつもり?まるで私がいなきゃ生きていけないみたいな顔をして。慎一の弱さや苦しみや絶望、それらすべてが、最初から仕組まれた嘘にしか思えなかった。彼は結局、欲しいものを手に入れた。あんな酷い男が、今も私の家にいて、しかも「具合が悪い」なんて言い訳で、なおも私を騙そうとしている。「楽しいの?」私は聞いた。「自分の力で他人の人生を操るのって、そんなに楽しいの?」慎一は、私に見抜かれても全く動じず
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