慎一の動きが一瞬止まったが、私に構うことなく、再び唇を重ねてきた。彼の体から漂うホルモンの匂いと、微かに混じる彼自身の香り――どこか不思議な気配に包まれる。いつも感じていたお茶の香りは消え、代わりに血と消毒液の匂いが、淡く漂っていた。ただの一瞬だった。私の心も理性も、彼のほとんど狂おしいほどの求めに、すぐさま沈み込んでしまった。このキスは決して優しいものではない。むしろ、まるで千年もの間、待ち続けた救いのような、激しさと切なさに満ちていた。駆け引きも探り合いも、すべて消え失せ、私がもう拒む気配を見せないと悟ると、彼の動きも次第に穏やかになり、唇が何度もそっと私の唇に触れる。それはまるで、勝者が証を刻むかのような仕草だった。やがて、彼は私に身を預け、顔を私の首筋に埋めてきた。私はまるで抱き枕のように、彼の腕の中に強く抱きしめられる。押し返そうとした私の手は、空中で止まった。首筋を、何か温かいものが流れていくのを感じたのだ。慎一の涙だった……涙は首を伝い、襟元に染み込んでくる。その熱さが、胸の奥まで痛くさせた。慎一は泣いていた。かつて、彼が涙を見せることは、稀にあった。人は誰だって、心が動く瞬間があるものだ。慎一も例外じゃない。けれど彼は、そんな心のやわらかさを、誰にも知られたくない人だった。いつも、隠してきたのだ。だけど今、彼は隠すことなく、泣いている。嗚咽混じりに、彼が言う。「俺の未来は、真っ暗だ。もう何も見えない……」何を言っているのだろう。慎一はこの白核市でもっとも若くして成功した社長だ。離婚したところで、価値の高い独身男性になるだけだ。未来が暗いなんて、そんなはずがない。私は手を力なく下ろし、体を少し持ち上げて、黙ってそのままにしていた。そのとき、慎一のスマホがまた鳴った。彼はようやく気まずいと思うかのように、目も合わせず、背を向けてスマホを取り出した。けれど、私は見てしまった。画面に表示された名前――雲香。彼は電話を切り、ラインで雲香の名前を検索し、メッセージを送る。【雲香、今ちょっと手が離せない】雲香からの返信は早かった。【お兄ちゃん、早く帰ってきて!もうこんな時間なのに、なんで外にいるの?】【大丈夫だ】その一言だけ返し、慎一はスマホをポケットにしまった。その頃、郊
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