All Chapters of 元カレのことを絶対に許さない雨宮さん: Chapter 961 - Chapter 970

1044 Chapters

第0961話

実験室で、朝日はもうn回目に陽一を見やる。ついに我慢できずに、彼に近寄って――「陽一、まさか今日来る途中でお金でも拾った?」実験台に上がってから、ずっとニヤニヤしている。陽一の手が止まる。「データは出揃った?三期実験の実現可能性評価レポはいつ提出できる?」朝日は黙って、『まったく縁起でもない』と思う。「そういえば、今朝お前がサンドイッチを食べてるの見かけたけど」陽一は言う。「……だからなに?」「凛が作ったんだろう?俺、知ってるぞ。お前さ、凛と仲直りしたのか?ようやく悩むのやめたんだな?」陽一が考え込んで、二人が付き合っていることを伝えようとする時、ちょうどスマホにLINEの通知音が鳴る。陽一はすぐに取り出して開く――凛からのメッセージだ。【着きましたよ、サンドイッチ美味しかったですか?】陽一即返信する。【美味しかった】凛は返信してくる。【今からホテルでチェックインをします。午後には工場に行きます】【わかった】1分を待っても、向こうからは返信が来ない。陽一は物足りなさを感じる。以前もこんな風にやり取りしていたのに、今はそれだけでは満足できなくなっている……もっと長く、もっとたくさん話したい。その気持ちは……まるで心がむずむずして、軽く掻いても、痒みが全然治まらないようだ。凛に思い切り掻きむしられたい。「誰とメッセージしてるんだ?」朝日が覗き込もうとしてくる。陽一が避ける間もない。「何を隠してるんだよ?凛からのメッセージじゃないか。何を見せられないものがある?」「……」陽一はスマホをしまい、実験台から降りる。「今日の昼食は僕がおごる。何が食べたい?」朝日は数秒間呆然としている。真奈美と博文は顔を見合わせる。「先生、何かおめでたいことでもあるの?急に奢ってくれるなんて?」陽一は口元を上げる。「決まったら朝日に伝えて、彼がレストランを予約するから」朝日は意味が分からないという顔をする。『なんで俺はいきなりそういう役回りを任された?まあいいか、誰かが払ってくれるんだし』と。「昼食を食べるなら、アフタヌーンティーもセットでどう?」朝日はつけあがった。陽一に「ふざけないで」と言われるかと思いきや――「ああ、いいよ、自分たちで決めて。領収書をちゃんと取
Read more

第0962話

凛は助手席のドアを開け、乗り込むとシートベルトを締める。工場はホテルから10キロ離れた開発区域にある。「……あの一帯はハイテク産業クラスターに属しているから、多くの企業間の技術協力プロジェクトもこちらに集まっている。君が求めている感熱材料は、僕たちとCGハイテクが共同開発したもので、今までに三代の製品があった……」凛は真剣に聞きながら、時折専門的な質問をする。零が答えられるものもあるが、具体的なパラメータに関しては、すぐに答えを出せないものもある。約20分後、二人は到着する。零が事前に連絡していたため、正門には既に担当者が待機している。凛は簡単に実験室と工場を見学させてもらう。研究区域と生産区域は前後に分かれた別々の空間になっている。凛が必要としている材料は、第一世代と第二世代は完成品があるが、第三世代はまだテスト段階で、正式に生産していない。実験室で改めて合成する必要がある。「どれくらい時間がかかりますでしょうか?」凛は零に尋ねるような視線を向け、彼はさらに横にいる研究員を見る。「8時間くらいです。明日の朝には完成品をお渡しできます」凛は頷く。「わかりました。関連費用は通常通りで計算してください。最後に使用することが決定しましたら、一括で支払います」零は慌てて言う。「費用なんて気にしなくていいよ?凛、僕たちの関係で、そんな他人行儀は……」「よく言う言葉があるでしょう。実の兄弟でも金銭はきっちりしないと。ましてや私たちはただの友人関係だわ。長谷川さんが手伝ってくれるだけでも感謝するよ。あなたに負担をかける道理はないの。実験室には独自の会計システムがある。すべての支出と収入は年末に監査の対象となる」これは金額の問題ではなく、財務とコストの透明性に関わることで、いい加減にはでない。零はようやく気づいた。自分がどれだけ非専門的な態度を取っていたかを。「……わかった。だったら……」凛は言う。「第一世代と第二世代の完成品を見たい。長谷川さん、経験豊富な職人さんを手配して、生産区域に連れて行ってほしい」「問題ないよ!すぐに人を手配する」「ありがとう」職人はすぐに到着し、零は生産区域まで同行しようとするが、慌てて駆けつけた責任者に引き止められる――「長谷川若様!申し訳ありません。F県に出張
Read more

第0963話

正確に言えば、一人に連絡するのを忘れた。今日の午後、陽一は自ら電話をかけてきて、進捗を尋ねた。凛はすでに実験室で忙しく働いていたから、慌ただしく数言葉を交わしただけで、電話を切った。凛の最後の言葉は――「終わったら連絡しますから、いいですか?」結局……凛は悔しそうにスマホを取り上げ、LINEを開く。未読メッセージは少なくないが、全て零からのもので、何をしてるか、ご飯を食べたか、一緒に食べに行かないかなどがある。陽一からのものは一つもない。凛は文字を打ち始めるが、途中で止め、全て削除し、最後はそのままビデオ通話を始める。十数秒後、向こうが応答する。画面に陽一の顔が映り、凛が「ごめんなさい」と言いかけるところで、男の優しく低い声が聞こえる――「終わったのか、凛?」「うん」凛は頷いて言った。「疲れてない?」「疲れてません。ごめんなさい。工場から出たら、すぐに連絡するのを忘れてしまいました……」「構わない、君がいつ連絡してきても、僕はここにいるから」凛の心に温かみが湧き上がってくる。その時、凛の視線が止まってしまう。「……今どこにいるんですか?」陽一は言う。「家」「わかってますよ。家のどこかって聞いてます」陽一は黙り込む。「浴室ですか?」「……」画面に映る男の異常に大きな頭は、明らかに近づきすぎたせいだ。頭で画面を埋め尽くそうと、必死になっている感じがする。さらに沈黙が耳をつんざくほどに重く、凛は思わず口にする。「服を着ていないんですか?」「!」死のような静寂が広がっていく。陽一の表情がこわばる。「僕は……ちょうどシャワーを浴びようとしてて、電話が鳴って……」凛は泣き笑いしながら言う。「せめて服を着てから出てくればよかったのに、私逃げたりしませんから」男は言う。「ちょっと待って」そう言うと、スマホが置かれ、カメラが天井に向いていく。しばらくして、陽一が戻ってくる。今度はついに「デカ頭先生」ではなくなり、パジャマを着ている。「あの……パンツは穿いてます?」凛が尋ねると、男の頬に急に紅潮が広がってくる。「……」そうか、穿いてないか。陽一は言う。「コホン!映らないから」凛は絶句する。これは移るか映らないかの問題じゃないでし
Read more

第0964話

凛は言う。「もう出ましたが、どれも要求を満たしていないんです」職人は冷や汗をかいながら言う。「こんなに早く?」このスピード……一人で実験室一つ分の仕事をこなしているのと同じだ。「わかった。着替えてすぐ行く。今日は絶対に足を引っ張らないぞ!」「岩手先生、ありがとうございます」「いやいや、礼には及ばない!当然のことだ!」彼女は自分を「岩手先生」と呼んでくれたぞ!岩手さんでもなければ、ただの岩手でもなく、岩手先生だぞ!準備を整え、8時、開発実験室から第三世代のサンプルが届く。凛と職人は黙々と作業に没頭する。いつの間にか昼になり、岩手が言う。「さあ、食事に行こう」「はい」道中で、二人は午後の検証案についてまた話し合う。食堂に着く直前、零が急に駆け寄ってくる。髪は少し乱れいて、ワイシャツの襟も皺くちゃで、顔色も良くない。「り、凛……」零は息を切らしながら言う。「やっと……やっと見つけた」凛は怪訝そうに聞く。「何か用事があるの?」「メッセージを送ったのに返事がなく、ホテルの部屋をノックしても応答もなくて、何かあったのかと思った」凛は言う。「私は6時半に出かけたわ。あなたが昨夜遅く帰ったから、まだ休んでいるだろうと思い、邪魔しなかった」「6時半か……」零は苦笑いし、弁解しようとする。「昨夜わざと酔ったわけじゃないんだ!普段はこんなことしないよ!和哉たちに無理やり飲みに連れ出されて、その後カラオケに行って、遅くなっただけ……誤解しないで、まともなカラオケだよ、僕は滅多に行かないんだ……」凛は言う。「誤解していないし、私には関係ないことだわ。長谷川さん、あなたも忙しいでしょうから、私は岩手先生と先に食事に行くよ」「……ああ!そうか」零だけが取り残され、呆然と凛の後ろ姿を見つめる。その時、凛は彼女の横を歩く職人との関係が、自分よりも親密に見えることに気づいてしまう。寂しさに浸る間もなく、責任者が駆けつけてくる。「長谷川若様、いらっしゃったんですか?レストランを予約しておりまして、ちょうどいい時間ですので……」「結構。今日は社員食堂で食べる」そう言うと、零は速足で立ち去る。責任者は慌てて追いかけていく。「では、私もご一緒させてください」「……」零が食事を受け取り、トレーを持って
Read more

第0965話

零は呆然とその場に立ち尽くす。しばらくして、やっと我に返ってくる。しかし、凛は既に去っていた。……凛と責任者の松本和哉(まつもと かずや)との打ち合わせは順調に進み、凛は価格に異議なく、和哉は彼女の豪快さを見てその場で協力を決定し、アシスタントに契約書の印刷をさせる。すぐに、双方はサインを終える。凛は立ち上がり、自ら手を差し出す。「今後ともご協力、よろしくお願いします」和哉は握手を返す。「こちらこそ、よろしくお願いします」凛が去った直後、零が駆けつけてくる――「凛はどこに?」「雨宮さんのことですか?」「ああ、彼女はどこにいる?契約を結びに来たんじゃなかったのか?ちょっと理由をつけて引き延ばして、急いでサインしないで、凛を2日ほど引き留めて……」和哉は冷や汗をかきながら言う。「わ、若様、もうサインは終わってしまいました……」零は絶句する。役立たずめ!この役立たずめ!零は帰ったら父に提案するつもりだ。今後は公用接待を廃止し、誰が来ようと食堂で食事させ、カラオケなどにも行かせないようにする!凛はきっと自分が接待に出かけたから、だらしないと思い、わざと彼氏がいると言って、彼を遠ざけようとしたんだ。そして、全てがこの松本和哉のせいだ!わけもなく巻き込まれた責任者は、全く意味が分からないままだ。……凛は果物の袋を手に、岩手が働く工場の現場までたどり着く。「岩手さん――お客さんですよ!」「ああ!今行く!」岩手が出て行って見ると。「あれ?お嬢さん?」「岩手先生、話がまとまりましたので、今日の午後帝都に戻る予定です。この二日間はお世話になりました。少しお土産をお持ちしました」「いやあ、これは……ご丁寧に!」岩手が受け取ると、ずっしりとした大きな袋だ。中にはドリアンとドラゴンフルーツ、それにリンゴ、みかん、梨が入っている。岩手の目頭が熱くなってくる。先日二人が実験室にいた時、岩手は何気なく、妻はドラゴンフルーツが好きでドリアンが嫌いだが、娘はなぜかドリアンが好きで、そのことでよく口論になると話していた。その時、凛は岩手が何が好きかと尋ねた。岩手は深く考えず、何でも食べる、リンゴや梨やバナナでもいいと答えた。そんな何気ない一言を、凛は覚えていたのだ。「凛、あ
Read more

第0966話

凛は相手が呆然としてどうしようもない顔を見て、何を想像したのか分からないが、とにかく呆れた気分になる。絶句するしかない。午後3時、アナウンスで搭乗案内が流れる。搭乗後、零はエコノミークラスを2周しても、凛の姿が見当たらない。最終的にドアが閉まり、全乗客が着席した後、ようやくビジネスクラスで凛を見つける。「り、凛?君はエコノミークラスじゃなかったのか?僕……」今度、零もエコノミークラスを予約したのに……凛はビジネスクラスに座っているとか。えっと……凛は思わず笑って言う。「誰が、私がエコノミークラスだって言ったの?」「来た時は……エコノミークラスだったじゃないか?」「ビジネスクラスとファーストクラスのチケットが売り切れになって、エコノミークラスしか残ってなかったからよ」でも今回、ビジネスクラスに空きがあった。零は絶句する。「ほら、あなたは私のことを全然わかっていないの。ただ自分で推測して妄想してるだけ」凛は意味ありげに言った。零は落ち込んで自分の席に戻っていく。エコノミークラスは本当に辛いんだ。足も伸ばせないし、座り心地も悪い。それに大勢が詰めかけているからこその「しっとりとした重い空気」が漂っている。だから、飛行が安定するとすぐに乗務員を呼びつけて――「クラスアップしたい。ビジネスクラスに!」「申し訳ございませんが、ビジネスクラスは満席のため、アップグレードはできません」「ダイヤモンドメンバーでもダメか!?」零は完全に我慢の限界のようだ。「本当に申し訳ありません……」乗務員は困った顔をする。「ファーストクラスに空きが1席ございますので、そちらへのアップグレードはいかがでしょうか?」「そうしてくれ!」凛と一緒に座れるかどうかはもう重要ではなく、重要なのは急いでエコノミークラスを離れなければならないことだ!……日が暮れる頃、飛行機は夕日を迎えながら首都空港に着陸する。凛はVIP通路を通り、荷物を受け取りに行ける。零はクラスアップを手配したため、彼女と一緒に出る。「凛――」零は笑いながら追いかける。「もうこの時間だし、夕食をおごらせてくれないか?」「結構よ。ありがとう」「だったら、車で家まで送ろうか?」「結構よ」「なんでだ?」零は急に立ち止まって言
Read more

第0967話

凛は聞く。「いつ着いたんです?正直に言ってください」陽一の「10分前」という言葉は喉元で詰まり、結局諦めたように唇を歪める。「わかった……1時間前だ」「そんなに早く来てどうするんですか?フライト情報はもう送ったでしょう?」「早く会いたかったから」視線が合い、凛の目に笑みが広がる。「まだ3日も経ってないのに」陽一は言う。「僕にとって、一日でも長く思うんだ」「あなたって……」「ん?」凛は頬を赤らめる。「口がうまいですね……」陽一は真顔で言う。「僕はただ真実を言っているだけだ」「……」ちっ!この親密な光景は、少し離れた場所にいた零の目には、心臓を直撃する刃のように映る。凛の彼氏は庄司陽一!?でも前回病院で会った時、二人はすごくよそよそしくて、全然付き合っているようには見えなかったのに。零は口元を引き締め、急に怒りが込み上げてくる。凛は自分を断るために、わざと役者を雇って、彼氏のフリをさせてるのか!?零は怒りに任せて近づく。「雨宮凛、そこまでする必要ないだろう!」凛は不思議そうにする。「??」零は言う。「僕を拒絶するのは構わないが、人を騙すために……自分を不利な立場に置くような真似はするな」抱き合ったり、べたべたしたり、損をするのはいつも女の方だ。零はまた陽一を見る。「君がなぜ凛の幼稚な芝居に付き合うのかわからないが、その行為が女性の評判に、どれほど致命的な打撃を与えるか理解しているのか」凛に拒絶され、悔しくて落ち込んではいるが、自分はしつこく付きまとうタイプの男ではない。自分を拒むために、他の男と見せかけの関係を演じ、凛自身の評判まで犠牲にするなんて……本当に馬鹿げている。あまりにも馬鹿げているのだ。凛と陽一は視線を合わせる。陽一の目は深く沈んでいき、表情は冷たくなる。『こいつ、やはり僕の彼女を狙っていたのか』凛は零をじっと見る。頭の先からつま先まで、つま先から頭の先まで、まるで初めて会ったかのように。認めざるを得ないが、このお坊っちゃんの価値観は……なかなか正しいものだ。「長谷川さん、誤解だわ」凛は真剣な眼差しで零を見る。「これは芝居じゃないし、彼は私が雇った役者でもない。Z県へ出発する前夜、私たちは正式に付き合い始めたの」零は呆然とする。
Read more

第0968話

「うん……私の言ってること間違っていました?」陽一の額に青筋がピクリと浮かんでいる。凛は笑いながら分析を始める。「彼が怒って詰め寄るんじゃなくて、注意を促す言葉を口にしたってことは、本質的に良い人なんですから。少なくとも価値観に問題はありませんよ」「話を切り出した後も、潔く諦めて引き下がったじゃないですか。しつこく絡まないってことは、節度も自尊心もある証拠ですよ」「プロに関しては……材料学の分野ではかなりの蓄積があります。でないと、若いのにZ県の責任者にあんなに尊敬されるわけないですもの」陽一は聞けば聞くほど、ハンドルを握る手に力が入る。ついに我慢できずに言う。「じゃあ――」っ!しかし女の笑みを含んだ、少し茶化したような視線とぶつかってしまう。「君……わざと言った?」凛はとぼける。「客観的な評価ですよ。わざととか何とかじゃありません」「コホン!」陽一が咳払いをしてから言う。「じゃあ……僕とあの人、どっちが素晴らしい、どっちがプロだと思う?」「あははは……」凛は思わず笑い出した。目尻を下げて笑い、お腹が痛くなるほど笑っている。「まさか……あなたがそれを訊くとは思いませんでした。本当に訊くんですね!あははは……」陽一は呆れる。「わざとじゃないって言うのか?これで自白したのと同じだ!」「あははは……」「まだ笑ってるのか?」凛は言う。「笑っちゃダメなんですか?あなたってほんとにおせっかいですね……あはは……」男の目に一瞬悔しさが浮かぶ。「笑うなよ、凛」「あはは……」「これ以上笑ったら、僕は――」「どうしたいんですか?」凛は教師を恐れない生徒のように、挑戦的に唇を歪め、目にも弱さを見せない。陽一は自身のシートベルトを外し、急に身を乗り出す。距離が急に縮まり、二人の息遣いが触れ合うほど近くなる。凛は笑えなくなり、呼吸も二拍遅れる。「あなた……何をするの……」「まだ笑うのか?」男の目に明らかな侵略性と、息遣いに潜む熱を感じ、思わず唾を飲み込む。「もう笑いませんよ」陽一の真っ黒な瞳は、じっと凛を見つめ、葛藤しているようでもあり、何かを抑えているようでもある。凛が口を開こうとする瞬間、陽一は急に身を引いて、背もたれに凭れながら、重いため息をつく。「何が食べたい?」落
Read more

第0969話

陽一は逆に尋ねる。「僕がなぜ笑ったか、君は分からないのか?」凛は言う。「私が知るべきですか?」「君に関係あることだ。知るべきかどうか、自分で考えてみろ」凛は男の目を見つめる。その奥にある深い情熱は、今にも溢れ出さんばかりだ。「先生、問答ゲームをしましょうか?」陽一は言う。「どうやって?」「一人一問ずつ、交互に、素早く答えること、嘘は禁止です」「いいよ。君から」凛は口を開く。「私はあなたの何番目の彼女ですか?」最初から強烈な質問だ。しかし陽一には難しくない質問だ。「最初の彼女、初恋だ」「初恋」という言葉が陽一の口から出ると、低く、胸の共鳴音が混じり、磁性的でセクシーに響く。この答えは凛も予想していたが、陽一の口から確認されると、やはり驚きと戸惑いを覚える。今まで誰かと付き合ったことがないなんて……陽一は言う。「僕の番だ。なぜさっきの質問をした?気になるのか?」凛は指摘する。「先生、これは二つの質問ですよ」「じゃあ二回に分けて答えて」「はい。まずなぜかというと――これまであなたの感情状態を知らなかったからです。プライベートに関わることですし、立場上深くは聞けませんでした。でも今は付き合っているので、これは彼女なら誰でも気になることです。これからの私たちの距離感にも関わっています」陽一は頷く。「続けてくれ」凛は言う。「私のことをいつから好きになったんですか?」男は数秒間沈黙する。「なぜ躊躇っているんです?」陽一は凛の口調を真似て言う。「凛、これは二つの質問だよ」凛は絶句する。男は一瞬考え込む。「入江の別荘から君を連れ出した時かもしれない。大学院入試の面接で君に質問した時かもしれない。あるいは廊下で初めて会った時、君がラテックスペイントを床にこぼした時かもしれない……」凛は呆然とする。これらは二人が知り合って間もない頃に起きたことばかり。つまり……「そんなに早かったんですか?」凛は小さく呟いた。陽一は笑う。「そろそろ前の質問に答えてくれる番だ」『気になるのか?』と。凛は頷く。「気になります。じゃあ、なぜ躊躇ってたのか答えてください」「多分……」陽一は一瞬言葉を切ってから言う。「好きになってから長すぎて、いつからかを思い出せなくなったから」凛は言う。「そ
Read more

第0970話

朝、体内時計が凛を自然に目覚めさせる。凛は起き上がり、洗面し、着替える。午前中に授業があるが、時間はまだ早く、凛はまずキッチンへ行き、昨夜から炊いていた粥の様子を見る。蓋を開けた瞬間、湯気が立ち上り、米と豆の香りが鼻に抜ける。スプーンで一口味見をして、甘さも柔らかさも丁度良い。凛は電源を切り、火を止める。家には小麦粉が少し残っているから、凛はピザを作ることにする。まずソースを用意する。玉ねぎとにんにくを微塵切りにし、味噌、ケチャップを加え、水で炒め香りを立たせる。仕上げに砂糖で味を調え、オイスターソースと塩を少々加える。ソースが出来たら傍らで冷まし、凛は小麦粉の袋を取り出し、容器に約500gの小麦粉を計り入れる。塩を少し入れて粘りを出し、混ぜ合わせた後、箸で中央に線を引き、粉をほぼ二等分する。常温の水を加えて、生地の形にする。この捏ね方は靖子から教わったもので、冷めても硬くなりにくい利点がある。混ぜ終わると、生地を5分ほど寝かせ、再度捏ねると、瞬く間に滑らかでベタつかない状態になる。さらに生地を15分休ませる間、凛は他の具材も用意する。生地が緩んだら棒で伸ばし、家庭用ホットプレートの大きさに合わせて、一定の厚さに成形する。大きすぎると、焼けないからだ。その後、ブラシで生地全体に油を薄く塗り、円形の生地を8等分の扇形に切り分ける。端から中心に向かって折り畳み、ひとまとめにしてから、また5分休ませてから平らに押し広げ、再び棒で伸ばす。こうして、ホットプレートで焼ける状態になる。両面がきつね色に焼けたらソースを塗り、具材を並ぶと完成する。凛は2枚分を焼いて、4等分に切り分けて、小分け袋に入れる。キッチンの片付けが終わると、牛乳も温まってきた。凛は靴を履き替え、出かけようとする。向かいのドアをノックしようとする瞬間、中から扉が開かれる。陽一は既に身支度を整え、いつでも出掛けられる様子だ。凛は陽一がドアの裏で、自分を待ち伏せしていたんじゃないかと真剣に疑っている。でなければ、どうして毎回こんなにタイミングがぴったりなんだろう?陽一は言う。「行こう」陽一は実験室へ、凛は学校の授業へ向かうのだから、道が一緒なのは言うまでもない。校門まであと少しというところで、凛は袋
Read more
PREV
1
...
9596979899
...
105
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status