「悪いけどね、私、人に毒を盛る趣味はないの。だからさっきあんたが食べたのは、ただの普通の朝食よ……まあ、ちょっと睡眠薬を入れただけ。一時間もしないうちに、八時間か九時間はぐっすり眠れるはず」真奈はそう言って立ち去ろうとしたが、ふと何かを思い出したように振り返った。「そうそう、八、九時間後にはもうコンテナで海城に空輸されてる頃ね。その時は美桜に連絡して迎えに来てもらうわ……帰ったら、せいぜい元気でね」その言葉が心にもないものであることは、誰が聞いてもわかるほどだった。もしこのまま海城へ送り返されたら――美桜の性格からして、高島は間違いなく怒りを買うだろう。「瀬川!おまえ……!」高島は何か言い返そうとしたが、まぶたが重くなり、視界が霞み始めた。次の瞬間、力が抜けたようにその場へ崩れ落ちた。「……ああ、言い忘れてた。睡眠薬のほかに、ほんの少しだけ麻酔薬も混ぜておいたの。安心して眠りなさい。海城に着くまで、何も感じずに済むはずよ」そう言い残し、真奈は踵を返してホテルを後にした。外では、護衛がすでに車のドアを開けて待っていた。「瀬川さん、病院へ戻りますか?」「車を出して。立花の家へ行くわ」「かしこまりました」立花家。書斎では、立花が苛立ちを隠せず、手にしていたダーツを勢いよく的に投げつけていた。「ボス、瀬川が到着しました」その時、ドアの外から馬場が報告する。立花はすぐさま椅子から立ち上がった。「詰め寄りに来たってわけか?」「……おそらく」「入れるな!」だが、言い終えるより先に、真奈はすでに、立花の部屋のドアを勢いよく蹴り開けていた。久しぶりに立花の家に足を踏み入れた真奈は、屋敷の内装を見回した。以前と何ひとつ変わっていなかった。ちょうど掃除をしていた桜井が顔を上げた拍子に、真奈と目が合った。一瞬、彼女は固まったが、真奈はちらりと一瞥をくれただけ。二人のあいだに言葉は交わされず、まるでこれまで一度も会ったことがないかのようだった。「立花、出てこないなら――ぶち壊すわよ!」真奈は声を張り上げ、二階に向かって叫んだ。その声が届いたのか、立花は書斎から即座に姿を現した。そして、真奈の背後に控える十数人の護衛を目にして、今回ばかりは本気だと悟った。「瀬川……こんなに連れてきて、どういうつもりだ?
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