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離婚協議の後、妻は電撃再婚した のすべてのチャプター: チャプター 1651 - チャプター 1660

1833 チャプター

第1651話

白石は一歩ずつ真奈に近づきながら、言葉を重ねた。「あなたが強情なのは知ってるよ。表向きは二度と僕を信じないなんて言いながら、心の中ではずっと僕を庇う言い訳を探して、何か事情があるはずだって思い込もうとしていたんだろ。今だって、僕があなたを本気で傷つけるはずがないって、心のどこかで信じているよな。瀬川さん、あなたは甘すぎる。無理に心を鬼にして誰も信じないように振る舞っても、結局はこの世界に善意が溢れていると信じたいんだ。天真爛漫と言うべきか、それともただの馬鹿と言うべきかな」過去の情景が、次々と真奈の脳裏に浮かんできた。そう、自分は愚かで、馬鹿だった。目の前の男が企みを持っていると分かっていながら、きっと何か深い事情があるはずだと自分に言い聞かせ、どんなことがあっても白石が自分を本気で傷つけるはずがないと信じていたのだ。かつては何でも話し合える友人であり、死線を共にした仲間だったのだから。「私を殺すつもり?それとも捕まえるつもりなの?」「Mグループを差し出すなら、殺さないという選択肢もある。四大家族が光明会のことに首を突っ込まないなら、僕もあなたたちと敵対するのはやめるよ。ただ……あなたがそんな条件を呑むはずがないことも分かっている。だから、無駄な時間を省くために直接手を下すことにしたんだ」白石は薄く微笑んで言った。「知っているだろ。僕は自分自身のことと同じくらい、あなたのことをよく理解しているんだ」真奈は黙り込んだ。「立花は、もう原石をあなたたちに渡したの?」「ああ」白石の肯定的な返事を聞いて、真奈はようやく理解した。なぜ白石が自分たちを捕らえるのではなく、殺すことを選んだのかを。あの立花という男は、自分以上に救いようのない馬鹿だった。あんなにあっさりと、大切なものを渡してしまうなんて。物を手に入れた後に、相手が約束を破って自分を消すかもしれないとは考えなかったのだろうか。「分かったわ。欲しいものは何でもあげる。でも、私の仲間たちは……全員生かして帰しなさい」真奈は、自分たちと光明会の間にある圧倒的な力の差を痛感していた。今回、光明会が自分たちを根こそぎ始末しようとしていないのなら、まだ望みはある。けれど、白石がこれほどの人数を動員している以上、確実に命を狙いに来ているはずだ。自分たちが死ね
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第1652話

白石は契約書を手にし、苦笑いを浮かべて言った。「瀬川さん、さっきも言ったが、立花を渡してもいいけど、彼があなたについて行くとは限らないよ」「ついて来るかどうかは私の問題。人を渡すのはあなたが私と約束したことよ」「わかった。どうせこいつは僕にとってもう用済みだ。渡さない理由もないしね」白石が軽く手を挙げると、すぐに部下が立花を連れて現れた。真奈と馬場の姿を目にした瞬間、立花の表情はひどく険しくなった。まるで、真奈がここへ来たことを責めているようだった。「こっちに来なさい!」真奈の声には怒りが滲んでいた。立花は思わず一歩踏み出したが、すぐに険しい顔になって吐き捨てた。「帰らない。お前たち、さっさと行け!」「立花、いつまで子供みたいな真似してるの?原石も渡したし、私の会社だって失ったのよ!あなたを連れ帰らなきゃ、みんなに顔向けできないわ!」それを聞くと、立花の顔はますます険しくなり、拳を握りしめた。目の前の真奈を冷ややかに見据え、吐き捨てるように言った。「俺たちは根本的に合わない。瀬川さん、全部君の自惚れだ!さっさと行け!君の顔など見たくもない!」「ボス!俺はご一緒に!」馬場が一歩前へ出たが、肩の傷のせいでその顔は紙のように白くなっていた。立花の声は、いっそう冷たく沈んでいった。「話が通じないのか?言ったはずだ、お前らになんて会いたくない。光明会の方が俺に多くのものをくれる。最初からお前らとは、ただの利害関係でいただけなんだ。昔も、今も、これからもな。お前らを友達だと思ったことなんて、ただの一度もない」真奈には、立花の目が赤く充血しているのがはっきりと見えた。その眼差しには冷酷さと嫌悪が混じっている。自分たちが来たことに、激しい拒絶反応を示しているようだった。「瀬川さん、これではっきりしただろ?僕が離さないんじゃない。彼が帰りたくないんだ」白石は淡々と告げた。「あなたが引き際を知らない女じゃないことは分かっている。今の君は僕にとって脅威ですらない。逃がしてあげるよ。これが、僕たちの最後の友情へのせめてもの手向けだ」「あなたとの友情なんてないわ」真奈は立花をじっと見据えたまま、氷のように冷たい声で言った。「立花、最後にもう一度聞くわ。本当に私と来ないのね?」「親戚でも何でもないのに、何で俺がつい
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第1653話

「白石、私たちはもう行ってもいい?」「ご自由に」白石は道を開けた。真奈はようやく馬場を連れ、森の反対側へと歩き出した。馬場の傷は一刻を争う状態だった。立ち去る際、真奈は立花を一瞥した。もし立花が共に去る道を選んでいれば、死ぬ気で光明会と戦うつもりだった。けれど、立花はそうしなかった。真奈は馬場を支えながら、来た道を引き返すしかなかった。「本当にあいつらを行かせるのか?」光明会の一人が前に出て、白石の判断に疑問を投げかけた。それを聞いた瞬間、立花の声が冷たく響いた。「彼らに指一本でも触れてみろ!」「立花社長、落ち着いて。さっきのあなたは実に見事だった。僕も約束は必ず守るよ」白石は契約書を手にし、こう続けた。「それに、目的のものはもう手に入ったんだ。無用な争いはしたくない」その頃。真奈は安全な場所を見つけていた。馬場の傷を急いで処置しなければならないが、この深い森を抜けるのにどれだけ時間がかかるか見当もつかなかった。馬場が傷の応急処置を終え、真奈が汲んできた湧き水を口にすると、ようやくたまらずに問いかけた。「瀬川さん、本当に会社をあいつらに譲るつもりですか?」「譲る?冗談はやめて」真奈は淡々と言った。「立花も救い出せていないのに、Mグループまでタダで差し出すの?私が馬鹿じゃないわ」「では、さっきの契約書は……」「サインはしたけど、あれは無効よ」「どうしてですか?」馬場は呆然とした。さっき真奈が署名するのを、この目で確かに見ていたのだ。なぜ無効だと言い切れるのか。真奈は説明した。「あの40%以上の株を、光明会が本気でいらないなんて言うと思う?光明会のやり方なら、取れるだけ取って、しゃぶり尽くすに決まってる。目の前のおいしい獲物を逃すわけがない。だから会議室で白石に株を返せって言ったのは、白石が自然な流れで私に連絡してくる口実を作るためだったの。そうしなきゃ立花に会うことも、白石と交渉することもできなかったでしょ」「ということは、瀬川さんは最初から策を練っていたんですか?」「ここへ来る前に、私が持っていたMグループの株はすべて遼介の名義に移しておいたわ。さっきの契約書にサインしたのは瀬川真奈であって、遼介じゃない。今の私が持っている株はゼロ。だから、瀬川真奈がサインした譲渡契
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第1654話

真奈が反応する間もなく、馬場は先手を打って彼女を地面に押し倒した。あまりに唐突な出来事だった。真奈の体が状況に追いつく間もなく、立て続けに放たれた弾丸が馬場の体を貫いていく。「馬場!」真奈は悲鳴を上げた。馬場はすぐさま真奈を物陰へと避難させた。彼は真奈を前方の密林へと押しやり、太い樹木が彼女の体を隠した。倒れた巨木が絶好の遮蔽物となった。追撃の弾丸が、馬場のふくらはぎを容赦なく撃ち抜く。すべてが一瞬の出来事だった。真奈の頭の中は真っ白になり、目の前はすでに血に染まっていた。馬場の全身には無数の弾痕が刻まれ、そこから絶え間なく血が溢れ出している。それでも馬場は、その両目を大きく見開いたまま前方を見据え、真奈の両肩を力任せに掴んだ。「約束を……忘れるな……」肩を掴んでいた馬場の手が力なく滑り落ち、真奈の白いシャツは見る影もなく血にまみれた。「瀬川さん、かくれんぼはもう終わりよ」女のけだるい声が、真奈の耳に届いた。陶子の声だ。陶子は薄笑いを浮かべて言った。「ここはもう、私の手下で包囲されているわ。逃げられるはずがないもの」樹木の陰に隠れる真奈は、目を血走らせた。陶子の声がすぐ近くから響いてくる。「白石があなたを殺せないのは分かっていたわ。だから私が、彼の代わりにこの厄介払いをしに来てあげたの」「前に言っていたわよね。愛する人も友人も何より大切で、周りの人間は決して傷つかせないって。今、友人が自分のために死んでいくのを見て、どんな気分かしら?」「本当に興味深いわ。周りの友人が一人、また一人と倒れていくのを見て、それでも今みたいに強がっていられるのかしらね」「本当はあなたを殺したくなんてない。でも、生かしておけばいずれ災いになる」「主にとって脅威となる存在を、この世に生かしておくわけにはいかないの」……主?なんの主?真奈は拳を強く握りしめ、目つきも次第に鋭くなっていった。こんなふうに人の命を虫けらみたいに扱う畜生に、そこまで人に敬われる資格があるのか?自分の私欲のために地獄を築き上げた悪魔のくせに、白々しい理屈で自分の罪を塗り隠している。本当に気持ち悪い!真奈は腰に隠し持っていた拳銃を握り締めた。相手がどれだけ人がいるかは分かっている。けれど、そんなことはど
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第1655話

真奈の脳裏には、出発前に黒澤が拳銃を手渡してくれた時の言葉が浮かんでいた。「弾は六発しかない。本当に何かあったら、弾倉を詰め替える余裕なんてないはずだ。だから……よく狙って撃て」真奈の狙いは正確だった。けれど、いかんせん敵の数が多すぎた。自分が黒澤に返した言葉が、再び耳の奥で響く。「たとえ弾を使い果たしても、その時にはもう、あなたは私のそばにいてくれるでしょ?」残念ながら。今回は、間に合わなかった。「バン――!」一発の銃声が、静まり返った空を切り裂いた。傭兵たちの援護を受けながら、陶子の放った弾丸が真っ直ぐに真奈の胸を撃ち抜いた。その頃、銃声を聞きつけた幸江が、後ろに続く仲間たちに叫んでいた。「急いで!早くして!」伊藤遅周や佐藤泰一たちも、必死で森の中を突き進んでいた。彼らは外で待っていたわけではなく、黒澤が向かって間もなく、自分たちも森の中へ入っていたのだ。人数がいたおかげで、それぞれの記憶を頼りにすぐさま方角を割り出すことができた。信号弾を確認するやいなや、すぐに駆けつけていた。銃声はますます近づいてきた。けれど、最後の一発を境に、辺りはしんと静まり返った。「お嬢様、誰か来ます」傭兵の一人が、大勢の人間がこちらへ近づいているのを素早く察知した。陶子は眉をひそめ、少し離れた場所に倒れている真奈を一瞥した。彼女は冷徹な表情で命じた。「撤退よ!」「はっ!」少し離れた森の中、黒澤は信号弾が上がった地点にたどり着いていた。けれど、そこには誰の姿もなかった。銃声はもう聞こえない。ただ、空気の中にはどろりとした血の匂いが漂っていた。「黒澤様、すぐ前です!」部下の話が終わるのを待たず、黒澤はすでに前方へと駆け出していた。後ろにいた者たちは黒澤の速度についていくことができなかった。真奈!待ってくれ!黒澤の心は焦燥で焼き尽くされそうだった。もしこの森に人為的な細工が施されていなければ、こんなふうに足止めを食らうこともなかったのだ。胸のざわつきが、不吉な予感となって彼を責め立てる。ただの考えすぎであってくれ。そう願う一方で、言葉にできないほど強烈な不安が彼を押し潰そうとしていた。どれほど走り続けたか分からない。黒澤はようやく、密林にたどり着いた。ここが、
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第1656話

「ゴホゴホ――!」地面に倒れていた真奈が、突然激しく咳き込み始めた。皆が悲しみに暮れる中、真奈は口から血を吐いた。「真奈……」幸江と伊藤は大喜びし、傍らで目を赤くしていた佐藤泰一も、真奈が目を開けたその瞬間、思わず喜びに満ちた笑みを浮かべた。「止血剤!早く!」黒澤が真っ先に我に返り、佐藤泰一もすぐに人に薬箱を持たせて駆け寄らせた。ウィリアムが慌てて後を追うように駆けつけてきたが、血の海に倒れる真奈を見て、思わず呆然と立ち尽くした。「なんてこった!」「真奈、大丈夫?どこが痛い?」幸江はもう言葉もまともに出なかった。真奈が血まみれで倒れているのを見た時の恐怖は、どれほどだったか、到底言葉では言い表せない。「彼女は今話せません」ウィリアムは足早に真奈の元へ駆け寄り、すぐさま止血の処置に取りかかった。真奈の胸からは大量の血が溢れ出し、彼女の体を赤く染め上げていた。黒澤は傍らで、言葉一つ満足に発することができなかった。ただ真奈の手を壊れそうなほど強く握りしめ、彼女が目を開け、安心させるような眼差しを自分に向けるのをじっと見つめていた。「もう大丈夫だ……大丈夫から……」黒澤は何度も真奈に言い聞かせ、同時に自分自身にも言い聞かせているようだった。「だい……じょうぶ」真奈は小声で言った。胸元に下げていた玉のお守りが、運よく弾丸の直撃を跳ね返し、一命を取り留めたのだ。それは、馬場から託されたお守りだった。真奈の目尻から、涙が静かに溢れ出した。二度と友人を傷つけさせないと誓ったのに、またしても約束を破ってしまった。「なにボーっとしていますか?手を貸してください!俺一人で救助に当たっているのですか?」ウィリアムは険しい顔で、立ち尽くしている面々を怒鳴りつけた。「急がないと、あと一時間で冷たくなってしまいます!」お守りが弾丸を防いだとはいえ、それはあくまで石に過ぎない。弾丸は真奈の胸を貫いていた。幸い、そこまで深くはなかったが。「あ!ああ!」幸江が真っ先に反応し、佐藤泰一も即座に担架を運ばせた。「俺がやる」黒澤は真奈を抱き上げ、担架へと静かに横たえた。その様子を見ていた誰もが、胸を締め付けられる思いだった。真奈が搬送されていくのを見送ると、黒澤の瞳からは温もりが消え、冷徹な光
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第1657話

「ダメ!二人とも正気じゃないわ!もし真奈が知ったら…」「もし真奈が知ったら、きっと俺たちに賛成してくれる」佐藤泰一は、真奈が心の内で何を考えているか分かっている。光明会の連中が馬場を殺した。真奈には今の体で馬場の仇を討つ力はない。けれど、自分たちにはその力がある。光明会を一網打尽にすることはできなくとも、少なくとも自分たちが決して侮れない相手だということを、連中に思い知らせる必要があった。「君の部下を連れて行け」黒澤の一言で、背後に控えていた者たちが一斉に動き出した。佐藤泰一もまた、佐藤家のボディガードたちを率いて森の奥へと突き進んでいく。伊藤は呆然と呟いた。「狂ってる……みんな狂っちまったのかよ!」傍らにいた幸江は、黒澤と佐藤泰一が森へ向かうのを見て言い放った。「私も、前から光明会のクソ野郎どもを懲らしめてやりたいと思ってたのよ!何かあるとすぐ仮面をかぶってマントに身を包む。まったく、どいつもこいつも人前に出られない、下水道のドブネズミどもよ!」「美琴……無茶言うなよ!」伊藤は、幸江のその一言に、もう泣くに泣けない顔をした。他の連中はともかく、喧嘩の強さと気性の激しさに関しては、幸江と黒澤は間違いなく血の繋がった親戚だった。しかも、一度幸江が本気で手を下せば、相手の末路は見るに堪えない惨状になるのが常だ。「あなたが行かないなら、私一人で行くわ!」幸江はさらに続けた。「狂うなら狂いなさいよ。人生、一度くらい正気を失う時があったっていいわ!」そう言うなり、幸江は肌身離さず持っていた銃器を取り出した。その光景を目の当たりにした伊藤の顔色が、一瞬で土気色に変わった。「本気かよ……?」伊藤は幸江が銃を持ち歩いていたことなど露ほども知らず、幸江もまた彼に教えてはいなかったのだ。伊藤の表情は険しかった。幸江は言った。「怖いなら戻って真奈の世話でもしてなさい。私の足手まといにならないでよね!」そう言うと、幸江は密林へと歩き出した。伊藤は幸江の後ろ姿を見送りながら、自分が彼女の前ではまるで守られるだけの頼りない男のように思えてきて、ハッとした。伊藤は奥歯を噛み締め、叫んだ。「男を見せりゃいいんだろ?今回こそ、俺の男らしいところを拝ませてやるよ!」伊藤はそう息巻くと、後ろに控えていた手下に詰め
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第1658話

すべてが電光石火の出来事だった。伊藤はこの銃撃戦がどう始まったのかさえ分からなかった。「伊藤!何ぼーっとしてるのよ!さっさと隠れなさい!」幸江の一喝で、伊藤はようやく自分が隠れる必要があることに気づいた。この銃撃戦では、誰もが命がけだった。弾丸に目はない。遮蔽物を見つけられなければ、いつ命を落としてもおかしくなかった。伊藤は素早く大木の陰に潜り込んだ。恐れを知らずに突き進む幸江の姿を見て、ふと子供の頃を思い出した。幸江は昔から、黒澤おじいさんが最も目をかけていたお気に入りだった。子供の頃は、幸江が女だからと高をくくって、ただの見かけ倒しだなんて思っていたけれど、大人になった今、その実力差は一目瞭然だった。彼はようやく、黒澤おじいさんがなぜ幸江をそんなに気に入っていたのかわかった。それに比べて自分は、弱すぎて話にならない。その頃。前方にいた陶子も、相手が何人いるのか即座には判断できずにいた。部下が慌てて陶子の元へ走り寄り、潜伏させていた味方が黒澤に仕留められたと報告してきた。敵の正確な人数が掴めないため、迂闊に動くこともできない。陶子の瞳が冷たく沈んだ。真奈が死んだからこそ、黒澤たちはなりふり構わず自分たちの命を獲りに来ているのだろう。「馬鹿げている。身の程知らずね。彼らは少しは知恵が回ると思っていたけれど、どうやら救いようのない馬鹿だったみたいね」陶子は冷酷に言い放った。「白石の部下をこちらに合流させなさい。彼らを包囲して一網打尽にするわよ」「お嬢様、それは不可能です」「どういう意味?」「若様の部下は、すでに撤退しました」「撤退した?誰が撤退させたんだ!」陶子の顔が怒りでいっそう険しくなった。彼女は今回、独断で洛城から戻ってきたため、手下をほとんど連れてきていなかった。さっきの十数人のうち、六人も真奈に撃ち殺されたのだ。そこへ黒澤の部下が攻め込んできた今、彼女の周りには数えるほどの手下しか残っていない。こんな時に白石の部下が撤退した?「お嬢様、あいつら山に火を放ちました!」その一言に、陶子の顔から一気に血の気が引いた。「死ぬ気なの?」山に火を放てば、ひとたび燃え広がったとき、彼らもただでは済まない。これは勝っても大損するやり方だ。「全員撤退
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第1659話

黒澤は普段、真奈の後ろに控えて影が薄い。だが肝心な場面では、こんな陰湿な策に出るのだ。「お嬢様、前方の道が火の手で塞がれています!」陶子は素早く状況を分析した。黒澤はおそらく早くから準備を整え、自分たちの撤退ルートを完璧に把握した上で、銃撃戦を利用して自分たちを罠へと誘導したのだ。実のところ、これ自体はさほど高度な計略ではない。恐ろしいのは、黒澤がこれほど短時間で作戦を立て、内部の調整に時間をかけることもなくこの伏撃を完遂させたことだ。「お嬢様、どうしましょう!」火勢はますます強くなり、黒澤たちは無差別に火を広げるのではなく、あえて開けた水場に近い場所を選んでいた。自分たちを焼き殺した後、速やかに消火できるように計算しているのだ。この密林には木々が密集しているため、四方八方に逃げ道などほとんど残されていなかった。陶子は奥歯を噛み締めると、近くにいた一人を力任せに引き寄せた。その男は反応する間もなく、陶子によって肉の盾にされ、迫りくる炎を遮る壁にされた。背後にいた者たちは呆然と立ち尽くした。陶子が自分たちの命を盾に使うなんて、夢にも思わなかったのだ。「私たちのために死ねるんだから、誇りに思いなさい!」陶子は目の前の男が必死にもがくのを意に介さなかった。男は炎にぐるりと囲まれ、全身から焦げた臭いが立ちのぼっていた。陶子は口と鼻を押さえ、包囲を突破すると同時に、用済みとなった男を地面に投げ捨てた。取り残された者たちは火の輪を抜ける術もなく、ただその場で死を待つしかなかった。陶子の体もまた、至る所が熱で焼けただれていた。けれど彼女は、背後から上がる凄惨な悲鳴に一度も振り返ることなく、一目散に火場から逃げ出した。黒澤はすでに時間を計算し終えていた。佐藤泰一の部下たちは、先ほどから万全の態勢で消火作業の準備を整えている。この連中は死んで当然だが、森の生態系まで壊すわけにはいかない。昔の黒澤なら、山ごと焼き払っても何とも思わなかっただろう。けれど、今は真奈がいる。これからの二人のために、少しでも善行を重ねておきたかった。ほどなくして周囲の火は消し止められたが、中にいた者たちは見る影もなく焼け爛れていた。「馬場を殺したのは、この連中なの?」幸江と伊藤が駆けつけた時、そこに転がっていたのは死体の山だけ
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第1660話

無様な姿の陶子を冷めた目で見据え、白石は眉を動かして言い放った。「僕の計画に最初から君なんて入っていないよ。主に黙って洛城から海城へ勝手に戻ってきたんだろう?よくもまあ、そんな顔で僕に指図ができるね」「あなた!」陶子は目の前の白石を憎々しげに睨みつけた。彼女の全身は今、火傷の痛みに苛まれており、その形相は鬼気迫るほどに歪んでいた。白石はどこ吹く風といった様子で続けた。「楠木さんを治療に連れて行ってあげて。ただ、ここは山の中だ。戻るのに二時間はかかるだろうけど、精々耐えてもらうしかない」言い捨てると、白石は部下を引き連れてその場を後にした。去り際、わざとらしく憐れむような声を残して。「せっかくのきれいな顔が台無しだ。本当にもったいないな」背後で、陶子は拳を固く握りしめた。その頃、救急車の中では。真奈が再び激しく血を吐き、ウィリアムの白衣を赤く染め上げた。「おっと!」ウィリアムは思わず汚いと文句を言いそうになったが、担架の上で死人のように青ざめている真奈を見て、言葉を飲み込んだ。何としても真奈を助け出さなければならない。それが、佐藤茂と交わした約束だった。もし今日真奈に万一のことがあれば、自分がどうなるか想像すらできない。「ウィリアム先生、もう一本鎮痛剤を!一刻も早く弾丸を摘出しないと」「言われなくても分かってるぞ!」ウィリアムは毒づいた。「全く、命知らずにも程がある。何も心臓のすぐそばを撃たれるなんて!医者を困らせるつもりか?」口では不満を並べながらも、ウィリアムの手は一瞬たりとも止まらなかった。揺れる車内という最悪の条件下だが、猶予はなかった。傷口に応急処置を施し、車内で弾丸を抜き取るしかない。ここは人里離れた山中で、市内の病院まではまだ相当な距離がある。弾丸を放置すれば感染症を引き起こし、手遅れになるのは目に見えていた。横たわる真奈が、消え入るような声で囁いた。「ウィリアム……そのままやって。私、痛みには強いから」「大丈夫です。鎮痛剤をもう一発打ったところで、バカになりません!」ウィリアムは鎮痛剤を惜しんでいるわけではなかった。ただ、真奈が痛みでショック死することだけは何としても避けたかったのだ。もしそうなれば、どんなに言い訳を並べたところで誰も許してはくれないだろ
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