All Chapters of 離婚協議の後、妻は電撃再婚した: Chapter 611 - Chapter 620

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第611話

ボディーガードたちはようやく空気を読んだのか、冬城の顔色をうかがったうえで、しぶしぶその場を離れていった。全員が立ち去ったのを見届けて、真奈はようやく大きく息をついた。冬城が再び彼女のもとへ歩み寄り、そっと額に手を当てる。「ずいぶん熱があるな……どうしてこんなに?」「あなたのおば様に聞いて。さっき、さんざん振り回されたんだから」荒れ果てた部屋を見渡しながら、真奈はふと思った。自分は一体どんな罰を受けているんだろうか。どうして一日くらい、平穏に過ごせないんだろう。「あっちの件は、俺がどうにかする」「わかってる。私が口を出すつもりはないわ」そう言って真奈は立ち上がろうとした。だがその瞬間、ふらりと体が揺れ、視界が真っ暗になった。意識が遠のいていくなか、誰かが自分の名前を呼ぶ声が、かすかに耳に届いた気がした。冬城がすぐさま駆け寄って彼女を抱きとめた……が、次の瞬間、真奈の身体は別の人物の腕の中にいた。「もういいよ、冬城総裁。彼女のことは俺が見る。恋人なんで」黒澤は真奈を抱き上げ、冬城には目もくれなかった。「待て!」低く鋭い声が響き、冬城が黒澤の行く手をふさぐ。黒澤の腕の中でぐったりとした真奈を見下ろし、嘲るように笑った。「恋人?だったら、お前は、その恋人があんな目に遭ってるのを黙って見てたのか?」「彼女はただ護られるだけのか弱い女じゃない」黒澤は目を細め、冬城を見据えた。「それに――さっき真奈を困らせたのは、そっちの家の人間だったはずだ」その一言に、冬城は返す言葉が見つからなかった。ちょうどその時、扉の外から伊藤が咳払いをして声をかけてきた。「まあまあ……皆真奈のことを思っての行動だし。冬城総裁、今は彼女も熱があるし、こちらの方が環境も整っている。医者もすでに手配済みだし、遼介も彼女のことを考えて動いているんだ。ここはひとつ、後の片づけをお願いできないか」整っていたはずの部屋は、見るも無残に荒れ果てていた。きちんと片付けないと、もう住めなくなるかもしれない。冬城は眉間にしわを寄せた。「……真奈は任せた。頼んだぞ、ちゃんと世話をしてやれ」「彼女は俺の恋人だ。当然、しっかり面倒を見るよ」黒澤の真奈に対する独占欲に、冬城の胸には言いようのない不快感が渦巻いた。だが、この家の場所はすでに岡
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第612話

「来た来た!うるさいな!」そう言いながら、金髪碧眼の男が医療箱を抱えて小走りで駆け込んできた。年の頃は二十代後半、落ち着いた雰囲気の整った顔立ち。にもかかわらず、どこか砕けた口調とのギャップがすさまじい。「急げって。下手したら人が危ない。遼介に病院ぶっ壊されるぞ!」「それならぜひお願いしたいね!もう週休1日の激務にはうんざりなんだよ!マジで頼む、病院ごとぶっ壊してくれ!」黒澤が低い声で言い放つ。「次ふざけたら、お前の頭をぶっ壊してやる」その一言で、さすがのウィリアムも笑いを引っ込め、すぐに真奈の容体を確認し始めた。簡単に診察を終えると、肩をすくめて言った。「まあ、熱はちょっと高めだけど……他には特に異常ないよ」「何言ってんだ、お前は」伊藤が呆れたように口を挟む。「無事だっただけありがたいと思え。じゃなきゃ、遼介がお前の病院の看板を木っ端みじんにするぞ」ウィリアムは恨みがましい目で伊藤を見た。視線を受けた伊藤がぞくっとして言う。「……俺を見るなよ。診ろっての。解熱剤、持ってきたんだろ?」言われて、ウィリアムは医療箱から解熱剤を取り出した。「ていうかさ、今後こんな軽い症状で呼ばないでよな。こっちはまだ何件もオペ残ってんの。週休1日とかほんと地獄なんだから。残業させるくせに手当も出さないし、それでいてこんな遠くまで呼び出して……うちの上司ってばさあ……」「その上司さんが、今ここにいるぞ。本人に言ってみろ」そう言いながら、伊藤は入り口にいる佐藤茂を指さした。車椅子に座った佐藤茂は、どこか笑っているような、しかし目は笑っていない表情でウィリアムを見つめた。「さっき……誰か、不満を言ってる声が聞こえたような気がするけど?」その姿を目にしたウィリアムは、態度を一変させ、すぐさますり寄るように近づいた。「ボス、まさか、そんな……俺が文句なんて言うわけないじゃないですか!ほかの人は知りませんが、俺だけは絶対に言いませんよ!俺はボスに一生ついていくタイプですから!愛してますよ、マジで!」そのやり取りを聞いていた伊藤は、ぞわっと全身に鳥肌が立った。うそだろ……あんなイケメンの男が、どうしてこんなに情けない態度取れるんだよ……伊藤は心の中で盛大に呆れた。「全員、出て行け」黒澤は真奈から目を離すことなく、低く冷ややか
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第613話

なるほど、瀬川家の令嬢だったのか。「立花総裁、あの瀬川賢治は当時、我々のカジノで相当な額を失い、それが瀬川家の破産につながりました。瀬川真奈が総裁に近づいているのも、何か企みがあるのではと……処理いたしましょうか」そう言って、森田は喉元を切るような仕草を見せた。「いや、放っておけ。俺がやる」森田は驚いた。「ご自身で?そんなお手間を……」「彼女、いまうちの島で番組を撮っていると言ったな?」「はい。ただ、世間の騒ぎの影響で収録は一時中断しています。とはいえ契約期間は残っていますから、番組関係者もすぐには撤収できないかと」「準備しておけ。ちょうど別の場所で休暇を取りたいと思っていたところだ」立花が島へ向かう意志を示すと、森田は慌てて声を上げた。「ですが総裁、島には瀬川だけでなく、冬城もおります。もし万が一のことが……」その言葉が言い終わらぬうちに、立花の視線が鋭く細まり、冷ややかな光を帯びた。「……俺に指図するつもりか?」「と、とんでもございません!」森田は顔色を変え、深々と頭を下げた。「言ったとおりにしろ」「かしこまりました、総裁!」森田が退出したあと、立花はパソコンに映る真奈の写真をじっと見つめ、冷たく笑みを浮かべた。「瀬川真奈……瀬川家の娘、ね……面白い」夜もすっかり更けたころ、真奈はゆっくりと目を覚ました。体中が重く、節々が痛む。なんとか体を起こしたその時、ちょうどドアの前でタオルを替えていたメイドが、はっとして声を上げた。「瀬川さん、お目覚めになりました!」すぐに部屋の中がぱっと明るくなり、メイドが照明をつけながら駆け寄ってきた。「どこか、まだ具合の悪いところはありますか?」「……頭が重くて、足元がふらつくわ」真奈は今の状態を簡潔に伝えた。だが、昼間に比べればずいぶん楽になっていた。ふと周囲の内装に目をやり、続けてベッドの脇に立つメイドを見て尋ねた。「……ここは、どこ?」一目見ただけで、番組スタッフが借りたあの小さな家ではないことがわかる。「ここは――」メイドが答えるより先に、黒澤が温かいお粥を手にして部屋へ入ってきた。「佐藤茂の家だ」「……佐藤さん?」真奈は戸惑いの色を浮かべた。佐藤茂が島に来ているなんて、聞いていない。彼女の記憶の中には、そんな情報はなかっ
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第614話

ウィリアムは一晩中負け続け、ついにはパンツ一枚までスッてしまい、リビングからは時おり、彼と伊藤の口げんか混じりの騒がしい声が響いてきた。部屋の中では、真奈がテレビをつけていた。深夜のニュース番組では、彼女と冬城の離婚騒動が繰り返し取り上げられ、画面にはぼやけた黒澤の後ろ姿が映し出されていた。その写真には大きく「現代のヒモ王」というテロップが添えられている。深刻な状況のはずだったが、「現代のヒモ王」という文字を見た瞬間、真奈はこらえきれず噴き出してしまった。傍らで黒澤が眉をひそめる。「そんなにおかしいか?」「面白くない?ヒモ王さん」真奈はお腹を抱えながら笑い転げた。「普段はあんなに冷静で強面の黒澤様がよ?海城で冬城と並ぶトップが、ヒモ扱いされる日が来るなんて」黒澤は呆れたように真奈の額を軽く小突いた。「恩知らずめ……」その声には、どこか優しさが滲んでいた。「私が恩知らず?ちょっと聞くけど、誰の許可で島に来たの?私と冬城の漁網にロブスターやカニ入れたのも、あなただよね?」あの時は確かに不思議に思った。でもてっきり番組の演出だと思っていて、まさか黒澤の仕業だとは夢にも思わなかった。けれど今思えば、きっと冬城と二人きりになるのが気がかりで、彼はわざわざ駆けつけてきたのだ。黒澤はくすっと笑って言った。「お前がちゃんと飯食えてるか、心配だっただけだ」「本当は、冬城と任務組まされるのがイヤだったんじゃないの?」「分かってて聞くなよ」不満げに眉をひそめた黒澤だったが、次の瞬間、ポケットから新品のスマートフォンを取り出した。真奈はそれを受け取りながら、眉をひそめて言う。「まさか……黒澤様、こんな遠くまでわざわざこれを届けに?」「急だったからな。伊藤に買わせた。お前の携帯は、もう使えなくなってたから」真奈は眉を上げた。「ちょうどよかった。SIMカード、さっき捨てたとこだったし」今のネットユーザーは確かに優秀だが、わざわざ真奈の電話番号を執拗に探し出すほど暇な人間はいない。それなのに番号がネット上で拡散されているのは、誰かが意図的に流したからに違いなかった。真奈は、そのことをよくわかっていた。本来なら、冬城おばあさんと真っ向から争うつもりなどなかった。年長者に対する敬意は持っていたし、たとえあの人が少々非常識だったと
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第615話

岡田夫人は、内心ひどく不満だった。わざわざ海外から帰国してきたのは、冬城の叔母という肩書きを利用して、海城でひと儲けしようという目論見があったからだ。だが、戻ってきてまだ二日と経たないうちに、冬城本人から冷たく追い返され、しかも冬城グループのボディガードたちの前で、これでもかというほど恥をかかされた。まったく、頭にくる!そう思えば思うほど、肩を揉む手にも自然と力が入る。「おば様……どうか、私のこと、お力添えいただけないか?」「自分が無能だったくせに、司がかばったからって八つ当たりするんじゃないよ」冬城おばあさんは眉間にしわを寄せ、頭を押さえながら吐き捨てるように言った。岡田夫人は長年海外に出ていたのだから、多少は物の見方も広くなっているだろうと期待していたのに……まさか真奈に軽くあしらわれ、こんなみっともない格好で戻ってくるとは。まったく、使えない女だよ……「おば様……」岡田夫人がさらに甘えるように声をかけようとしたそのとき、冬城おばあさんは不機嫌そうに手を振った。「もういいわ。どうせ連れ戻せなかったんでしょう?ならそれで結構。代わりに、他の者に行かせるだけだよ」「それって……」岡田夫人はぽかんとした顔で、相手の言葉の意味を測りかねていた。その時、玄関のチャイムが鳴った。冬城おばあさんの目配せを受けて、大垣さんがドアを開けに行く。するとそこには、シャンパンゴールドのボディコンワンピースをまとい、耳には小ぶりな真珠のピアス、指にはひときわ目を引く大粒のダイヤの指輪をはめた浅井が、にこやかな笑みを浮かべながら立っていた。その姿を見て、大垣さんは思わず目を見張った。「大垣さん、お久しぶりね」浅井は以前とはまるで別人だった。所作ひとつひとつに洗練された上流の気品がにじみ出ている。まるで一夜にして醜いアヒルの子が白鳥に変貌したかのようだった。「あなたは……浅井さん?」「はい。大奥様にお呼ばれしてきたのよ。ご迷惑ではないよね?」「えっと……」大垣さんが戸惑いがちに後ろを振り返ると、冬城おばあさんが満面の笑みを浮かべて手を振っていた。「夕夏、こっちへ」浅井は自然な足取りで冬城おばあさんのそばへ行き、迷いなく腰を下ろす。「おばあさま、そんなに急いで呼びつけて……何かあったんですか?」「あの……浅井さ
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第616話

浅井が冬城おばあさんに親しげに寄り添う様子を見て、岡田夫人はその場に立ったまま、いたたまれないような表情を浮かべていた。ひとしきりの挨拶と世間話が交わされた後、冬城おばあさんはふと岡田夫人に目を向けて、問いかけた。「……どうしてまだそこに立っているの?」「私……」岡田夫人の顔が少し引きつる。だが冬城おばあさんは、それに構うことなく手をひらひらと振り、ややうんざりした口調で言った。「今日はもう帰りなさい。夕夏と話したいことがあるの」「でも……」まだ何か言いたげな様子の岡田夫人だったが、冬城おばあさんの態度は明らかだった。その様子を見ていた浅井は、柔らかく微笑んで言った。「岡田夫人、どうやらおばあ様にまだお話になりたいことがあるようですね。私、先に失礼しましょうか」だが、その申し出に冬城おばあさんは何も答えなかった。その沈黙を見てとった岡田夫人は、場の空気を敏感に察した。「いえ、私の方こそ家に用事があって。今日はこれで失礼するわ」岡田夫人は気まずそうにその場を退いた。だが去り際、ちらりと浅井の指元を見て、視線を止めた。あの指輪……記憶が確かなら、あれは冬城家に代々伝わる家宝のはずだ。まさか……このババア、司と浅井を結婚させるつもりなのか?もし本当にそうなら、冬城家の財産を分ける人間が、また一人増えることになる。「大垣さん、田沼さんにお茶を出しなさい」「かしこまりました、大奥様」しばらくしてようやく我に返った大垣さんは、慌ただしくお茶の用意を始めた。だがその視線は、ずっと冬城おばあさんと浅井の姿に注がれたままだった。もともとこの二人の関係は良好とは言えなかったはず。それが今になって、どうしてこんなに打ち解けた様子を見せているのか。この裏には、何かあるはずだ。そう確信した大垣さんは、そっと携帯電話を取り出し、その夜の出来事をすべて真奈に送信した。翌朝早く、黒澤の車が真奈を番組収録用の家へ送り届けた。昨日は荒れ果てていたリビングも、今ではすっかり片づけられ、見違えるほどきれいになっていた。スタッフたちはすでに家に到着しており、真奈が戻ってくると、ディレクターが階段を降りてきて声をかけた。「瀬川さん、昨日話し合った結果ですが、これまでの収録形式を変更し、生配信に切り替えることにしました。基本的には自由に
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第617話

山田も冬城の前まで歩み寄り、素直な口調で挨拶をした。「総裁、はじめまして。山田大和と申します。冬城グループ所属の俳優です」山田はに明るい青年だったが、冬城は軽く頷いただけで、それ以上の反応はなかった。そして残りの2組。一組は、かつて業界内で「理想の夫婦」と呼ばれた有名なカップル。共演をきっかけに恋に落ち、10年にわたって同居したものの、最終的には別れた。すでに五十を過ぎた中年俳優・宮城完司(みやぎ かんじ)と、かつて「時代の女神」と呼ばれた女優・森弘子(もり ひろこ)だった。「ついにお会いできたわね、噂のドS系総裁さん」甘ったるく艶めいた声が、少し離れたところから響いた。その声を聞いた瞬間、周囲の人々の表情がわずかに曇った。振り向くと、そこには大胆なカッティングのセクシーなドレスを身にまとい、濃いメイクを施した女性が立っていた。その顔立ちは確かに華やかで美しかった。真奈には、彼女の顔に見覚えがあった。あれは、ウェンディ。かつては芸能界で圧倒的な存在感を放っていた女優だった。抜群のスタイルと、息をのむほどの美貌。父親が外国人のため、ハーフのような顔立ちで、ひとたびスクリーンに映れば誰もが目を奪われた。だが、あまりに過激でセクシーなスタイルが物議を呼び、監督の夫とも最終的には離婚。まさか番組がこの方まで呼んでくるとは。ざっと見たところ、年齢は三十五、六といったところだろうか。制作側は、年齢層ごとに離婚経験者をバランスよく揃えたつもりなのだろう。冬城はウェンディと特に言葉を交わすつもりもないようで、彼女が差し出した手も、軽く無視するように宙を切った。それでも幸い、カメラはすぐに別の角度へと切り替えられた。そしてその瞬間、配信画面のコメント欄が、凄まじい勢いで流れはじめた。【誘おうとしてるのはわかるけど、お姉さん、自分の年齢わかってる?】【こんな格好で来るとか、男ゲスト目当て?それとも番組に出に来たの?】【昨日離婚報じられたばっかじゃん!今日もう離婚番組って何?】【ビジネス上の理由で離婚を公表してなかっただけで、でも番組に出る分には問題ないんだって】……議論はますます白熱し、参加者同士の交流を深めるため、一同はテーブルを囲んで語り合うことになった。そのときまで姿を見せていなかったウェンディの元夫も、よう
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第618話

「離婚してなかったら、こんなところに座ってませんわよ」真奈のあっけらかんとした一言に、場の空気が一気に和やかになった。コメント欄はさらに沸き立った。【離婚してなかったら座ってないって、名言すぎる!ストレートすぎて逆に気持ちいい】【この子、絶対まだまだ爆弾持ってる気がする。ほんと、裏表なさそうで!】【てか、秋月……ちょっと踏み込みすぎじゃない?】……真奈の率直な態度に、コメント欄の支持は一気に高まった。そんな中、秋月がまたも興味津々に声を上げた。「理由って……あの写真のことですか?」まるで核心に触れるかのような、しかしどこかぼかした言い方。カメラはしっかり秋月にズームインした。コメント欄はさらに騒然。【うわ、聞いた!マジで聞いちゃったよ!現代のヒモ王って言いそうだった!】【マジかよ、本当に聞いちゃうんだ!逆にすごい】【お願い、答えて瀬川さん!国民みんな知りたがってる!】……ディレクターは配信画面に次々と流れ込む100万超えのアカウントを見て、思わず息をのんだ。視聴者、どんだけゴシップ好きなんだよ。親戚一同総出で見に来てるんじゃないか、これ……「――あの人は、私の恋人ですよ」真奈のその一言が、まるで火種に油を注いだかのように、ネットを一瞬で沸騰させた。【彼氏!?はい注目!彼氏です、ヒモやホストじゃなくてね!】【これはガチでデカいネタ、今日のゴシップは当たり回】【誰か冬城総裁の表情に気づいて……ブラックホール並みに暗いよ?】……真奈のぶっちゃけた回答に、秋月はさすがにそれ以上追及できなくなった。「ってことは……あなたたち、もうずっと前に離婚してたの?」そう口を挟んだのはウェンディだった。彼女の視線は、冬城と真奈の間を行ったり来たりしている。真奈は言った。「とっくに離婚してましたの。ただ、いろんな事情があって公表できなかっただけです。今回たまたまバレたけど、私にも冬城にも、ある意味でいいきっかけになったんでしょう?ねえ、冬城総裁?」そう言って彼女が視線を向けると、冬城は相変わらず感情を見せない表情のまま、静かに答えた。「……ああ」【えっっっ!?とっくに離婚してたの!?】【ビジネスの理由で離婚を公表しなくても別に問題ないでしょ?そもそも一般人なら、発表義務ないし
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第619話

メンバーが軽く打ち解けたところで、いきなり初日から重装備で、海島の未開発エリアへとサバイバルに挑むことになった。番組スタッフは事前にこのエリアを選定し、安全ラインを引いた上で、全員の手首に非常用のスマートブレスレットを装着させ、安全を確保していた。真奈は手元のブレスレットを一瞥し、それから冬城の腕をちらりと見て尋ねた。「これ、使い方わかる?」「探検用のモデルだ。丈夫で壊れにくいし、品質も悪くない」「使えるかって聞いてるんだけど……」自分がスマートブレスレット系に弱いことを言い出しにくい真奈に対し、冬城はボタンを指しながら説明を始めた。「これがSOS用、こっちが現在地の送信、これは方位磁石。よく使うのはその辺だ。こっちは懐中電灯だな」真奈は彼の説明をすぐに覚えた。一方で、そばにいた秋月も不安げな様子で言った。「大和、これ……使える?」「いや、俺もわからない……」山田は頭をかいた。秋月は苛立ったように言った。「なんでそんなに使えないのよ!」一方、中高年グループの二組はこの装備にむしろ慣れていた。以前に関連する映画を撮影したことがあり、それについての知識があったからだ。「次は任務説明です。各元カップルにはカメラマンが同行し、この未開拓エリアで2日1夜の宝探しを行います。無人島での宝探しは二人の信頼関係と連携を試すとともに、過酷な環境下での人間と自然の対峙という極限の楽しみも含まれています。スタッフが用意した神秘の宝箱が、地図に示されたポイントに隠されています。各チームは指定ルートを進み宝箱を発見し、無事持ち帰れば任務達成です。成功したカップルにはサプライズプレゼントを用意しています」ディレクターがメガホンを手に言った。「気をつけてください!各自のトランシーバーは唯一の連絡手段です。絶対に無くさないでください」この時、コメント欄は一気に盛り上がった。【無人島宝探しは定番だけど、元カレとやるのは初めて】【もし私が元カレと宝探ししたら、宝は見つかるかわからないけど、彼の命は確実に見つからない】【これ、本当に相手を殺したいんじゃないの?私は本当に元カレが憎い!】……真奈と冬城は前後に並んで無人島の入り口へと歩いていった。運が悪いのか、彼らが選んだのは地図の中でも最も遠くて複雑なルートだった。ぐねぐねと曲がりく
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第620話

別荘の書斎で、黒澤はパソコンの画面で配信を見ていた。伊藤はその隣でスナックを食べながら言った。「無人島サバイバルなんてもう古いだろ。今どき誰がそんなの撮るんだ?佐藤茂、大丈夫か?真奈がますます埋もれてくだけじゃないか?」「分からない」黒澤はずっとコメント欄に目を凝らしていた。画面はちょうど真奈と冬城が前後に並んで密林に入っていくところだった。島の地形は複雑で、見えるのは木々にすっかり覆われた、先の読めない小道ばかりだった。「あっ……」画面の中で、真奈が足を滑らせて、あやうく後ろに倒れそうになった。冬城はすぐに真奈の手首をつかみ、眉をひそめて言った。「大丈夫か?」「大丈夫」真奈は冬城の手を離し、そのまま歩き続けた。コメント欄。【なんだ今の……ちょっとドキッとしたんだけど】【こんなにイケメンでお金持ちの総裁様を拒める?】【瀬川冬城カプ早速推し!】【真奈さん、もうヒモ男なんて捨てて冬城総裁と仲直りして!冷たそうだけど中身は超優しいって感じ!】……コメント欄の内容を見て、黒澤の顔色はどす黒く曇った。「遼介、昼飯どうする?腹減ったんだけど」伊藤が話しかけたが、黒澤はしばらく無言のままだった。伊藤が顔を上げて呼びかけた。「遼介?」黒澤はノートパソコンをぐるりと回し、伊藤の正面に向けて画面を見せた。そして弾幕の一文を指差して言った。「これ、サクラじゃないか?」伊藤は身を乗り出して画面を覗き込んだ。何事かと思えば、真奈と冬城のカップリングを推すファンの書き込みだった。「ネットの奴らが適当にカプってるだけだろ。アカウント見る限りサクラには見えないけど」「そうとは限らない。まともな目をしてたら、真奈と冬城がカップルなんて思うはずがない」「……」伊藤は口をへの字に曲げ、反論したかったが、それ以上何も言えなかった。あの二人は海城でトップレベル美男美女で、当時は誰もが羨むカップルだったのだ。ただ、その頃の真奈の評判があまりよくなかったというだけで。「お前、弾幕で画面埋められる?」黒澤が口を開いた。「できるけど、何すんの?」伊藤は答えつつ、胸に嫌な予感が広がっていった。次の瞬間、伊藤はしかたなくパソコンの前に座らされ、弾幕を流してくれる人間を探し始めた。しばらくすると、弾
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