All Chapters of 離婚協議の後、妻は電撃再婚した: Chapter 681 - Chapter 690

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第681話

テレビ画面では、冬城が浅井を優しく見つめ、髪をそっと整えていた。二人は楽しそうに談笑しながら、まるで長年連れ添った夫婦のように自然に寄り添っていた。その眼差しは、どう見ても演技には見えなかった。傍らで幸江がぽつりと言った。「不思議でしょ?二人が一緒に映るの、これが初めてじゃないのよ。さっきまで私、あの晩餐会の会場にいたの。そこから飛んで帰ってきたの」「……確かに、ちょっと不思議ね」真奈はそう呟きながら、テレビに映る冬城の表情に目を凝らした。その眼差しには、紛れもない深い情が宿っていた。そして次の瞬間、真奈の目が止まった。浅井の左手薬指――そこには、冬城家に代々伝わる家宝の指輪がはめられていたのだ。真奈はすぐにテーブルの上のリモコンを手に取り、巻き戻しボタンを押した。画面を3秒ほど戻して一時停止。そこには、冬城が浅井のこめかみの髪を優しく整えている場面が映し出されていた。浅井は柔らかな笑顔を浮かべ、そっと手を上げて、冬城のネクタイを直していた。真奈は浅井の指に輝く指輪を、はっきりとこの目で見た。それを見ていた幸江が、不安そうに尋ねた。「どうしたの?」「浅井がつけてるその指輪……あれは冬城家の家伝の指輪よ」真奈は、前世での記憶を鮮明に思い出していた。あのとき、彼女が妊娠していた頃、その指輪は自分の寝室に置かれていた。冬城おばあさんが、孫の嫁として自分を認めてくれた証――そう信じていた。だが、あの夢の中で見たのだ。遺体安置所。浅井が静かに歩み寄ってきて、彼女の亡骸の指からあの指輪を外した。あの歪んだ笑顔。勝ち誇ったような、ゾッとするほど冷たい顔を、今でも忘れられない。「真奈、私を恨まないで。あなたが死ななきゃ、冬城夫人の座は私のものにならないのよ。まさか、本当に司さんがこの家宝の指輪をあなたに渡してたなんて。でも大丈夫。今日からこの指輪の持ち主は、私よ」……頭の奥がずきりと痛んだ。真奈の体がふらりと一歩、後ろへよろける。すぐさま黒澤が駆け寄り、彼女の腕を支えた。幸江も慌てて駆け寄ってきた。「真奈!大丈夫!?」「平気…ただ少し眩暈がするだけ」真奈の顔色は青ざめていた。黒澤は黙って俯きながら彼女を見つめ、その眼差しには隠しようのない心配と痛みがにじんでいた。その様子を見て、伊藤は幸江の腕を軽く突いた。
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第682話

「遼介、私たちが初めて会ったのは……オークションだったわよね?」「うん」「そのとき、あなたわざと私と競り合って、私の注意を引こうとしたんでしょう?」「……ああ」ここまで話したとき、黒澤の声には自然と笑みがにじんでいた。真奈は首をかしげながら言った。「どうしてそんなにずるいの?女の子の気を引くのに、誰がそんな方法使えって言ったのよ?」黒澤は低く笑いながら答えた。「そのとき、俺に思いついたのはそれしかなかったんだ」「じゃあもし……あの夜、私が現れなかったら?それか、みじめな姿で来てたら?」すべての始まりは、あのオークションだった。もし前世と同じように、浅井みなみの真似をして、ちぐはぐな服装でみっともない姿をさらし、会場の笑い者になっていたら……黒澤は自分に興味を持たなかっただろう。いや、むしろ見下していたかもしれない。「華やかだろうと、みじめだろうと……君が俺の前に現れた瞬間、俺は――君が欲しいとわかった」「……嘘つき」前世、彼と自分の人生は、一度も交わることはなかったのだ。もし本当に、今の彼が言うような想いを抱いていたのだとしたら……黒澤の性格からして、前世、もっと早くに出会っていたはずだった。真奈が黙り込んでいたそのとき、黒澤は突然、彼女の顔を両手で優しく包み込んだ。その細く深い瞳には、あふれ出しそうなほどの想いと愛情が宿っていた。低く、静かな声で彼は言った。「真奈、俺は絶対に君を騙したりしない」「わかってる。たとえ世界中の人が私を騙しても……遼介だけは絶対に騙さないって」真奈は少し笑って、二人はそのままリビングで抱き合い、唇を重ねた。そのキスは長く、熱を帯び、息ができないほどに深く――まるで、互いを手放すことができないかのように続いた。ようやく唇が離れたとき、黒澤の声にはかすかにかすれが混じっていた。「君……わざと俺を誘惑してるだろ」真奈の頬がぱっと赤く染まった。彼を軽く押しのけて、ぷいと顔をそらす。「……お風呂、入ってくる」そう言って、真奈はちゃぶ台の端を回り込みながら、照れたように小走りで浴室へと向かった。その後ろ姿を見つめながら、黒澤の顔にはごく自然な微笑みが広がった。けれど、その笑みは長く続かなかった。ふと、視線がテレビの画面に映るあの映像――冬城と浅井が寄り添う晩餐会の場面に移っ
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第683話

失われた指輪が戻ってきたのを見て、真奈は何度もうなずいた。黒澤は彼女の頭を優しく撫でながら、静かに言った。「今日は君を会社に連れて帰る」「わかった」ここ数日、Mグループは大塚ひとりに任せきりだった。ちゃんと回っているのか、不安はあるけれど、大塚が頑張ってくれていることは、よく分かっていた。途中、真奈は携帯を開いた。雲城にいたときに、彼女はすでに家村に新しい番号を伝えていた。案の定、端末を起動してすぐに、昨夜届いた家村からのメッセージが表示された。出雲は、出雲グループの大半の資金を引き上げた。現在、出雲グループは事実上の運営停止状態。もし三日以内に業務が正常化できなければ、出雲家とのすべての取引が打ち切られる。それだけでは終わらない。外部の噂が広がれば、出雲グループに対する世間の印象も一気に悪化し、株価は下落の一途をたどるだろう。そうなれば、主要な取引先が次々と契約を解除し、出雲グループは破産の瀬戸際に追い込まれる。真奈はうっすらと笑みを浮かべた。どうやら、こちらはすでに勝利を確信しているようだった。社内の関係者たちに余計な疑念を抱かせないため、真奈は黒澤に「駐車場で待っていて」と伝えた。そしてMグループのビルに足を踏み入れたその瞬間――社内のあちこちから、視線が真奈に集中した。その目には、あからさまな軽蔑と嘲笑が浮かんでいた。この異様な空気を感じ取った真奈は、うっすらと眉をひそめた。いつものように、従業員用のエレベーターへ向かおうとしたその時――「すみません、ここは従業員以外立ち入り禁止です!」警備員が足早に近づき、彼女の行く手を塞いだ。「目が見えないの?私が誰か、知らないの?」冷たく言い放った真奈に対し、警備員は悪びれもせず平然と言った。「知ってますよ、元社長でしょ。でももう退職された方ですから、規則上、こちらには入れません」その一言に、真奈は思わず吹き出した。「誰が、私が退職したって言ったの?」「瀬川社長……いや、もう瀬川さんでいいですよね。あなたはすでに解雇されています。ですから、これ以上しがみついても無駄ですって。みっともないだけですよ」「そうね、手段ばかり弄ぶ没落令嬢は、早く家に帰って夫の世話でもしてれば?」通りがかった数人の女性社員が、真奈にあからさまに白い目を向けた。職場では、
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第684話

「わかったわ」真奈の声は静かだったが、その目には冷たい光が宿っていた。「会社を任せたのは、あなたを信じていたからよ。でも今のこの有様は何?説明してもらわなきゃ困るわ」そのとき、エレベーターのドアが開いた。表示された階数は「3」それを見た真奈の眉がぴくりと動いた。「……どうして私を3階に連れてきたの?」「瀬川社長、ここでは話しにくいんです。まずは私のオフィスで」大塚の態度から、真奈はこの状況が思っている以上に厄介なものであると察した。案内されるままに彼のオフィスへ入った真奈は、部屋のドアが閉まり、誰の耳にも届かないことを確認したその瞬間、問いただした。「瀬川社長……社長のオフィスは、上から来た新任の社長に取られてしまいました」「は?」真奈は思わず笑ってしまった。「上からって?どこからの上よ?私はこの会社のオーナーよ。ここの人事も、権限も、全て私が決める。誰が社長に任命されたのか、私の許可を取ったわけ?」「その新任の社長を送り込んだのは……冬城総裁です」「……冬城?」「はい」「彼にそんな特権があるの?」「社長が島で撮影に行っていた数日間、会社は冬城グループの攻撃を受けました。最初は白石がスキャンダルに巻き込まれていただけだったんですが、その後、なぜか暴行事件で警察に逮捕され、今もまだ取り調べ室で拘束されたままです。その直後、社長が事故に遭い、黒澤様と伊藤社長が海島に向かって、Mグループの経営は私ひとりに。すると冬城グループはすぐさま攻勢をかけてきて……どこかの少数株主たちから、Mグループの株式を次々と買い集め始めたんです!」ここまで聞いて、真奈はようやく事態の重大さに気づき、息をのんだ。「……冬城が手に入れた株式、どれだけ?」「20%です!」「そんな……そんなに多いはずがない!」大塚は重い口を開いた。「以前からの重要なパートナーたちが、どういうわけか皆、持っていた株を冬城グループに売却しました。それに加えて、冬城グループは一般株主からも高値で株を買い集めていたようで……その結果、合計20%もの株式を持つに至ったんです。そして――社内規定では、持株比率が最も高い者には一定の経営判断権限が与えられることになっています」今や明白な事実として、冬城グループはすでにMグループに参入し、大株主となっている。大塚の言葉を
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第685話

「じゃあ私のオフィスは今、浅井が使っているってこと?」「……はい」大塚は真奈の表情を直視できなかった。冬城グループを見逃すと決めた彼女の気持ちを、彼は誰よりもよく知っていた。だが今、冬城が裏切った。この事実は真奈にとって、あまりにも大きな打撃だった。「彼女は今どこにいるの?」「上の階です。社員たちはみんな、力のある方に擦り寄るばかりで……社長、お怒りはごもっともですが、今は冬城家をどう追い出すか、それと白石の件が重要です」「白石の件は私が何とかする。彼を危険にさらしたりしない」真奈は顔を上げて大塚を見た。「出雲家の方はどうなっている?」「出雲はまだ八雲を失脚させられると考えているようです。今朝から多額の資金を投じていますが、心配いりません。私たちの広報は止めていませんし、事前に準備もしていたので、八雲へのネガティブな影響は最小限に抑えられています」「分かった」真奈はうなずいた。「ここはしばらく任せるよ。私はまだ退職中の扱いだから、ヘタに目立たないようにして」「かしこまりました」真奈は軽く頷き、部屋を出ようとドアに手をかけた――その瞬間、目の前に現れたのは浅井の顔だった。以前とは打って変わって、浅井は真っ白な高級ブランドのミニドレスに身を包み、足元は7センチのハイヒール。顔つきはやや痩せたものの、全体から漂う雰囲気は別人のようで、かつての清楚な雰囲気は影を潜め、まるで本物の令嬢のような堂々たる佇まいだった。浅井はにこやかに言った。「さっき社員たちが、『瀬川さんが大塚のオフィスにいる』って言ってたので、まさかと思ったが……本当にいらっしゃったのね」真奈は正面に立つ浅井をじっと見つめ、わざとらしく眉を上げて、薄く笑った。「……浅井さん?」その言葉に、浅井の笑みがわずかに引きつった。「浅井みなみなんて名前、懐かしいわね。瀬川さんに言われなかったら忘れていたかもしれない。でもここはMグループだから、これからは田沼社長とお呼びいただけると」浅井が口の達者な女に変わっていたのは、真奈にとって予想外だった。真奈はわずかに笑って言った。「田沼社長がその席にいられるの、いつまでかな?」「私がどれほど務めるかは、浅井さんに関係ないわ」そう言いながら、浅井はバッグから一通の書類を取り出した。「これをお渡しに来た
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第686話

浅井は自分がまだ遠くまで行っていないことをよくわかっていた。そう思うと、真奈は思わず軽く笑った。浅井今はどれだけ立派になったかと思ったけど、結局中身は昔と同じ。目立てば叩かれる。自分がてっぺんにいると錯覚するやつほど、落ちる時は惨めなんだよ。駐車場で、黒澤が車から降りて棒付きキャンディーを口にした瞬間、その背後から、誰かが両手で目をふさいできた。黒澤はくすっと笑い、「やめろよ」と軽く言った。「なんで私って分かったの?」真奈が顔を出すと、黒澤はその手をとって言った。「目つぶってても分かるさ。背中に誰がいるかぐらい」「黒澤様って、敵には絶対に背中見せないって聞いてたけど?」「ま、そういうとこもあるな」「じゃあ、すっごい悪い知らせを教えてあげよっか」そう言って真奈は、大塚から聞いた話を一言一句、包み隠さず全部話した。黒澤がどんどん眉をひそめていくのを見て、真奈はそっとその眉間に手を当てて撫でた。「なによ、私は平気な顔してんのに、あんたの方が先に顔に出してどうすんのさ」黒澤は低く言った。「俺が悪かった。大塚と白石なら何とかできると思ってた」「もう起きちゃったことは仕方ないよ。できるだけ取り返すしかない」真奈は黒澤の腕に自分の手を絡めながら続けた。「それに、これは元々私の問題だし、あなたのせいじゃないって」「……浅井に嫌な思いさせられたか?」「まあまあ、別に恥かいたってほどじゃないよ。知ってるでしょ、私口だけは絶対負けないんだから」「どうやら俺の名前もまだまだだな。誰でも好き勝手に、俺の女に口出せると思ってやがる」黒澤の言葉に、真奈は一瞬ぴんときて、警戒心を浮かべた。「……ちょっと、何する気?」「そりゃあもちろん、うちの奥様のためにひと泡吹かせてやろうと思ってな」「は?女と争わない主義じゃなかったっけ?」黒澤の声は低く、それでいてどこか甘かった。「奥さんのことなら、例外だ」真奈は笑いながら言った。「ふーん、そこまで言うなら、ちょっと見せてあげよっか」そう言って、真奈は手にしていた離婚届と離婚証明書を黒澤の目の前に並べた。そこにははっきりとした公印と、「離婚証明書」の文字。黒澤はそれを見つめたまま、しばらく動けなかった──まるで時間が止まったかのように。「どうした?嬉しくない?」黒澤
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第687話

真奈が身分証明書を持っていなかっただけでなく、黒澤も身分証明書を持っていなかった。帰り道、黒澤は終始険しい表情をしていた。真奈は思わず黒澤を何度も見やりながら尋ねた。「あなた……結婚に身分証明書が必要なのを知らなかったの?」「俺……経験がなくて」黒澤は後悔したが、もう遅かった。もし結婚に身分証が必要だと早く知っていれば、毎日持ち歩いていただろう。黒澤の様子を見て、真奈は思わず笑みをこぼした。その笑顔に刺激されたのか、黒澤は突然車の向きを変えた。その様子を見て真奈は呆然とした。「遼介!どこへ行くつもりなの?」「家に帰るぞ」黒澤の言う家とは、黒澤家のことだった。二人が手を取り合って黒澤家の書斎に現れたとき、黒澤おじいさんは花に水をやっていたが、その手が止まった。「結婚だと?今?」黒澤おじいさんは明らかに状況を把握できておらず、珍しく呆然とした表情で孫を見つめた。少しして、黒澤おじいさんは手に持っていたジョウロを置き、孫の前にやってくると、いきなり平手打ちをしようとした。だが背の高さのせいで顔には届かず、黒澤の肩を叩く形になった。黒澤おじいさんは杖を突きながら怒って言った。「近頃の若者は結婚を軽く考えすぎだ!」真奈は黒澤おじいさんが怒っているのを見て、その場をなだめようとした。「おじいさん、遼介はただ口にしただけで、私は……」「まず黙っていなさい!」黒澤おじいさんは真奈の言葉を遮り、黒澤を指差して怒鳴った。「結婚は一世一代の大事だ!結婚前にプロポーズはしたのか?相手のお嬢さんはちゃんと結婚に同意してくれたのか?結納は渡したのか?プロポーズの宴は用意したのか?婚約式はどうした?結婚式の準備は進んでいるのか?何ひとつ整っていないのに、相手がどうしてお前と結婚してくれるっていうんだ!」黒澤おじいさんが黒澤に一方的に怒鳴りつけるのを見て、真奈は呆然と立ち尽くした。まさか結婚に反対していると思ったら、理由がそれだったなんて!「お前の女の子の口説き方はな、父親に比べてまるでなってない!」黒澤は少し考えてから、真剣な顔で言った。「俺の名義の全財産はすでに真奈の名義に移してあるし、プロポーズもとっくにしてある。真奈もちゃんと承諾してくれた」そう言いながら、黒澤は真奈の左手を取り、指にはめられた指輪を見
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第688話

真奈と黒澤が黒澤家をあとにして並んで歩いていると、真奈の心には一抹の不安がよぎった。「遼介……あなたのおじいさん、本当に大丈夫なの?」「信用できるかはわからないけどさ、もともと父さんと母さんの婚約パーティーもやりたがってたんだよ。でも父さんが断固拒否してね。今回はやっと孫の婚約に口出せるんだから、好きにやらせてやろうと思って」「……うん、あまり派手にならなきゃいいけど」真奈がそう言いかけたその時、突然、黒澤家の敷地内に警報が鳴り響いた。訓練中の各部隊が一斉に集合を始め、空中に設置されたスピーカーからふわふわと音声が流れ出す。「緊急連絡、緊急連絡!黒澤総裁、まもなくご結婚。全隊配置に就け、各部門は厳戒態勢を取れ!」その声を聞いた真奈は、思わず顔を手で覆った。……どうか、婚約パーティーだけは普通に終わりますように。家に戻ってから、真奈はようやく自分の携帯に無数の着信があったことに気づいた。幸江からの着信履歴がずらりと並び、折り返すと電話の向こうから興奮した声が響いてきた。「真奈!やるじゃん!ついに冬城のクズ男から完全に抜け出せたんだってね!」「……え、なんでそれ知ってるの?」真奈は一瞬ぽかんとして尋ねた。まだ幸江に話してもいないのに、情報が早すぎる!「知らないわけないでしょ、今や全国民が知ってるわよ!」その言葉を聞いて、真奈はハッと何かに気づき、慌ててテレビをつけた。画面には堂々と──『祝・大ニュース!黒澤家の当主、瀬川家のお嬢様とまもなく婚約!』の文字。ずっとこの臨時ニュースが30分近く流れているのを目にして、真奈は茫然とした。……黒澤おじいさん、本気で全世界に向けて発表する気じゃない!?。「ようやくわかったわ……どうして昔、あなたのお父さんがあのおじいさんに婚約パーティーを任せたくなかったのか」これ、完全に災難レベルの展開じゃない!案の定、10分も経たないうちにスマホのニュースは大炎上。誰もが真奈と黒澤の婚約の話で持ちきりだった。【まさかあのヒモ王が黒澤家の当主だったなんて!カッコ良すぎでしょ!】【もう無理!これは現実に起きた社長系ラブストーリーじゃん!?】【冬城総裁の婚約、もう誰も話題にしてないんだが……しかも噂では婚約日は同じ、会場も隣同士だってよ】……他のことはともかく、真
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第689話

午後、冬城グループのオフィス。中井は総裁室の前で一度足を止め、少し躊躇ったのち、扉をノックした。「どうぞ」室内では冬城が、一輪のバラを丁寧に手入れしている最中だった。中井はその前に立ち、口を開きかけてはまた閉じ、何か言いたげに黙っていた。冬城は今日はどこか機嫌がよさそうだった。ちらと視線を上げると、中井に尋ねた。「何か用か?」「冬城総裁、瀬川さんと黒澤のご婚約が決まりまして……婚約パーティーの日時が、総裁の予定と重なっておりまして……」恐る恐る様子をうかがう中井に対し、冬城の表情には、何の変化も見られなかった。「会場が被らなければいい。みなみが、気を悪くしないかだけが気がかりだ」バラの手入れを終えた冬城は、花を花瓶に挿しながら中井に尋ねた。「頼んでいたあのレストラン、予約は取れたか?」「……はい、すでに押さえてあります」「よし。お前が直接みなみを迎えに行け」「かしこまりました」そう答えながらも、中井はしばらくその場を動かず、身だしなみを整えている冬城を見つめたのち、思わず問う。「……冬城総裁。瀬川さんと黒澤の婚約が決まって……本当に、それで……」冬城は淡々と答えた。「俺と彼女は、元よりただの政略結婚だ。今、黒澤家がこのタイミングで婚約を発表するのは、明らかな挑発にすぎん。だが――奴らの勢いも、そう長くはもたん」「そういうつもりでは……」「じゃあ、どういうつもりだ?」中井は一瞬ためらったが、思い切って尋ねた。「……瀬川さんが婚約されたというのに、総裁は本当に、何も感じないのですか?」「かつての瀬川真奈は、ただ冬城家の権勢が欲しかっただけだ。冬城夫人になりたがっていたのも、そのために過ぎん。今は黒澤に乗り換えた。そんな女に、俺が感情を持つ理由があるか?俺と彼女の間に、そもそも情などなかった」その言葉の冷たさに、中井の背筋がぞくりとした。彼はかつて、別の可能性を考えたことがあった。冬城は本当は記憶を失ってなどおらず、わざと装っていただけなのではないか。独り雲城へ向かい、真奈を救い出すための策略だったのではないかと。だが――ここ数日、冬城の言動にはそのような気配は微塵も見られない。ただ浅井のことだけを覚えており、真奈に対しては以前と変わらぬ嫌悪と軽蔑のままだ。この一年あまりの間に、あまりにも多く
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第690話

真奈も遠回しな言い方はせず、ストレートに言った。「藤木署長も私が何しに来たかわかってるはず。余計な話はいいから、さっさと白石に会わせて」「問題ありません。すでに準備は整えてあります。こちらへどうぞ!」職員は真奈を連れて、取調室へと案内した。白石がここにどれほどの間拘束されていたのかはわからないが、彼の顔には無精髭が生え、かなり憔悴した様子だった。真奈が部屋に入るなり、白石はほとんど反射的に立ち上がり彼女のもとへ駆け寄ろうとしたが、入り口にいた警備に阻まれた。「瀬川さん、こちらの部屋でお話しください。私たちは外で待機しておりますので、何かありましたらお声がけください」「いいわ」真奈は淡々と言った。「今日は、彼を連れて帰りに来たの」「そ、それは……私たちの一存では……」職員たちは戸惑った表情を浮かべる。だが真奈は冷ややかな視線を彼らに投げて言った。「白石はMグループ所属の芸能人よ。Mグループの弁護士とあなたたちはもう何度も協議してるでしょ?暴行したって話なら、こっちはとっくに賠償の意志を示してる。それに、何日も取り調べておいて、まだ何も出てこないわけ?」「僕は人を殴っていない!」白石が声を張り上げた。それを聞いた真奈の目は、さらに冷たくなった。「殴ってないっていうなら、どうしてこんなに長く拘束してるの?」「主な理由は、証拠が不十分なことと……それに、被害者の方が和解に応じようとされないことでして……」「へぇ?被害者って誰?Mグループの芸能人に因縁つけるような人、見せてもらおうじゃない」真奈の迫力に、職員は額に滲む汗を拭いながら固まっていた。これじゃあ、藤木署長が自分で来られなかったのも納得だ。黒澤遼介の女……誰が逆らえる?「じゃあさ、その被害者をここに連れてきて。私が直接話す。相手が折れてくれれば、あんたたちも放してくれるんでしょ?」「えっと……」職員は、依然として困り果てた顔を浮かべていた。白石が連れてこられた時、藤木署長はすでに「事情をよく聞いてみろ」と命じていたが、相手は最後まで頑なに口を割ろうとしなかった。今さらその相手を呼び出したところで、真奈という女一人で、いったい何が変わるというのか?せいぜい、相手に高額な賠償金を請求されるだけだろう。「何?それも無理ってこと?藤木署長
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