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第688話

Author: 小春日和
真奈と黒澤が黒澤家をあとにして並んで歩いていると、真奈の心には一抹の不安がよぎった。「遼介……あなたのおじいさん、本当に大丈夫なの?」

「信用できるかはわからないけどさ、もともと父さんと母さんの婚約パーティーもやりたがってたんだよ。でも父さんが断固拒否してね。今回はやっと孫の婚約に口出せるんだから、好きにやらせてやろうと思って」

「……うん、あまり派手にならなきゃいいけど」

真奈がそう言いかけたその時、突然、黒澤家の敷地内に警報が鳴り響いた。

訓練中の各部隊が一斉に集合を始め、空中に設置されたスピーカーからふわふわと音声が流れ出す。

「緊急連絡、緊急連絡!黒澤総裁、まもなくご結婚。全隊配置に就け、各部門は厳戒態勢を取れ!」

その声を聞いた真奈は、思わず顔を手で覆った。

……どうか、婚約パーティーだけは普通に終わりますように。

家に戻ってから、真奈はようやく自分の携帯に無数の着信があったことに気づいた。幸江からの着信履歴がずらりと並び、折り返すと電話の向こうから興奮した声が響いてきた。「真奈!やるじゃん!ついに冬城のクズ男から完全に抜け出せたんだってね!」

「……え、なんでそれ知ってるの?」真奈は一瞬ぽかんとして尋ねた。

まだ幸江に話してもいないのに、情報が早すぎる!

「知らないわけないでしょ、今や全国民が知ってるわよ!」

その言葉を聞いて、真奈はハッと何かに気づき、慌ててテレビをつけた。画面には堂々と──『祝・大ニュース!黒澤家の当主、瀬川家のお嬢様とまもなく婚約!』の文字。

ずっとこの臨時ニュースが30分近く流れているのを目にして、真奈は茫然とした。

……黒澤おじいさん、本気で全世界に向けて発表する気じゃない!?。

「ようやくわかったわ……どうして昔、あなたのお父さんがあのおじいさんに婚約パーティーを任せたくなかったのか」

これ、完全に災難レベルの展開じゃない!

案の定、10分も経たないうちにスマホのニュースは大炎上。誰もが真奈と黒澤の婚約の話で持ちきりだった。

【まさかあのヒモ王が黒澤家の当主だったなんて!カッコ良すぎでしょ!】

【もう無理!これは現実に起きた社長系ラブストーリーじゃん!?】

【冬城総裁の婚約、もう誰も話題にしてないんだが……しかも噂では婚約日は同じ、会場も隣同士だってよ】

……

他のことはともかく、真
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