All Chapters of 離婚協議の後、妻は電撃再婚した: Chapter 831 - Chapter 840

真奈は眉をわずかに上げた。「身分なんて関係ないわ。この新聞社の社長、なかなか面白そうよ。段取りをつけて。たぶんまた一攫千金のカギを見つけた気がする」そう言って、真奈は気楽にデスクに腰を下ろした。白石は苦笑し、心の中でため息をついたが、真奈の願いを拒むことは彼にはどうしてもできなかった。白石は新聞を大塚に手渡した。「準備してくれ」大塚はうなずいた。大塚が調査に向かおうとしたその時、入口まで行ったのに引き返してきた。真奈は怪訝そうに問いかけた。「相手と連絡を取るように頼んだはずよ。どうしてこんなに早く戻ってきたの？」大塚は新聞を持ち上げ、気まずそうに答えた。「社長……連絡先は、左下にあります」真奈の視線が新聞の隅へと落ちる。そこには四角い枠があり、縁には花模様が描かれ、その横に毅然と前を見据える白黒猫のイラストが載っていた。『世の中の不公平を一掃せよ！』という文言とともに、白黒猫のLINEのQRコードが添えられ、さらに大きくこう書かれていた。「皆様からの投稿をお待ちしております！（P.S.私が社長。本物保証！）」「……」真奈は口元をひきつらせた。この時代に、これほど中二病めいた宣言を目にするとは滅多にないことだった。彼女は渋々スマホを取り出し、新聞に刷られたQRコードをスキャンした。すると、すぐに一人のLINE情報が画面に表示された。アイコンは片手で敬礼する警察の帽子をかぶっている白黒猫、鋭い眼差しで前を見据えている。どうやら、この人は警察気取りのようだ。「次回もお楽しみに！」真奈は思わず額に手を当て、頭を痛めながらも相手を追加した。ほどなくして、向こうは短い沈黙の後、すぐに友達申請を承認した。ネコ警部【どちら様？】真奈【投稿したいです】ネコ警部【いいねいいね！早く教えて！】相手は異常に興奮している様子で、続けてスキャンダルを聞き込むようなスタンプを送ってきた。投稿には決まった形式もなく、連絡先を書く必要もない。まるで雑談のように噂話をしている感じだった。真奈はしばらく考え込むと、すぐにチャットボックスに入力し始めた。【直接会って話したいです。今新聞社の近くにいるので、そちらに伺って詳しくお話ししてもいいですか？】向こうはしばらく沈黙した。真奈は相手の返事を待ったが、数秒経っ

福本英明は困ったように尋ねた。「金に困っていて、月に2000万欲しい」「問題ない」「新聞社には資金が必要だ」「出資する」「海城に住む場所がない」「うちのMグループは食事も住まいも用意する」「成立」「ご協力よろしく」真奈と福本英明は握手を交わし、横の大塚は呆然とした。こんなふうに契約をまとめることがあるのか。月に2000万、資金提供、食事も住まいも用意。これではまるで先祖を祀っているみたいだ。真奈は横の大塚に言った。「契約書を作らせて。すぐに彼と契約する」「社長……」本当にもう少し考えませんか？真奈が大塚に目配せすると、大塚はすぐに応じた。「はい、すぐに手配します」入り口にいた社員たちは真奈が出てくるのを見ると、一斉に自分の席へ戻り、姿勢を正した。真奈が人々を率いて撤退する様子は、まるでスパイドラマの一場面のようだった。外に出ると、大塚がついに堪えきれず口を開いた。「社長、なぜそんな大金を彼に払うんですか！」福本英明という名前は海城ではまったく知られておらず、どこから出てきたのかもわからない若造だった。新興新聞社が最近人気だとしても、そこに莫大な資金を投じる理由はない。小さな新聞社なら数千万で買収できるのに、真奈はその十倍の金を払った。「100億払っても、彼を買うのは損じゃない」真奈はそう言った。「なぜですか？」「彼の苗字は福本だから」真奈は微かに唇の端を上げた。社長室に入った瞬間、福本英明が誰なのかをようやく思い出したのだ。以前、白井が福本陽子を連れて婚約パーティーで騒ぎを起こしたおかげで、海外で名を馳せる福本家の御曹司が海城で新聞社の社長をしていることに気づけた。海外の福本家は百年続く名門で、富は三代続かないと言われながらも、福本家は代々富豪であり、二十世紀の頃から海外で名高い貴族として知られていた。家系は高貴で、生まれた子どもたちは皆、海外で有名な実業家となっていた。だからこそ福本陽子は海城であれほど威勢を張り、真奈の婚約パーティーで大騒ぎを起こすことができたのだ。もっとも、真奈は2000万だけを払えば、福本英明を自分の部下にすることができるなど思っていない。ただ、2000万で福本英明と縁を結べるなら、何よりも貴重な人脈を得られることになる。そ

真奈は問いかけた。「福本って……そんなにすごいですか？」「出雲なんかとは違いますよ。立花でさえ福本家には及ばないでしょう。黒澤に聞けば分かると思います。海外で白井家のすべてを手に入れるのにどれほど苦労したか。だが白井家が全盛期でも、福本家の足元にも及ばなかったんです」真奈は唇をきゅっと結んだ。本当にやっかいな相手らしい。佐藤茂は落ち着いた口調で続けた。「ですがあなたの婚約者は大したものですね。福本家をまったく意に介さず、福本陽子と白井を飛行機に縛り付け、そのまま空輸して送り返しました。この胆力には感服します」真奈は思わず息をのんだ。「……空輸？」「そう、コンテナに入れての空輸です」「……」真奈は横にいる黒澤を見た。黒澤はわずかに眉をひそめて言った。「あいつらが自分から帰ろうとしないなら、非常手段を取るしかなかった」佐藤茂が口を開いた。「福本家は福本陽子をとても溺愛している。福本家の家主・福本宏明（ふくもと ひろあき）は娘が辱めを受けたと聞きつけると、すぐに人を海城へ送り込み、勢力を拡大して我々の取り分に食い込もうとしている」この件は小さくもできるが、大事にもなり得る。もし福本家が本当に海城に進出してきたら、彼らにとっては大きな打撃になる。出雲とは違った。出雲は野心だけはあったが実力が伴わず、結局失敗に終わった。立花もまたカジノを海城に広げようと考えていたが、黒澤を警戒し、暗中で動くしかなかった。だが福本家は違う。福本家には十分な資産があり、正当な商売もしている。もし海城に進出してくれば、強大なライバルとなるのは間違いなかった。真奈はしばらく沈黙したあと、口を開いた。「その福本家の次期当主……福本英明というのですか？」「いや、公式によっては福本信広（ふくもと のぶひろ）という人物です」真奈は眉をひそめた。もしかすると、新興新聞社の社長は……福本家の次期当主ではないのか？そう考え、今日の判断を誤ったのではと疑ったその時、黒澤がふいに口を開いた。「福本英明という名前、どこで聞いた？」「新興新聞社の社長が福本英明よ。あの福本家の人間だと思っていたけど……考えすぎだったみたい」佐藤茂が言った。「いや、まだ分かりません。福本家は百年続く名門で、子孫もかなり多いです。その福本英明という人物は福本家の親戚か

「まだ来ていないのか？」立花は苛立ちを隠さず、馬場を睨んだ。馬場が言った。「福本社長の方へはすでに催促を出しましたが……福本家の者が申すには、福本社長にはご自身のお考えがあって、今はどうしても動けないとのことです」「来られないだと？」立花の顔は暗く歪み、その声には残忍な危うさが滲んでいた。「福本家は俺をバカにしているのか？」「福本家といえども、どれほどの権勢があろうと、ボスに顔を立てぬはずがありません。さすがに関係を決定的に悪化させることは避けるでしょう。何しろ……福本家のお嬢様は立花家へ降嫁するのですから」「降嫁……」立花は冷ややかな笑みを浮かべただけだった。福本家というのはつくづく自分たちを高みに置いているらしい。娘を嫁がせることさえ「降嫁」などと言い放つのだから。「福本家に伝えろ。今日、福本信広が姿を見せなければ、立花家と福本家の縁談はこの場で白紙だ！」その言葉に、馬場は眉を寄せて口を開いた。「ボス、感情的にならないでください」海外の福本家は最古参の家柄のひとつで、長年にわたり複雑な勢力を築き上げている。立花が先代家主を超える才を見せているとはいえ、まだ若すぎた。福本家の底力がどれほどか、誰にも測りきれない。福本家を敵に回せば、立花家の今後の多くの事業に確実に影響が出る。馬場の言葉に、立花は胸中の怒りをようやく抑え込んだ。これまで立花の顔を潰そうとした者など、一人もいなかった。福本信広？覚えておけ。立花は苛立ちを隠すようにネクタイを引き直し、「Mグループの方はどうなっている？」と問うた。「本日、Mグループの実権者が姿を見せるそうです」立花は鼻で笑った。「最上道央は分をわきまえているらしい」この海城において、最上は謎に包まれた存在だった。しばらく前には、Mグループは実は映画スター白石の資産ではないかという憶測が飛び交っていた。だがすでに調査を済ませており、白石の経歴からすればMグループの頂点に立つはずもないことは明らかだった。これまで姿を現さず、水面下に潜んでいた最上――立花は、その人物にぜひ一度会ってみたいと思っていた。今回立花がMグループの実権者に招待状を送ったのは、新進気鋭の最上が自分の顔を潰すような真似はしないだろうと踏んだからだった。その時、ドアの外で馬場の部下がノ

その文字を見た瞬間、立花は鼻で笑った。「瀬川、最上の招待状を盗んだからって、自分が招待客だと思い込んでいるのか？」「立花社長、それを盗みとは言えないわ」真奈は落ち着き払って答える。「ここにはMグループのCEOを招待すると書いてある。だから私が来たのよ」「瀬川真奈、なんて図々しいんだろう。所詮コネで成り上がった支社の社長じゃないの、CEOじゃないくせに来たなんて」「最上の七光りで入ってきたんでしょ。まるで虎の威を借る狐だわ！」……周囲の人々は一斉に真奈へ軽蔑の眼差しを向けた。立花はその罵声を聞きながら、ゆったりと口を開いた。「聞こえただろう？彼らが何を言っているか。瀬川、俺がお前を追い出したいわけではない。彼らがお前を信じていないんだ」「つまり……立花社長も信じてはいないってわけね」真奈は微かに唇の端を上げた。その時だった。会場の扉が勢いよく開き、Mグループのボディガードたちが整然と二列に並んで入ってきた。静まり返った空気の中、大塚が堂々と歩みを進め、真奈の隣に立つ。「ご紹介いたします――こちらこそが我々MグループのCEO、瀬川社長です。瀬川社長はこれまで冬城家のしきたりに縛られており、創業の事実を伏せ、控えめに振る舞っておられました。しかし今や冬城家とは縁を切り、公に身分を明かすご準備が整ったのです。本日はその証として、瀬川社長から皆様へのささやかな贈り物をご用意しております。どうかお受け取りください」すぐにMグループのボディガードたちが、会場にいる全ての招待客へそれぞれ書類を配っていった。受け取った人々は互いに顔を見合わせ、何の意味があるのか理解できずに戸惑っていた。しかし、書類を開いた瞬間、その場の空気は一変する。誰もがみるみるうちに顔色を失い、青ざめた表情へと変わっていった。立花は周囲を一瞥し、眉をひそめる。客たちの表情の変化に、胸の奥に嫌な予感が走った。真奈はそんな空気を楽しむかのように微笑み、静かに言葉を落とした。「私からの贈り物……お気に召していただけたかしら？」客たちは慌てて書類を閉じ、まるで後ろめたい秘密を見られたくないかのように目を逸らし、視線を左右に泳がせた。先ほどまで真奈を見下していた客たちの目には、今や恐怖と畏れが色濃く浮かんでいた。真奈はその様子に満足げな微笑を浮かべる