一体何がなくなったのか、すぐにははっきりしなかったが、突然何かが消え、心にぽっかりと穴が空いたような気がした。「野崎様」迎えに来た者が尋ねた。「どうかされましたか?」「いや、何でもない」胤道は振り返った。「行こう」……静華は目を覚ますと、真っ先に箱へと向かった。安はその中にいた。目が見えない静華は、手で触って確かめるしかなかった。安はまだ眠っているようで、時折寝息を立てていた。静華の存在に気づくと、彼女の手にじゃれつき、クンクンと二声ほど鳴いた。静華は微笑んだ。本当に可愛い。「森さん」三郎が交代でやってきて、箱の中の安に静華が微笑みかけているのを見て、心なしか満たされた気持ちになった。「食事はされましたか?」「私は急がないわ」静華は安の毛を撫でながら言った。「先にこの子に何か食べさせてあげて」安が満足そうに食べ終わるのを待ってから、静華はまた安を連れて日向ぼっこに出た。ちょうど玄関先に座っていると、前方から車が庭に入ってくる音がした。静華は一瞬動きを止めた。車は真正面、目と鼻の先で停まった。胤道の声がはっきりと、そして気遣わしげに聞こえてきた。「気をつけて降りろ。怪我をするな」りんが甘えたように言った。「私、そんなにひ弱じゃないわ。数歩歩いたくらいで転んだりしないでしょう?あなたも大袈裟なんだから」「心配なんだ」会話に滲む甘い言葉を、静華はそれ以上聞きたくなかった。安を胸に抱き、中へ入ろうとしたが、りんの声が一足先に飛んできた。「森さん」りんはためらうそぶりを見せた後、鷹揚に微笑んだ。「お久しぶりね」静華の顔は冷ややかだったが、腕の中の安はなぜか、りんに向かってウーッと唸り始めた。静華は慌ててその口を押さえた。りんは怯えたふりをして、後ろに下がり胤道の胸に倒れ込んだ。目は赤く潤み、無理に笑顔を作って言った。「森さんが新しく飼われたペットかしら……とても活発だけど、少し怖いわね」胤道の黒い瞳が途端に冷たくなった。「森、自分の犬をしっかり躾けろ。もう一度りんに吠えたら、追い出すぞ」静華は下唇を固く噛みしめ、数歩下がって安を箱に戻した。安がいつも大人しいのに、どうして急に吠え出したのか分からず、小声で宥め、
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