珠子は唇を噛みながら、丁寧に製本されたノートをじっと見つめた。胸の奥に、なんとも言えない複雑な気持ちが広がっていた。「明日香。あのノートは、あなたに渡したものなのに、どうして淳也に......?今、学校中で噂になってるの。私......」明日香はすぐに察した。「ごめん、勝手に渡しちゃいけなかった。写して返してくれると思ったのに......まさか、破られるなんて」珠子は慌てて言葉を継いだ。「本当は、こんなこと言いたくなかったの。ただ、遼一さんに変な誤解をされたくなくて。せっかく......やっと恋人になれたから、そんなことで機嫌を損ねさせたくないの」「わかるよ。もしお兄さんが誤解してたら、私がちゃんと説明するから」珠子の視線は、明日香の机の上の問題集に移った。そしてそっと手に取ってページをめくる。「これ、新しい問題集?あなたが買ったの?」「高橋先生がくれたの」「ああ、今年出たばかりのやつね」「そうなの?全然気づかなかった」明日香は言った。「もし見たいならコピーしてあげる。これはオリンピック数学クラスのより難しくて、解くのに時間がかかったんだ」その時、授業のベルが鳴った。明日香はためらいなく、その問題集を珠子に渡した。午後には返してもらえるだろうと思っていたし、それに、前の問題集もまだ最後まで終わっていなかった。午前中最後の授業は、週に一度の自由活動の時間。6組、5組、4組の合同で行われるが、明日香は教室に残ったまま、後ろの本棚からファッション雑誌を適当に抜き取り、時間をつぶすことにした。「明日香?」ふいに名前を呼ばれ、窓の方を向くと、外でガラスをコンコンと叩く女子生徒の姿があった。団子頭に、頬の赤みが可愛らしい、少し幼い顔立ちの子――どこかで見覚えがある。明日香は窓を開けた。「あなた......?」「覚えてくれてたんだ!」少女の目がぱっと輝く。「有坂日和(ありさか ひより)だよ。隣のクラスなの。元気そうでよかった!長く休んでたから、もう学校に戻らないのかと思ってたんだよ」大きくて丸い瞳が、笑うと三日月のように細くなって、とても無邪気で可愛らしい。まるで小鹿のような雰囲気だった。「この前はありがとう」明日香は以前の出来事を思い出し、感謝の気持ちを口にした。「どうい
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