樹は「酔いを覚ます」という口実で、明日香を休憩室へと連れて行った。ドアをくぐるとき、明日香は罪悪感と当惑に胸を締めつけられ、思わず口を開いた。「ごめんなさい……さっきの電話、確かに遥からだったの。あなたに余計な心配をかけたくなくて言わなかっただけで、まさか彼女たちが来るなんて思わなかったの」樹の姿は、確かに酔っているように見えた。だがその目は酒気以上に疲労で曇っていた。今日は一日中慌ただしく、準備のために朝四時から動き続け、昨夜もろくに眠れていなかったのだ。明日香はぬるめのお茶を注ぎ、そっと彼の傍らに腰を下ろした。樹は責める様子もなく、ただ彼女の長い髪に手を伸ばし、優しく撫でる。「わかってる……さっきの彼女たちの言葉なんて気にしなくていい。もしまた何か言われて、どうしたらいいかわからなかったら、いつでも僕に言ってくれる?」「うん。これからはもう隠し事はしない。あなたが嫌がるって知ってたから……誰かがあなたの前でああいうことを言うのが嫌で、だから黙ってただけなの」「ハグ、する?」明日香はそっと身を寄せ、しばらくの間、彼に抱かれるまま身を預けた。婚約パーティーを終えたばかりの今夜、二人はホテルに滞在する予定だった。空港に近く、時間も迫っており、明日にはパリへと発つ。そこへ、静乃が姿を現した。扉の前で千尋に行く手を遮られる。「静乃様、こちらはプライベートな休憩室です。お入りいただくことはできません」「ほんの少し話がしたいだけなのです。どうか通していただけませんか?それが無理なら、中にお伝えいただくだけでも結構です。私はこちらで待っていますから」千尋は無表情のまま、事務的に告げた。「本日は明日香様のご厚意により桜庭家のご来訪を受け入れております。静乃様も、その意味をご理解いただいているはずです」遥が堪えきれずに声を荒げた。「東条さん!あなたはただのアシスタントでしょう?どんな資格があってそんなことを言うんですか?中に入って聞いてもいないのに、どうしてお兄ちゃんが私たちに会いたくないってわかるんですか!」「お嬢様の仰る通り、私はアシスタントにすぎません。しかし、社長の指示に従って動いているだけです。どうかご無理はなさらないでください」「あなたっ……!」遥が一歩踏み出した姿は、今にも掴みかかろうとするほ
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