知里はまだ撮影用のメイクを落としておらず、真っ赤な口紅がそのままだった。 ストローの周りには、鮮やかな赤がくっきりと残っていた。 潔癖症で知られる石井先生は、まるで何も見えていないかのように、その口紅の跡にぴったり唇を重ね、何口か飲んで満足そうに頷いた。 「悪くないな。言うこと聞くなら、また買ってやるよ」 そう言うと、まるで猫をからかうように、知りの頭をくしゃくしゃと撫でた。 知里は彼のその一連の行動を呆然と見つめ、思わず奥歯を噛みしめた。 「誠健、あんた私のタピオカミルク飲んだでしょ!」 誠健は片眉を軽く上げて彼女を見た。 「俺が買ったやつだろ?一口も許さねぇのか?まったく、恩知らずなヤツだな」 彼がとぼけるのに腹が立った知里は、イライラしながらティッシュを取り出し、ストローをゴシゴシ拭いた。 「歯も磨いてないくせに、勝手に人の飲み物飲んで、あんたの口、臭いんだからね。こっちは飲む気なくすでしょ」 その言葉を聞いた誠健は、さっきまで背もたれにもたれていたのに、急に知里の方へ身を乗り出した。 艶やかな目でじっと彼女を見つめながら、真面目な顔で言った。 「出かける前に磨いたけど?確認してみるか?」 そう言いながら、彼の口元がどんどん近づいてくる。 知里は慌てて彼の口を手で押さえた。 「誠健、キスなんてしたらマジでブッ飛ばすからね!」 誠健の湿った唇が、知里の手のひらにぬるっと擦りつけられた。 そのとき、低くくすぐったいような笑い声が彼女の耳に入り込んだ。 「俺の口がどうなってるか、ちゃんと見てほしかっただけだよ。キスしたいなんて誰が言った?もしお望みなら、給料に上乗せしてくれたら考えてもいいけどな」 「ふざけんな!」 知里は思いっきり彼の手の甲を叩いた。パシンという音とともに、ピリッとした痛みが走る。 誠健は「いてて」と言いつつも、どこか楽しげに笑った。 「その短気っぷりだと、キスしたら命縮めそうだな。俺、まだ死にたくねぇし」 そう言って元の姿勢に戻ると、エンジンをかけた。 知里は悔しそうに睨みつける。 ――こんな男のせいで、こっちのほうが寿命縮まるわ…… ぶつぶつ言いながらタピオカを飲み、スマホを取り出して
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