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第461話
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結婚は断るのに、辞職したら泣くなんて 第471話
佳奈は理由もわからずに、そっと智哉の背中を撫でて尋ねた。 「智哉……お父さんに何か言われたの？」智哉は即座に否定した。 「いや……ただ急に、君が俺から離れていくような気がして怖くなっただけだ」「何言ってるの？もうすぐ赤ちゃんが生まれるんだよ。智哉が頑張ってミルク代を稼いでくれなきゃ困るんだからね。最近いろいろ大変だったでしょう？今日は親友達と一緒にゆっくり飲んで、気分転換してきて」佳奈は心配そうに智哉の頬を優しく揉みほぐし、背伸びをして軽くキスをした。 「これで少しは元気になった？」智哉は佳奈の腰を片手でしっかり抱き寄せ、ぎゅっと胸に引き寄せた。 深い黒瞳の奥に、抑えきれない感情が溢れている。温かな唇が彼女の頬をそっとかすめ、智哉は掠れた声で囁いた。 「君さえそばにいてくれれば、俺は何も怖くない」そう言って、佳奈の柔らかな唇を深く覆った。ふたりは庭の芝生の上で、眩しい昼の陽射しの下、愛情たっぷりに抱き合いキスを交わした。 智哉は心に抱えていた不安をすべて投げ捨て、ただ腕の中の佳奈がもたらす幸せだけを存分に味わった。気持ちが高まりすぎて、何度キスをしても離したくないと思ったほどだ。 最終的には佳奈の方からそっと止めに入った。「智哉……もうダメ。これ以上キスされたら、耐えられないよ」智哉は微笑みを浮かべ、赤く染まった佳奈の唇を指先で優しく撫でながらからかった。 「キスだけで耐えられなくなるの？高橋夫人、欲求が強いね。最近、俺がちゃんと頑張ってなかったからかな？」耳元に唇を寄せ、そっと耳たぶを甘噛みしながら囁く。 「お客さんが帰ったら、ゆっくり満足させてあげるよ。いい？」佳奈は顔を真っ赤にして、彼の胸を軽く叩いた。 「もう、変なこと言わないで。みんな待ってるんだから」智哉はそんな佳奈の頬を愛おしそうに撫で、微笑んだ。 「分かったよ、中に入ろう」そう言って、智哉は佳奈の肩を抱き寄せ、一緒に室内へと歩いていった。窓際で静かにその様子を眺めていた征爾は、ゆったりお茶を飲みながらため息まじりに呟いた。 「あんなに仲がいいふたりだ。もし本当に離れるようなことになれば、智哉は耐えられずに壊れてしまうだろうな」傍らにいた奈津子は征爾を見上げ、穏やかな口
結婚は断るのに、辞職したら泣くなんて 第470話
智哉はポケットから煙草を取り出し、一本を征爾に差し出した。「奈津子おばさんとずっと接してきて、何か手がかりはありませんでしたか？彼女はいったい誰なんでしょう？昔、二人の間に何かあったはずなのに、本当に何も覚えてないんですか？」智哉がライターで火をつけると、征爾は深く煙を吸い込み、静かに答えた。「俺の習慣を彼女はよく知っているし、ときどき突然昔の出来事まで口にするんだ。だが、俺がこれまで付き合ったり関わった女性を調べ直してみても、彼女に該当する人間は全く出てこない。まさか俺が記憶喪失かと思って病院で検査してみたが、医者には頭に異常なんてないと言われる始末だ。一体どういうことなんだ？本当に小説みたいに、彼女が過去や未来から来た人間なのか……？」征爾の話を聞き、智哉は軽く唇を引きつらせ、皮肉っぽく笑った。「そんなのは作り話ですよ。信じてどうするんですか？ただ、奈津子おばさんの身元がはっきりしない限り、玲子が彼女を傷つけた罪も確定できない。今日だって、佳奈に母親の事件のことを聞かれました。このままでは、真実を隠し続けるのは難しくなるでしょうね」征爾は煙を吐き出しながら、目を細めて話した。「啓之の背後にはヨーロッパの『黒風会』がついている。近いうちに、高橋家は恐らく大きな嵐に見舞われるだろう。俺が一番心配なのは佳奈だ。啓之はお前の一番の弱点が佳奈だと知っているからこそ、何度も彼女を狙ってお前の精神を揺さぶっている。玲子のせいで母親を失った彼女に、これ以上傷を負わせてしまったら、美智子に顔向けできない」智哉は父の顔をまっすぐ見つめ、低く問いかけた。「その言い方は、俺に佳奈を諦めろと言いたいんですか？絶対に無理です。俺はこの人生で、どんなことがあっても彼女とは離れません」そう言うと智哉は一気に煙草を何本か吸い込み、咳き込んだ。征爾は彼の肩を心配そうに叩いた。「湊とも話し合った。もし最悪の状況になったら、佳奈と離れるのが彼女にとって最も安全な道かもしれないんだ。美智子のように、お前のせいで佳奈まで命を落とすのは、絶対に避けたいだろう？」「そんなことは絶対にありません！俺は24時間態勢で護衛をつけてる。絶対に彼女を守り抜いてみせます」「智哉、お前も薄々わかってるだろうが、佳奈はお前のためにもう十分犠牲を払ってきた
結婚は断るのに、辞職したら泣くなんて 第469話
誠健がこの言葉を口にした瞬間、その場にいた全員が一斉に彼を振り返った。智哉は軽く舌打ちをして笑った。 「まるで何年もご無沙汰だったみたいに頑張っちゃって。そんな息切れして弱ってると、後でカキでも食わせてやるからしっかり精をつけろよ」誠健はムッとして智哉を軽く蹴り飛ばした。 「バカ言え。俺はさっき走っただけだ！一晩どころか、三日三晩やっても俺の腰はビクともしねえよ」それを聞いた結翔は、膝でわざと誠健の腰をグリッと押した。 誠健は痛みに飛び跳ねて叫ぶ。「結翔、お前まさか俺が彼女できたのを妬んでんだろ！」結翔は冷ややかに笑った。 結翔は鼻で笑った「たった一回うまくいったぐらいで調子乗んなよ。本当に実力あるなら、毎晩彼女を満足させてこそだろ？」誠健は指を突きつけて応じた「お前ら、俺を舐めてんのか？いいぜ、毎晩しっかり満足させてやるから、よく見てろよ」久々に親友全員が揃ったこともあって、彼らの会話はいつの間にか昔のように軽口の叩き合いになっていた。そのとき庭に一台の黒いロールスロイスが入ってきた。 征爾が奈津子を連れて車から降りてくる。征爾は彼女のためにドアを開け、服を持ち、始終優しく視線を注いでいる。誠健は肘で智哉をつつき、小声で訊いた。 「おい、どういう状況だよ？高橋叔父さん、第二の青春到来か？」誠治も興味津々で続ける。 「智哉、もしかしてあの人、将来のお前の義理の母ちゃんか？でも見た感じ優しくて上品そうだし、実の母ちゃんよりよっぽどいいな」小声で話していると、征爾が明るく笑って声をかけてきた。「お前ら揃ってすぐ喧嘩して。大人になったのにまるで子供の頃のままだな」そして奈津子の手を紳士的に引いて皆の前に連れてくると、笑顔で紹介した。 「紹介しよう、こちらは晴臣の母親の奈津子さんだ。奈津子おばさんと呼びなさい」皆は一斉に礼儀正しく挨拶した。 「奈津子おばさん、こんにちは！」奈津子は微笑んで頷く。 「みんな、こんにちは」誠健が笑いながらからかった。 「叔父さん、これはどういうこと？こんなに嬉しそうな顔、何年ぶりに見たかな。もしかして俺たちにご祝儀準備させる気じゃないよね？」征爾は笑いながら誠健を軽く蹴った。 「お前は相変わらず口が達者
結婚は断るのに、辞職したら泣くなんて 第468話
そう言うと、彼はためらわず知里の唇を塞いだ。 彼女がいくら抵抗しても、巧みに舌を差し込み、甘く激しいキスで彼女を簡単に蕩かせてしまう。 やがて知里は力が抜け、小猫のように柔らかくなってしまい、誠健の好き放題にされるがまま。 誠健はその手を知里の柔らかな部分へ伸ばし、容赦なく揉みしだきながら、耳元で掠れた声で囁いた。 「知里、これでもう酔いは醒めたか？」 知里は思わず小さく頷いてしまった。 誠健は満足げに微笑み、軽く唇を重ねてから言った。 「よかった。じゃあ今からお前がシラフのうちに、俺の本気のテクを見せてやるよ」 彼がネクタイを緩める音と共に、ベルトの金属音が響いた。 その音を聞いてようやく我に返った知里は、この男が何をしようとしているかを理解した。 彼女は力いっぱい誠健を突き飛ばし、転がるようにベッドから抜け出して、逃げざまに彼の尻を思い切り蹴り飛ばした。 「誠健、あんた犬か！ところ構わず発情して！」 ベッドに突っ伏したまま、彼は低く笑った。 「お前が俺のことをヘタクソだなんて言うからだろ？男が一番嫌な言葉を知らねえのか。昨夜あんな頑張ったのに、褒めるどころか俺の能力をディスりやがって」 知里は床に落ちていたバスタオルを拾い、身体に巻きつけると、即座にスマホを取り出し、誠健に40万円を送金した。 ご丁寧にメモ欄には【あんたへの夜の代金！】と書いてある。 スマホを確認した誠健は、ますますいやらしく笑った。 「40万って安くねぇか？こっちは初夜だったんだが」 「初夜が聞いて呆れる！あんたがどれだけ遊んでるか誰でも知ってるわよ！40万もあげれば、トップクラスの相場でしょ！」 ベッドに横たわり、片手で頬杖をついたまま、彼は怒りで真っ赤になった知里の顔を面白そうに眺めた。 「その辺のホストなんかより俺の方がずっとイケメンだろ？追加料金出せば、次はもっと丁寧にサービスしてやるぞ」 「ふざけんな！最低評価だわ、二度と頼まない！」 知里はそう言い捨て、浴室へと逃げ込んだ。 1時間後、二人は車で智哉の家へ向かった。さっきまで車内で誠健に冷たく当たっていた知里は、佳奈の顔を見るやいなや満開の笑顔になり、そのまま猛ダッシュで飛び込んだ。「佳奈
結婚は断るのに、辞職したら泣くなんて 第467話
佳奈がどう思おうと、真実を知る権利は彼女にある。 美智子は彼女の母親であり、佳奈に唯一の母の愛情を注いでくれた存在だ。 智哉は、最初から真実を隠すつもりなどなかった。眉間に深く刻まれた皺を見つめ、佳奈は胸を痛めながら、小さな白い手を伸ばしてそっとその皺を撫でた。「最近また会社で何かあったの？ずっと眉間にしわ寄せてるから心配になるよ」智哉は目を伏せ、佳奈の丸くて柔らかな頬と、自分を心配してくれる瞳を見つめた。 胸の奥がちくりと痛み、彼女を抱き寄せる腕に思わず力がこもった。「あのとき奪われた機密ファイルのせいで、新製品の発売が大きく遅れてる。それに、国内外のチップの受注も減った。でも今の俺にとって最優先なのは、君と子どもを絶対に守り抜くことだ」智哉の言葉に、佳奈はすぐに察した。 彼女の安全を守るために、彼は出張さえ避けている。残業も極力控え、業務の多くは高木に任せきりになっているのだろう。 それでは会社が思うように回らないはずだ。自分が妊娠しているために自由に外出もできず、智哉もビジネスの最前線で思い切った手を打てずにいることを考えると、佳奈の胸には決意が生まれた。――赤ちゃんが生まれたら、必ず私も動いて、智哉と一緒に背後にいる犯人を捕まえてみせる。一方その頃。知里が目を覚ますと、身体じゅうがバラバラになるほど痛んだ。 頭も激しくズキズキしている。ぼんやりと天井のライトを見つめ、昨夜のことが鮮明に蘇ってきた。一人で観覧車レストランに行き、一人で食事をして酒を飲んだ。 その後、誠健に連れ帰られて……二人は寝た。思い出した瞬間、知里は勢いよくベッドに起き上がり、怒りに任せて枕を床に投げつけた。――なんであんなクソ男と寝たりしたのよ！あんな風に彼女をバカにして、見下してきた男と。 酒の勢いって本当に恐ろしい。こんな失敗、二度とごめんだわ。知里は自分を何度も罵った。 芸能界で散々イケメンを見てきたはずなのに、どうしてあんな男に翻弄されてしまったのか。悔しさのあまり髪を掴み、膝に顔を埋めた。その時、耳元で聞き覚えのある、にくらしい笑い声が響いた。「おや、どうした？目が覚めて俺が隣にいなくて寂しくなった？」誠健が部屋の入り口に立ち、腕を組み、ニヤニヤと彼
結婚は断るのに、辞職したら泣くなんて 第466話
誠健は得意げに笑いながら言った。 「もちろん行くよ。こんなめでたい日なんだ、義理のお父さんとお母さんが欠席なんてありえないでしょ」 電話を切ったあと、佳奈はその場でしばらく呆然と立ち尽くしていた。 頭の中がまだ混乱したまま、現実感が追いついてこない。 ちょうどそのとき、智哉が外から帰ってきた。 彼は佳奈のふっくらしたお腹にキスをして、にこやかに声をかけた。 「どうしたの？ボーっとして」 佳奈はほほ笑みながら彼を見上げた。 「やっぱり智哉の言った通りだった。知里、誠健と本当にくっついたみたい」 智哉は眉をひそめた。 「くっついたって、どういう意味だ？」 「つまり、寝たってこと。知里って簡単に体を許す子じゃないよ？本気で好きじゃなきゃ、あんなことしない。智哉、もしふたりが本当に付き合うことになったら……素敵じゃない？」 智哉は苦笑いしながら、佳奈のふくふくした頬を軽くつねんだ。 「そう簡単にはいかないと思うけどな。知里があいつをすぐに受け入れるなんて、ちょっと信じられない」 「なんで？誠健、いい男じゃん。相性も良さそうなのに。もしかして、何か隠してる？」 「隠してなんてないさ。ただの勘ってやつ」 まさか本当のことなんて言えるわけがない。知里が誠健の元婚約者だなんて、言ったら大騒ぎになる。 誠健の妻追いかけロード――智哉は、決してそんなに甘くさせるつもりはなかった。 そう思いながら、智哉はそっと上着を手に取り、佳奈の肩にふわりと掛けた。 「今日は天気がいいから、外に出て日を浴びよう」 ふたりは階段を下り、青く澄んだ空を見上げた。 佳奈はぽつりと呟いた。 「いいなあ……どこか遊びに行きたい。ショッピングもしたいな」 その目に宿る切実な願いに、智哉は胸が締めつけられる思いだった。 そっと彼女の頬を撫で、唇に優しくキスを落とす。 「佳奈……我慢させてごめん。ずっと家に閉じ込めるようなことして。でも今はまだ状況が危険すぎる。君とお腹の子に、何かあったら取り返しがつかない」 佳奈は微笑んで頷いた。 「分かってるよ。玲子がちゃんと裁かれるまでの辛抱だよね……それで、その件はどう？玲子じゃもう罪を認めたの？」 智哉の目
