拓海は乃亜の顔色が良くなったのを確認すると、ようやく彼女を下ろした。「じゃあ、君たちで話して。俺はちょっと電話してくる」 乃亜はうなずき、手を振って彼に別れを告げた。 二人の様子を見ていた凌央は、心の中で怒りが湧き上がった。 まったく、乃亜はなぜこんなことができるんだ! 拓海が離れていくと、乃亜は凌央の方に歩み寄った。 さっきの不快感はすっかり消え、気持ちが落ち着いて自然な状態になった。 乃亜は静かに顔を上げて凌央を見つめ、微笑んで言った。「もし、離婚して私の財産を分けられるのが嫌なら、美咲に送ったプレゼントや家、車、美容院の費用、全部返してもらってから、また財産を再分けしようかしら?」 これから弁護士を続けるつもりはないから、恥をかく心配もない。 ただ、凌央を少しでも苛立たせるためだけに言った。 凌央は乃亜の言葉を聞き、顔色が一瞬で変わった。「お前、ほんとにうまいこと言うな!俺が言ってるのはお前とあの男のことだろうが。なんで美咲の話を持ち出すんだ!」 以前は、乃亜は優しくて従順だと思っていた。それが、こんなに手強いとは思わなかった。 乃亜はその一言を聞いて、さらに強気に返した。「美咲との関係は、もう何年も前から桜華市中の人が知ってることよ。私は何も隠してないわ。あなたに何の資格で私に男がいるって言えるの?」 凌央は少し苛立ちながらも、「美咲とは何もない、誤解するな!」と反論した。その瞬間、電話が鳴った。 凌央は眉をひそめて携帯を取り出した。 乃亜は画面に表示された名前を見て、唇の端に冷やかな笑みを浮かべた。 電話の相手は美咲だと気づいた凌央は、すぐに電話を切った。 だが、すぐにまた電話がかかってきた。 乃亜はアーモンドアイで彼の顔をじっと見つめ、軽く笑った。「蓮見社長、もしお忙しいなら、私は先に失礼しますね。彼女とお話しする邪魔はしたくないので」 もう離婚したし、彼女としてはもう何も気にすることはない。彼に迷惑をかけたくない。 凌央は冷笑を浮かべながら、乃亜の手首をつかんだ。「乃亜、御臨湾に戻って住んでくれ」 離婚したが一緒に住んでも問題ないだろう、という意味だった。 乃亜はその言葉を聞いて、しばらく呆然とした。
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