玲奈は言った。「ちょっと用事があるから、何かあったら後で話そう」翔太は「わかった」と言おうとしたが、ふと玲奈は今日外出の予定がないはずだと気づく。彼女は普段、私用で会社を途中で抜けることはほとんどなかった。彼は彼女の離婚の進捗をずっと気にしている。だから、相手の多忙で、最近も手続きをしていないことを知っている。そう考えると、一瞬で玲奈が急に会社を出た理由がわかった気がする。そして思わず聞いてしまった。「もしかして……区役所に行くのか?」玲奈は彼の勘の良さに驚き、足を止めて「うん」とだけ答えて、その場を離れた。彼女の後ろ姿を見ながら、翔太は胸が騒いで、ついていきたくなる。今の彼は、相手に強い興味を抱いている。しかし二歩ほど歩いたところで、足を止める。彼の気持ちを知って以来、玲奈は仕事以外では、できるだけ彼を避けている。もし彼女の元夫の正体が気になって、彼女の後ろをついていくのを知られたら、きっと怒られるに違いない。結局、彼はついていかなかった。玲奈の姿が見えなくなると、彼も仕事に戻ることにした。玲奈が区役所に着いて10分ほどして、智昭が慌てて入ってくる。「すまない、会議が予定より10分長引いたせいで遅れた」彼の慌ただしい様子を見て、玲奈は彼が本当に忙しいのだと理解できた。多くは語らず、「手続きを済ませよう」とだけ言った。「ああ」手続き中、智昭の電話はずっと鳴りやまなかった。正式に署名する際、玲奈は智昭が電話を終えるのを数分待ち、ようやく手続きが完了する。これでも彼は多忙の中で、離婚に時間を割いてくれたわけだ。書類を提出して、玲奈が立ち去ろうとすると、智昭が言った。「まだ用事があるから、時間ができたらまた連絡する」二人の間には、もう連絡するようなことは何もないはずなのに。玲奈にはこれが単なる社交辞令だと感じられた。彼女は淡々と返事をすると、くるりと背を向けて車に乗り込み、区役所を後にする。手続きを終え、その後の二日間、玲奈はなかなか忙しかった。木曜日、玲奈は再び藤田グループを訪れる。今回の会議では、智昭は彼らの会議に出席しなかった。しかし、昼に玲奈と田中部長たちが外食に出ようとした時、階下で智昭と優里の姿を目にする。ちょうどその時、優里は智昭の腕を
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