All Chapters of アイドルの秘密は溺愛のあとで: Chapter 91 - Chapter 100

103 Chapters

第91話

「やっぱり萌々はズルいな。俺をどこまで骨抜きにすれば気が済むんだよ」「ふふ、私はまだ愛し足りないくらいです」「言ってくれる」 泣きそうだったのか、皇羽さんはグイッと目をこする。再び私を見た時、いまだかつてないくらい優しい目の色をしていて……感極まって、私が泣いてしまった。 すると、さっきから泣きっぱなしの私を見かねた皇羽さんが、私に代わって両手を広げる。「萌々、おいで」 皇羽さんの声が、耳の奥まで心地よく響く。「おいで」という声が、どうしようもなく優しい。 その声色で分かる。私たちは、ただ一緒に住む仲ではなくなったのだと。 つまり恋人同士。 だけど……私の勘違いだったらどうしよう? 特別な関係になったと思っているのが私だけだったら――?「萌々、どうした?」 なかなか飛び込んでこない私を見て、皇羽さんが首をひねる。 いっそ聞いてしまおうか。こういうのはハッキリさせた方がいいって言うし……!「皇羽さん、私たちの関係って……っ」 ギュッと目を瞑った、その時だった。 会場から「ワアアアアアアア!」と歓声が湧く。ビックリして時計を見ると、なんとコンサート開始時間を過ぎていた。……えぇ⁉「皇羽さん、コンサートが始まっていますよ⁉ 今日の主役がここにいてどうするんですか! さっさと行ってください!」「まだ〝来い〟って言われてないから大丈夫だ」「言われなくても最初から舞台に立つのが普通のメンバーなんですって! あなたはもうレオのピンチヒッターじゃなくて唯一無二のコウなんですから、行ってください!」 いつもの「交代制」が体にしみついている皇羽さん。その大きな背中をグイグイと押す。すると案の定、ドアの向こう側で「コウさんはどこへ行った⁉」と慌てるスタッフさんの声が飛び交っている。「ほら呼ばれていますよ、早く!」「……」 だけど皇羽さんは全く急ぐ気がないようで。そればかりかクルリと向きを変え、扉に背を向けてしまう。「ちょ、こんな時まで冗談はいいですから!」 焦る私。 だけど皇羽さんは――「本当は、コンサートが終わってから渡そうと思ってたんだ」 そう言って、ポケットから小さな四角い箱を出す。皇羽さんはそれを手のひらに乗せ、私に差し出した。「これが何か分かるか?」「……純金で出来た五百円玉が入っている、とか?」「ぶはっ」 顔をく
last updateLast Updated : 2025-06-15
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第92話

 力強く私を抱きしめてくれる皇羽さん。 噛み締めるように、一音一音を大切に喋る声が、堪らなく愛おしい。「さっき萌々が俺を好きって言った時、夢かと思った」「夢じゃないですよ」「分かってる。だけど夢みたいに幸せ過ぎて……まだ信じられないんだ」 ギュッ 私を抱きしめる力を、皇羽さんはさらに強める。 その時に震える手が、すごく皇羽さんらしくて……。 彼の真っすぐさに、再び私の心が震える。「信じられないなら、何回だって言いますから」「じゃあ今、もう一回」「え!」 まさか今「お願い」されるとは……! だけど甘えたがりな皇羽さんも「可愛い」と思ってしまう。もっと要求に応えてあげたい。それで皇羽さんが喜んでくれるのであれば、何度だって。 今までは、私が皇羽さんに甘えてばかりだった。だから今度は、私が甘やかす番。彼が「好きと言って」と言うなら、満足するまで伝え続けるまでだ。 どんな顔で喜んでくれるだろう。既に頭の中で、皇羽さんが喜ぶ姿を想像している。「皇羽さん……」 少しずつ覚悟を決める。 羞恥心なんて捨てて、 理性も何もかも消し去って。 皇羽さんが、一年間ずっと私を追いかけてくれたように。 私も今、一心不乱に。 我を忘れるほどに。 夢中になって、皇羽さんに想いを伝えたい――「あなたが好きです」「!」 皇羽さんと向かい合う。照れているのか、顔が赤くなっている。その姿がやっぱり可愛くて、彼に笑いかけた。「だから首だけじゃ足りません」「へ?」「口にもキスしてください、皇羽さん」「も、萌々……?」 カッコイイ顔が恥ずかしさで歪むのを、 強気で自信満々な顔が照れて火照るのを、 私はずっと、隣で見て居たい。 これから先、二人がおじいちゃんおばあちゃんになっても、ずっと――「あなたが大好き。だから私も、皇羽さんと結婚したいですっ!」 ぴょんと皇羽さんに抱き着いて、自ら唇へキスをする。 突然の事だと言うのに、皇羽さんはガッシリと私を受け止めてくれた。もちろん、キスだって。「萌々、愛してる」「ん……」 すぐに形勢逆転して、キスの雨が降って来る。受け止めきれない量に、酸欠になりそうだ。それでも彼が不安にならないよう、愛の言葉を伝え続ける。「私も、愛しています……」「くそ、どうしてくれるんだよ。もうコンサート始まって
last updateLast Updated : 2025-06-16
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第93話

「玲央さん、コンサート楽しいですか? 楽しめていますか?」  聞くと、玲央さんは「うん!」と。  子供みたいに無邪気な返事をする。 『こんなにワクワクしたコンサートは初めてだよ、楽しくて仕方ないんだ』 「そうですか、よかったっ」  玲央さん―― 私を探すためにアイドルになった人。  思えば、玲央さんの言動にも引っかかる所はいくつもあった。 ――そう言えば、私いつ怜央さんに自己紹介したっけ?  名乗ってなかったのに、玲央さんが「萌々ちゃん」と私の名前を口にしたこと。 ――好きだよ。皇羽は萌々ちゃんの事 ――な、んで。どうしてわかるんですか? ――ふふ、秘密  皇羽さんが私の事を好きだと、既に知っていた事。 ――萌々ちゃんが可愛くて仕方ないんだよ。どんな時も、一人にさせたくないって思っているんだ。あの時から  私が一番つらかったあの日を、まるで実際に見たように知っていた事。  私と皇羽さんが出会った日に、玲央さんは、私の事を皇羽さんから聞いていたんだ。  そして私を探すためにアイドルになり、レオになり……  不完全なアイドルとしての自分に悩んで葛藤し、一人静かに苦しんで来た。 「私のせいで玲央さんの人生がめちゃくちゃになったんじゃないかって、不安でした」『むしろ逆。君は俺に生き甲斐をくれたんだ。本当に感謝してもしきれない。 だからこそ俺は、やっぱり萌々ちゃんの事が好きだよ。いくら皇羽の婚約者でもね』  しれっと告白する玲央さんに、思わず笑みがこぼれる。すると会話を聞いていた皇羽さんが「おい」と、隣で口をひきつらせた。「なに堂々と横取りしてんだよ」『コンサートに遅刻する人が、四の五の言わないでほしいなぁ』 悔しがる皇羽さんを想像したのか、玲央さんは「遅刻した罰だから、これくらい言ってもいいでしょ」と笑う。 『ねぇ萌々ちゃん。皇羽が嫌になったら婚約破棄して、いつでも俺の所においでね。顔がそっくりだから嫌な思いをさせるかもしれないけど、それ以上に大事にするから!』 「は、はは……」  たぶん割と本気で言ってるのが、玲央さんのすごいところ……。 乾いた笑いを返すと、玲央さんが「コンサート楽しんでね!」とマイクを切る。「玲央さん……私こそ、ありがとうございます」  私と出会ってくれて、アイドルになってくれてありがとう
last updateLast Updated : 2025-06-17
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第94話

 いつも私のことを考えてくれるあなたのことを、どうしようもないほど好きになる。愛に溺れるというのはこういう事なのだと実感する。その証拠に、さっきまでキスをしていたのに、もう物足りない。 もっともっと触れあいたいという欲求は、もしかしたら彼以上に私の方が強いかもしれない。「皇羽さん、コンサートが終わったら……さっきの続き、少しだけしてくれませんか?」 「お前なぁ……俺が”少し”でおさまると思ってんの?」 「皇羽さんのことを信じていますから」  言うと、皇羽さんは肩をチョイとあげて「言うねぇ」と悔しそうに笑った。 「やっぱ俺の萌々はそうでなくっちゃな」 「そうって……私って皇羽さんの中でどういうイメージなんですか?」  皇羽さんは「自分で分かっていないのか?」と驚いた顔で私を見る。 「自分の魅力を知らないのか。じゃあ、その魅力に何人もの奴が心を奪われているって事にも気づいてないわけ?」 「何人ものって、大げさな」 「大げさじゃない」  皇羽さんは真剣な顔で私を見た。  そして「萌々は世界一可愛い。けど、それ以外にもいい所はたくさんある」と優しくと笑う。 「どんな時も前を向いて懸命に進むところ。そういう萌々の強さに、俺は惚れたんだ」 「私……前を向けていますか?」 「じゃあ聞くけど。お前の前向き発言に心を動かされたヤツは、今どこにいるんだよ」「え……」  悩んでいると、「時間切れ」とキスをされる。 「萌々がいなきゃ、今日ステージに立つ人数は五人だった。もしかしたら俺もいなかったかもしれない。 分かってるのか? お前は大人気アイドル Ign:s を支えた女だぞ。萌々ほど芯のある強い女を、俺は未だかつて会った事がない」 「……っ」  皇羽さんの手が、ポンと私の頭に乗る。屈んでくれたから、二人の視線が真っすぐに交わった。真剣な瞳。「俺を信じろ」と、そう私に訴えかけているようだ。 「萌々、自信を持て。前を向け。 俺が好きなお前を、萌々も好きでい続けろ。 そして自分自信を積み重ねていけ。 お前はもう黒い箱に頼らなくても、 いくらでも前へ進めるんだからな――」  私にキスをした皇羽さんは、「次会ったら覚えておけよ?」と不穏な言葉を残してステージに立った。 私も――しばらくしてクウちゃんがいる席へ戻り、歌って踊る皇羽さんを応援
last updateLast Updated : 2025-06-18
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第95話

【 短編:溺愛に隠れた嫉妬のホワイトデー 】*皇羽*「そういや皇羽。雑誌は買い占めたの?」「は? なんで雑誌?」「え」と驚いた顔をした玲央。 一緒にいた他のメンバーも、「まさかの知らされてないんだってー」「か、かわいそうですね、コウ……!」「本当に婚約してんのかよ」「……ぷ」 全員で俺を哀れんだ目で見てくる。 ってか、今笑った奴いただろ。後で覚えとけよ。「知らないなら、これあげるから読んでみて」「女性誌なんて興味が、」「嫌でも興味出てくるから。ほら」 渋々、玲央から雑誌を受け取った俺。 せかされて中身をめくる。 すると、そこには……「は? ……はあ!?」 俺は「今日一日は休みにする」と一言残して、スタジオを出る。 そして急いでマンションに帰った。 バタン「おい萌々! 何だよこれ! どういう事だよ!」「……あ。見つかっちゃいました?」「見つかっちゃいました? じゃねーよ!」 俺がワナワナと震える手で持っている物。 それは――萌々がモデルとして載っている雑誌。「なんだよ、この”期待の新人モデル”って!」「わ、私の事です……」「なんでこんなに可愛い恰好して雑誌に載ってるんだよ!」「期待の新人モデルだからです……!」 俺がここまで怒っている理由―― それは、萌々が夢乃萌(ゆめのもえ)として、女性向け雑誌にモデルとして掲載されていたからだ。しかも「期待の新人モデル。ついにデビュー!」となっている。「”ついに”ってなんだよ! 俺は始まってた事も知らないっての!」 萌々は「言おう言おうとは思っていたのですが……」と怒る俺から目を逸らした。「だって皇羽さん、忙しかったじゃないですか。コンサートが終わってもテレビ出演とかあったりして。すれ違う生活が続きましたし」「だから今日は久しぶりの休みをとって、」「今日、言おうと思ってたんです。 ちょうど雑誌の発売日だったし……」 明らかに「しゅん」としている萌々を見て、俺の頭も徐々に冷えて来た。 俺が、俺自身に「冷静に考えろ」と念を送る。「(何がどうして、そうなったんだ……。 確かに、最近の萌々は一段と可愛くなったと思ってはいたが……)」 萌々の言う「すれ違う生活」というのは本当で……。 俺は萌々の寝顔だけを見る日々。 萌々にいたっては、自分が寝ている間
last updateLast Updated : 2025-06-19
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第96話

「あ、あの。皇羽さん……」 俺が考えに耽って黙りこくっているのを、萌々は〝怒っている〟と勘違いしたらしい。 その弁明なのかなんなのか「バレンタインに何もなかったのは悪いと思っていますよ?」と、とんでもない謝り方をしてきた。「いや、俺はお前にそういう事を言ってほしいんじゃなくて」「……というと?」「バレンタインを忘れるほど、何を忙しくしていたんだっての」「っ!」 どうやら俺は核心をついたらしい。萌々ははじかれたようにビクリと体を震わせ、口を真一文字に結んだ。 口を開く素振りがないところを見れば、どうやら今すぐ話してくれる気はないらしい。「(……せっかくの休みだっていうのに)」 一年越しに再会出来て、やっと思いを伝えあって両想いになれたのに。というか婚約までして、一緒に住んでいるのに。 それでもそこまでしてでも、すれ違って上手くいかない――なんて事があるのかよ? こんなに近くにいるんだぞ? それでも分かり合えないなんて……。 萌々との間に壁はないものだと思っていたが、どうやら違うらしい。空から隕石が落ちて来たみたいだ。地球滅亡くらいの衝撃が、一心に俺へふりそそいでいる。 半ば放心状態になった俺の足が、ふらりと力なく動く。「……ちょっと頭冷やしてくる」「あ……皇羽さん!」「……なんだよ」「えっと、その……ちょっと待ってくれませんか?」「何をだよ」 すると「それは言えないのですが」と、またしても秘密。二つ目のどでかい隕石が、俺の顔面を直撃する。「今すぐに話せないなら、もういい。ちょっと一人になってくる」 萌々の制止をスルーして、俺の部屋へ向かう。 しかし扉が閉まらない。 グググと重たい音さえ聞こえて来る。 な、なんだ? 恐る恐る振り向く。そこには……「こ、皇羽さんんん……っ!」「うわ! 何してんだよ、ドアに挟まれてるぞ⁉」 防音室特有の重たいドアに体を挟まれながら、俺の服を掴む萌々。その情熱は有難い限りだが、見た目はかなりホラーだ。急いでドアを支え、萌々が呼吸できるよう隙間を作る。「お前、何やって……」「皇羽さん!」 ここ最近で一番どでかい声を出した萌々は、キッと鋭い視線で俺を見る。「皇羽さんとこのままでいるのは、嫌です!」「萌々……」 まさか俺を追いかけてきてくれたのか……? その気持ちが嬉しくて、俺
last updateLast Updated : 2025-06-21
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第97話

 「萌々を信じられなくて、何が婚約者だっての……」 雑誌にも、堂々と婚約指輪をつけてくれる萌々。 もちろんインタビューで指輪のことを聞かれていたが、萌々は「お守りです」と答えていた(ちなみに俺は指輪のことを聞かれたら笑ってスルーしている)。 俺の萌々が世に出る……良い事だろ。 だって萌々の魅力を、俺以外の奴も拝めるってことだぞ?「って、そう思ってんのになぁ……」 雑誌の中で笑う萌々が、俺の知る萌々じゃないみたいで……凹む。急に遠くへ行ったみたいだ。「そうか……萌々も、こんな気持ちだったんだろうな。今、この瞬間も」 さっき俺を見て「いつも皇羽さんは完璧でいいな」と羨んでいたのは、このことだと理解する。萌々は自分に足りないものを、俺が持ってると思っているんだ。そんなこと、あるわけないのに。「萌々……」 自分の身に起きて初めて分かる。好きな人が、自分から離れていく感覚。 下から見上げる感覚。常に手を伸ばしている感覚。背伸びしている感覚。 それらは常に自分を追い立てるものだ。焦らせるものだ。もしかしたら自分は一生届かないのではないかと、伸ばした手を降ろしてしまいそうになる。 それが羨望であり憧れだ。だからか、どうしようもなく心が寂しくなる。一人で頑張っている気になるんだ。抱えきれない負の感情に押しつぶされることだって……。 しかし萌々はこれほどまでに寂しい気持ちを抱きながら、それでも俺に「 Ign:s に加入しろ」と後押ししてくれた。いつも笑顔で「がんばれ」と応援してくれた。「萌々、お前はやっぱりすごい女だよ」 いつも自分以外の奴を一番に考える、心が強い女。 そんな萌々を――俺は今、また好きになった。「……負けてらんないよな」 部屋の隅にある電子ピアノへ近寄り、鍵盤に指を置く。 そして一音一音、丁寧に奏でた。愛しい婚約者のことを考えながら。「♪~」 一心不乱に音を紡ぐ。部屋の外でチョコのいい匂いがしているとは、知らないままに。  そしてしばらく経った時―― ガチャ「萌々」「あ、皇羽さん」「……何やってんだよ?」 部屋の中で、黒い煙があちこちに漂っている。 なんで火災報知器が鳴らない? これは感知していいレベルだろ? 見上げると、なぜか火災報知機にチョコの塊がついていた。どうやら、そのせいで壊れているらしい。お
last updateLast Updated : 2025-06-22
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第98話

 「萌々、お前。俺を――俺たち Ign:s を、追いかけてくれてんだな」 「う~っ。でも一生つかまえられませんよ。カッコよすぎですもん……っ」 「ぶは、なんだそれ」   次から次に零れる萌々の涙を、丁寧にふき取っていく。チョコも何もかもが混じって、萌々の顔はぐちゃぐちゃだ。 だけど、それがまた堪らなく愛おしくなってしまうのだから……俺も、このチョコみたいに溶かされているんだろうな。萌々を愛する熱量が多すぎるんだ。まさに溺愛。 いつまでもしゃくりあげるものだから、「萌々」と名前を呼ぶ。少し赤くなった目が、いつもより更に潤みを増して俺を見つめた。   「俺が言った事を覚えてるか?」 「俺への当てつけでモデルになったのか、ですか?」 「……違う」     ちゃっかり根に持ってやがる……。 「悪かったよ」と頭を撫でながら抱きしめる。  「お前の魅力はスゴイんだって、いつか言ったろ。俺が知らない短期間の内にモデルになれるほど、編集者の目にとまるほど。萌々は魅力で溢れてるんだよ」   俺はスマホで検索して、とある物を見せる。 それは――   「これ……私のこと?」 「そーだよ。夢乃萌の名前で検索かけると、皆の反応がこれほど返ってくるんだよ。すごいだろ?」 「……びっくり、しすぎてっ」   本当にビックリしたらしい。涙がピタリと止まっている。萌々の目はキラキラと輝き、画面に釘付けだ。良かった、すごく嬉しそうだ。 だけど……いつまでも画面を見て、俺のことを見やしない。主人にかまってもらえない犬みたいに、「時間切れ」と唇を奪う。ついでにほっぺたも伸ばしておいた。 「いひゃいれすよ、こうしゃん!」 「はは、すごい顔。でも……そんな顔が見れるのは、俺だけなんだぞ」 「皇羽さん……?」    急に真顔になった俺を見て、萌々は固まる。  同時に、顔を少しずつ赤く染めていった。  「いくら皆がお前の魅力に気づこうが、本当の萌々を知っているのは俺だけだ」 「そ、それは私だって同じです……っ」「ふぅん? じゃあ俺の何を知ってるんだよ?」 「……独占欲が強い所」「ふっ、あたり」   その時、萌々は自分の手についたチョコの塊に気づいてティッシュでふき取ろうとする。だけど俺がその指を舐め取って、パクリと食べた。 
last updateLast Updated : 2025-06-23
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第99話

【 短編*萌々と皇羽、交際バレのピンチ⁉ 】 モデル事務所の中を歩いていた時、いきなり声をかけられた。「君がモモちゃん? いまこの会社が押しているっていう」「……どなたですか?」 首から下げているネームを見ると「記者」と書かれてあった。記者が、なぜモデル事務所に? 不思議に思っていると、目の前の短髪男性が「そう警戒しないで」とニタリと笑う。「俺たちの会社って、いわゆる今バズってる子を追っているんだよね! それで夢乃萌って子が有名って聞いてさ。雑誌見てもキレイだと思ったけど、いま実際に会ったら本当にキレイでビックリしちゃったよ! 君、モテるでしょー?」「……ありがとうございます。だけどごめんなさい、急いでいるので」「そう言わないで」 記者は妖しい笑みを浮かべながら私へ近づく。適当に褒めて近づくという、よくある手口かと思えば……どうやら違うみたい。なんだか今までの人とは違う。なんとなく直感だけど……近づかない方がいい、ということは分かる。 「仕事のことなら、マネージャーを通してください。私から直接お受けすることは出来ません」「立ち話でいいんだよー? 例えば……」  ズイッと体を近づけられ、思わず退いた。これほど強引な人、今まで見たことない。マネージャーに助けを呼ぼうにも、ここは少し入り組んだ場所で、他の人の目に入らないエリアだ。「お、大声を出します」「じゃあ俺も大声を出しちゃお。大人気モデルの夢乃萌が、首筋にキスマークをつけているだなんて。絶対にスクープだよねぇ?」「!」 見られないよう、咄嗟に自分の首をガードする。すると吹き出して高笑いする記者と目が合った。 「その反応、本当に誰かと内緒で付き合っているんだねぇ?」「まさか……カマをかけたんですか?」「そういうのも仕事の内でね」  悔しそうな顔をする私に、記者はニタニタと笑みが止まらないらしい。「へぇ~」と、私の顔をジロジロと眺める。「そっかそっかぁ、彼氏がいるんだぁ」「……何のことでしょう」  今さら、苦しい言い訳かもしれない。だけど私と付き合っている……いや、婚約している皇羽さんのことがバレてしまったら! 私だけじゃなく、Ign:sの皆にも迷惑をかけてしまう。 玲央さんだって、せっかく新しいレオとして活動しているのだから。私なんかのスクープで潰しちゃダメだ
last updateLast Updated : 2025-06-24
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第100話

 タイミングが悪いことに、皇羽さんが帰ってきてしまった。記者を侍らせている、私の元へ……! しかも皇羽さんからは記者の姿が見えていない。きっと、今ごろシャッターを百枚ほど切られているはずだ。私は皇羽さんへ飛びつきたいのを我慢して、横を素通りする。「は?」 もちろん皇羽さんは不機嫌になる。「なんでムシするんだよ」と、大胆にも私の腕を掴んで来た。 な、何をやっているんですか皇羽さん! そんなことをしたらバレるじゃないですか!「は、離してください。警察を呼びますよ……!」「はぁ? お前どうした、頭でも打ったかよ」 皇羽さんの眉が、上がったり下がったりしている。かなり混乱しているみたい。そりゃそうだよね、久しぶりに彼女の前へ現れたのに、変質者扱いされているんだもん。いや、中身はまごうことなき変態だけど。(それより記者の目をはぐらかさないと!) 怪しまれたらそこで終わり。夢乃萌とコウが交際していると世界中にバレてしまう。 私の失態で、たくさんの人が悲しむなんてダメだ。だから何が何でも誤魔化さないといけない。例え、皇羽さんをちょびっとだけ傷つけたとしても……!「だ、誰かと勘違いしていませんか? 私は一般人です」「俺がお前を間違うはずないだろ。でもシャンプー変えたか? 前と匂いが違う、今回もいい香りだ」「!」 くんくんと、私に近づき匂いをかぐ皇羽さん。もう他人ではない距離感になっちゃってるよ! 私の心臓がバクバクと鳴り、混乱は極限状態にまで上がっていく。「さ、さようなら。では!」「おい、だから何の冗談だって、萌々!」 皇羽さんが私の名前を呼んだ時、腕を掴まれる。あぁ、だから、そういう行動も全部写真に撮られているんですって! どうしたらいいか分からない。パニックで、泣きそうになってしまう。視界が潤んでいく。 いつもは第六感が働いて、私の言いたいことを理解する皇羽さんが今日に限って機能不全。どうやら久しぶりに会えた喜びで、それどころじゃないらしい。 皇羽さん、私だって近づきたいよ。ハグしたいよ、皇羽さんの名前を呼びたいよ!(だけど出来ないの! 記者に見られているから!) 断腸の思いで、掴んだ手をふりほどこうとした。だけど皇羽さんを見ると、両腕が空っぽ。あれ? 私の腕を掴んでいるんじゃないの? 皇羽さんじゃないなら、誰が私の手を? 見ると
last updateLast Updated : 2025-06-25
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