「やっぱり萌々はズルいな。俺をどこまで骨抜きにすれば気が済むんだよ」「ふふ、私はまだ愛し足りないくらいです」「言ってくれる」 泣きそうだったのか、皇羽さんはグイッと目をこする。再び私を見た時、いまだかつてないくらい優しい目の色をしていて……感極まって、私が泣いてしまった。 すると、さっきから泣きっぱなしの私を見かねた皇羽さんが、私に代わって両手を広げる。「萌々、おいで」 皇羽さんの声が、耳の奥まで心地よく響く。「おいで」という声が、どうしようもなく優しい。 その声色で分かる。私たちは、ただ一緒に住む仲ではなくなったのだと。 つまり恋人同士。 だけど……私の勘違いだったらどうしよう? 特別な関係になったと思っているのが私だけだったら――?「萌々、どうした?」 なかなか飛び込んでこない私を見て、皇羽さんが首をひねる。 いっそ聞いてしまおうか。こういうのはハッキリさせた方がいいって言うし……!「皇羽さん、私たちの関係って……っ」 ギュッと目を瞑った、その時だった。 会場から「ワアアアアアアア!」と歓声が湧く。ビックリして時計を見ると、なんとコンサート開始時間を過ぎていた。……えぇ⁉「皇羽さん、コンサートが始まっていますよ⁉ 今日の主役がここにいてどうするんですか! さっさと行ってください!」「まだ〝来い〟って言われてないから大丈夫だ」「言われなくても最初から舞台に立つのが普通のメンバーなんですって! あなたはもうレオのピンチヒッターじゃなくて唯一無二のコウなんですから、行ってください!」 いつもの「交代制」が体にしみついている皇羽さん。その大きな背中をグイグイと押す。すると案の定、ドアの向こう側で「コウさんはどこへ行った⁉」と慌てるスタッフさんの声が飛び交っている。「ほら呼ばれていますよ、早く!」「……」 だけど皇羽さんは全く急ぐ気がないようで。そればかりかクルリと向きを変え、扉に背を向けてしまう。「ちょ、こんな時まで冗談はいいですから!」 焦る私。 だけど皇羽さんは――「本当は、コンサートが終わってから渡そうと思ってたんだ」 そう言って、ポケットから小さな四角い箱を出す。皇羽さんはそれを手のひらに乗せ、私に差し出した。「これが何か分かるか?」「……純金で出来た五百円玉が入っている、とか?」「ぶはっ」 顔をく
Last Updated : 2025-06-15 Read more