吉岡の眼の奥にも興奮が宿っていた。彼は分かっていた。紗雪についていけば、絶対に損はしないと。こんなに長い間ついてきて、得たものも誰の目にも明らかだ。何より、彼は紗雪から本当に「学ぶもの」があった。吉岡はずっと、手にした富よりも、そこで得た知識や経験の方が価値があると思っている。紗雪は片付けを終えると、立ち止まることなくそのまま去った。家に戻ると、見慣れたマンションを前にして、胸の奥から言いようのない感慨が湧き上がる。最初にここへ住むことになった時は、母親の強引な後押しがあったからだ。京弥との関係も、最初は互いに必要があってのこと。この家では色々なことが起こった。その中でも、伊澄という存在は一番大きい。ぶつかり、恨みもした。それでも、紗雪は確かに愛していたのだ。あの頃、一番憎んでいた相手は、紛れもなく京弥だった。相手にはすでに好きな人がいるのに、どうして自分に近づいたのか。しかも、自分には好きな人はいないけど、家族に押されたからだとまで言って。そのあと自分に全部ばれるくらいなら、よほど気まずいはずだ。そんなこと、京弥が考えないなんて、ありえない。あの時の自分は、彼のことを心底嫌悪していたし、憎んでもいた。そこへ伊澄の存在まで絡んで、全部が腹立たしく見えていた。けれど、病院のベッドで一ヶ月を過ごした後、紗雪は気づいた。京弥は本気で自分を好きだったのだと。そうじゃなければ、一番に駆けつけるはずがない。全ては、思い返せばきちんと「ヒント」が残っていた。少しでも鈍くなければ、気付けたことだ。紗雪は思わず笑ってしまう。精巧な顔に浮かぶのは、どこか苦笑と、そして胸の奥のしみじみとした思い。どうしてあの時分からなかったのだろう。京弥はずっと自分を好いてくれていたのに、遠回りばかりして、何度もすれ違って。そうでなければ、今頃二人はきっと幸せに暮らしていたはずだ。でも、結果は悪くなかった。紗雪は別荘へ足を踏み入れながら、京弥の「好きな人」についての答えを胸に抱く。その人は、おそらくは自分だ。昔はそんな可能性、全く考えたこともなかった。でも思い返してみると、自分が「好きな人」の話をするたび、京弥の視線はいつも自分に向いていた。これだけ揃っていて、
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