All Chapters of クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!: Chapter 1121 - Chapter 1130

1134 Chapters

第1121話

スタイリストたちは、そんな恋を心底うらやましく思った。ふとした瞬間、彼女たちも考えてしまう。いつか自分にも、あんな甘い恋が訪れるだろうか、と。最後には店長が二人を車まで見送った。戻ってくると、スタイリスト全員がキラキラした目で固まっていた。「私たちにもあんな甘い恋、いつか来るかな」「それそれ。二人お似合いすぎでしょ」「顔も雰囲気も、全部トップレベルじゃん......」誰かが自嘲気味に頬をつまみながらつぶやく。「私じゃきっと無理だよね」店長は苦笑して首を振った。「はいはい、感傷はそこまで。仕事しないと。甘い恋なんて言う前に、働かなきゃ。恋どころか給料も飛ぶよ」その言葉に全員ビクッと固まり、慌てて持ち場へ散っていく。恋はまだ遠いけど、仕事があるなら十分幸せ。まずは視野を長く持つこと。一つのことに囚われすぎちゃいけない。今の世の中、恋愛脳より仕事脳の方が生きやすくて稼げる。だから、今日も努力あるのみ。*車に乗り込むと、京弥はずっと紗雪を見つめていた。その視線に、今度は紗雪が照れてしまう。頬に手を当て、ためらいがちに尋ねる。「どうしたの?そんなに見つめて......」見られすぎて、さすがに落ち着かない。さっきのスタジオでもずっとそうだったのに、外に出た今のほうがさらに熱い視線だ。京弥はまるで当然のように答える。「だって綺麗だから。それに、自分の妻を見るのは普通だろ?」「飽きたりしないの?」と彼女が頬を膨らませると、彼は即座に首を振った。「そんなわけない。例えをするなら、紗雪は俺が大事に育てたバラだ。こうして美しく咲いてるのを見ると、自分は花を育てるのが上手なんだって思える。よく言うだろ。妻の美しさは夫の誇りだって」紗雪は小さく息を飲む。驚きと、照れと、そして胸の奥を満たす温かさ。昔の京弥なら、こんな風に言葉にしなかった。今の彼は、迷いなく愛を伝えてくる。海外から戻ってきて、不安になることもあるけれど......その不安を、彼は一つひとつ優しさで埋めてくれる。ベッドで眠り続けていた頃から、ずっと。変わらずそばにいて、支えてくれた。目がじんと熱くなる。「京弥......ありがとう」昏睡のときも。目覚めた今も。
Read more

第1122話

京弥がそばにいるだけで、無限の力が湧いてくる気がした。まさにそのおかげで、紗雪は自分が以前よりずっと成長できたと感じていた。紗雪がそう言い終えた瞬間、京弥はわずかに身を寄せてきた。その意図は明らかだ。思わず紗雪は慌てて手を伸ばし、彼の胸元を押し止める。「め、メイクしたばかりだよ、それに......」視線で前の運転席を示す。秘書がいる。吉岡は空気を読み、即座に仕切りを上げた。社長の秘書ともなれば、どんな状況でも冷静に対処できなければならない。でなければ、すぐに排除される世界だ。一方で京弥はというと、紗雪の言葉を聞いた瞬間、彼女の手首を掴みそっと引き寄せる。唇を緩く吊り上げ、耳元へ。低く甘い声が落ちる。「安心して、ちゃんと注意するよ。あとで、メイクは俺が直してあげるから」耳に触れるような囁き。長いまつ毛がかすかに震え、瞳が揺れる。もともと妖しく美丈夫な男が、こんな声で囁けば――まるで心を惑わす人魚の囁きだ。結局、紗雪は小さく頷くしかなかった。こんな京弥を前に、彼女には自制心なんて存在しない。そのことに気づき、思わず顔を覆いたくなる。自分がいつの間にこんなふうになったのか。でも、こういう京弥なら――甘く沈んでしまう。思考がふわりと漂う間に、薄い唇がそっと触れてくる。軽いキスひとつで、心臓がきゅっと締まる。目を閉じて応える。好きな人の優しい仕草に、抗えるわけがない。紗雪の反応を感じると、京弥は細い目をわずかに開いた。瞳の奥がきらりと興奮に光る。彼はゆっくりと、じわじわ追い詰めるのが好きだ。獲物が罠に落ちる瞬間を眺め、すっかり絡め取ったところで味わう――そういう男だ。案の定、紗雪が彼の優しさにほだされていると、次の瞬間には勢いを強めてくる。紗雪は目を見開いた。陶酔しきった顔で迫る京弥が信じられない。何せ仕上げたてのメイクだ。このままだと、台無しにしてしまう。だが焦れば焦るほど、彼は楽しそうだ。男の胸板を押したが、後頭部を押さえられ、逃げられない。力では敵わないと悟り、抵抗をやめるしかなかった。やっと一旦唇を離すと、耳にかかる息の熱さに体が震える。「さっちゃん。キスってのは、集中するものだよ」反論しようとした瞬間、す
Read more

第1123話

紗雪は、自分の頬が真っ赤に染まり、身体までほんのり熱を帯びているのをはっきり感じていた。けれど目の前の男はというと、乱れた呼吸と、彼女の口紅がうつったせいで少し赤みを帯びた唇以外、むしろ先ほどより精悍に見える。思わず紗雪は小声でぼやいた。「メイクしたばっかりなんだから、少しは我慢できないの?」京弥は気まずそうに鼻先を触り、気に入られようと彼女にそっと近づいた。紗雪は呆れ顔で言う。「バッグ、よこして」彼もすぐに意図を理解した。要するに、化粧直しだ。紗雪は手鏡を取り、顔をチェックする。幸い、まだリカバリーできそうだ。スタイリストが使ったコスメは一流品で、キープ力も抜群。唇の色が少し薄くなったのと、髪が少し乱れたくらいで、大きな崩れはない。簡単に整えると、すぐにいつもの完璧な姿に戻った。そんな彼女に京弥はおずおずと近寄る。紗雪は思わず身を引いて言った。「もうすぐ会場に着くよ。もう変なことしないで」その焦った様子に、京弥は思わず笑いをこぼす。「ただ髪を直してやろうと思ったのに」それを聞いて紗雪は少し安心し、前のめりに顔を近づけた。「じゃあ、お願い」会場に着く前に細かいところを確認したかったのだ。京弥は彼女の額にそっとキスを落とし、優しく微笑む。「これでよし。さっちゃんも、そんなに緊張しないで」その一瞬のキスに、紗雪は呆然と固まってしまう。耳まで真っ赤に染まり、声が上ずった。「もう、いいから。そろそろ降りる準備しよう」京弥は「うん」と短く答え、唇を軽く拭った。前席の吉岡は、ようやく安堵の息をつく。彼はわざと遠回りして運転していたのだ。紗雪が男に気を取られるような人ではないと信じてはいたが、もし途中で車を止めてしまえば、後部座席の雰囲気を壊しかねない。吉岡は馬鹿ではない。そんなことをすれば真っ先に怒られるのは自分だ。給料を減らされる可能性だってある。だから、少しでも上機嫌でいてもらえるように、慎重に時間を稼いでいたのだ。やがて、後ろの二人が落ち着いたのを見計らって声をかける。「到着しました」それを聞き、紗雪は短く答えた。「ありがとう、吉岡」そして隣の京弥に目をやり、小声で言う。「さあ、降りましょう」――もうふざけない
Read more

第1124話

そう考えたところで、京弥は首を振った。やはり自分の考えが狭すぎた、と。我に返った時には、紗雪はすでに車を降りる準備をしていた。京弥は慌てて先に降り、車の前を回って反対側へ向かう。紗雪もその動きを見て、特に何も言わず車内で待った。彼が車の後部座席のドアの前に立った瞬間、その姿は周囲の視線を一気にさらった。紺青のスーツに長身。髪はオールバックに整え、鋭い眉と深い眼差し、通った鼻筋――たった一目で、誰の記憶にも焼き付くような男。その姿を見た人々はざわつき始める。「こんな人、今まで見たことないわね」「もし見てたら、絶対忘れないわよ」「かっこよすぎ......」稀に見る美形と、自然と滲む圧倒的な存在感。視線はその男に釘付けになり、次に気になるのは――彼の同伴者。まさかの人物が出てきたらしい。彼は後部座席のドアを開ける。すると、すらりと伸びた白く華奢な脚が現れ、淡い水色のハイヒールがキラリと光った。その一瞬で、周囲の空気が変わる。呼吸を呑む音がそこかしこで聞こえた。「......なにあの脚、現実?」「これだけで一年は眺められる」ざわめく周囲。京弥は気づいていないわけではない。だが、ここは紗雪が輝く場所。引いていい場面ではない。自分が足を引っ張ることだけは、絶対にあってはいけない。彼は手を差し出す。紗雪は迷いなく、その手に自分の指を添えた。細く白い指先が、男らしい手の甲に触れた瞬間、周囲の視線が一気に熱を帯びる。――いったい、中に座っていたのは誰だ?期待と興奮が膨らむ中、二人はまるで他の誰もいないかのように落ち着き払っていた。京弥はただ、紗雪を守るように寄り添い、周囲の欲に満ちた視線から彼女を遮ろうとしている。そして、彼女が車から降り立った瞬間、周囲は一斉に息を呑んだ。見覚えのある華やかな顔立ち。だが、あまりに完璧な登場に脳が追いつかない。「え、あの人......」「知ってる......だけど、オーラありすぎて一瞬わからなかった......!」ただ登場しただけで、場の空気が一変した。誰もが目を奪われる、堂々とした美しさ。
Read more

第1125話

「みんなどうしたの?この人、今日のパーティーを主催してる二川グループの紗雪様じゃない?」その一言に、周囲の視線が一斉に大きく開く。信じられないという顔だ。二川家の次女について多少の噂くらいは知っている。たしかに綺麗だとは思っていたけれど、ここまで人目を惹くほどだっただろうか。まさか、自分たちが何か見落としていたのか――そんな困惑が空気に混じる。互いに顔を見合わせ、言葉が出ない。まさか主催者の娘の顔すら覚えていないとは、客として情けない話だ。だが、そんな視線も気配も、紗雪は一切気に留めていなかった。彼女は隣に立つ京弥へ視線を向け、そっと腕を伸ばし、自然と彼の腕に自分の腕を絡める。寄り添うふたりは、まるで絵画の中の美男美女。美男美女というだけで十分目を引くのに、紗雪と京弥はその中でも別格だ。車を降りてからホールに向かうまで、ずっと周りに視線が集まっていた。紗雪にとっては慣れた光景で、気にするほどのことでもない。しかし、京弥は違った。小さく声を落として紗雪が尋ねる。「大丈夫?こういうの、まだ慣れていないでしょ?」彼女の誘いで来てもらった手前、もし負担になっているなら申し訳ないと感じている。自分は慣れているが、それを周りの人にも求めるのは違うと分かっているからだ。だが、京弥は首を横に振る。紗雪の耳元に顔を寄せて囁く。「平気だよ。紗雪が一緒なら、何も怖くない。俺だって、ちゃんと君を守れるからな」紗雪はふっと微笑んだ。ふたりの空気は柔らかく甘く、まるで周囲が淡いピンク色に染まったかのようで、誰も入り込む隙がない。入り口に着くと、スタッフが紗雪の顔を認め、深く礼をして案内する。ふたりが中へ入ると、パーティー場の全貌が視界に広がった。金燦々と輝き、豪奢な空間。頭に浮かんだ言葉は「壮麗」だった。スタッフが言う。「紗雪様、こちらへどうぞ。会長がお待ちです」紗雪は軽く頷き、理解の意を示す。京弥と寄り添ったまま歩みを進めると、すでに多くの客が集まっていた。視線を走らせれば、知っている顔も初対面も一瞬で判断できる。頭の中では既に整理が済んでいた。ふたりが扉を開けた瞬間、場の視線が一気に集まる。そして、そのあまりに整った容姿にざわつきが起きる。「え
Read more

第1126話

「え?でも、普段はこんな見た目じゃなかったよね?」「いつもこうだよ。ただ普段はあまり飾ってないだけ」とその人物が困ったように説明する。その言葉でようやく皆もピンときた。さっきまで「誰だ?」と思っていた女性の正体――紗雪だと気づく。彼女の身元が判明すると、今度は隣の男性に視線が集まる。「そういえば、前から二川家の紗雪は結婚したって噂があったよな。ってことは、彼は旦那さん?」「間違いないでしょ。二川グループには暗黙のルールがあるらしいよ。結婚してからじゃないと家業を継げないって」「そんな決まりがあるの?」「詳しくは知らないけど、今はもう会長代理だし、そういうことなんだろ」「情報が全然出てなかったし......彼、相当な背景ありそう」好奇心はさらに膨らみ、視線が一斉に京弥へ集中する。これまでそんな話は一切漏れてこなかった。もし知っていたなら、皆こぞって紗雪にアピールしていたはずだ。なにせ、二川グループは鳴り城でトップクラス、海外と比べても引けを取らないほど。つまり紗雪と結ばれれば、自分たちも「飛躍」できる。冗談めかして誰かが言う。「そんな条件なら、俺だって婿入りして養われたいくらいだわ」「いや無理でしょ。向こうが選ばないよ」「でもあの男、顔良すぎない?まさか......ヒモ、とか?」その含みのある言い方で、皆は察した。要するに「こいつは顔だけで飯食ってる男だ」と皮肉っているわけだ。しかしここは二川家のパーティー。本人不明のまま悪口に乗るのは危険だ。余計なことを言って火の粉を被るのは誰だって嫌だ。人間とはこういうものだ。損得勘定ははっきりしている。ひそひそ声が広がりかけたその時――紗雪と京弥が視線を向けるだけで、空気が凍り、誰もが口を噤む。彼女が軽く周囲を見渡すと、全員が揃って黙り込んだ。――裏でしか噂できない連中ばっかり。紗雪は心の中で冷笑する。母が言っていた「人脈」とは、まさかこんな人たちのこと?こんなのと仕事するくらいなら、二川グループなんて潰れた方がマシ。安東家と同じだ。せっかく一つ切り離したのに、また同じものを抱え込むなんて――そんなこと、もうごめんだ。
Read more

第1127話

京弥は紗雪の隣に立ち、彼女の気分がわずかに沈んだのを察する。「あの人たちのせいなのか?」紗雪は首を振る。「ううん。とにかく今は母を探しに行こう」ここで時間を無駄にしたくなかった。せっかくのパーティーだというのに、まるで見世物の猿のように見られる――そんな状況が耐えられない。こんな無駄な時間を過ごすくらいなら、有益なプロジェクトの話を何件も進める方がマシだ。京弥は静かに頷き、彼女の気持ちを理解したと示す。だが彼は目だけを上げ、周囲で陰口を叩いていた面々の顔をひとり残らず記憶した。後で必ず、片をつける。ここは二川家の縄張り。動けば自分の立場を荒らすことになる。――そろそろ......彼女に自分の正体を話すべきかもしれない。こんなふうに時間だけが過ぎていけば、ますます言い出しづらくなる。もし他人の口から知られてしまえば、彼女はもっと怒るだろう。どうして自分は隠したんだ......後悔が胸を刺した。やり直せるなら、最初から嘘なんてつかなかったのに。だが今更何を言っても遅い。二人は美月を探しに歩き出す。すると、彼女はグラスを手に笑顔で客と談笑していた。目が合った瞬間、紗雪は悟る――今行くべきではない。割り込めば話の流れを壊すだけだし、自分が入る余地もない。次の瞬間――目の光がふっと落ちる。下ろした手がきゅっと握りしめられた。――なぜ緒莉がそこにいる?母の隣に立ち、盛装し、まるで当たり前のように微笑んでいる。挑発だと言わんばかりに。紗雪は動かず、ただ静かに二人を見つめた。緒莉は従順な娘のふりをし、淡いピンクのマーメイドドレスで可憐に飾っている。だがその裏側に潜む蛇の毒を紗雪は知っている。どれだけ見た目が綺麗でも、心は真っ黒だ。京弥も彼女の視線を追い、理由を理解した。――まさかあいつまで連れてくるなんて......このパーティーは、安東家との契約破棄の公表、そして紗雪が後継者であることを正式に示す場。緒莉に関係することなど何一つもないはずだ。なのになぜ?一ヶ月の昏睡、その原因の一端を担った女。すべて美月に説明したはずなのに......まだ分かっていない。京弥の胸に、痛みが走る。大切に守ってきた人が、こんな扱いを受け
Read more

第1128話

「君のそばには、ずっといるよ。どんな決断をしても、俺はさっちゃんの背中を支える」その言葉に、紗雪の胸が一気に熱くなる。彼女は振り向き、無理に笑みを作った。「うん。ありがとう、京弥。こんなのもう慣れてる。今一番大事なのは、パーティーを無事に終えること。二川グループの顔に関わるんだから」その凛とした態度に、京弥はふっと笑みをこぼす。彼が惹かれた女は、やはり格が違う。どんなに理不尽な目に遭っても、私情と仕事をきちんと分け、優先順位を見失わない。その強さが、眩しかった。京弥が口を開こうとした瞬間、明るい声が割り込む。「紗雪、やっと見つけたよ!」二人が振り向くと、清那がドレス姿で嬉しそうに駆け寄ってきた。紗雪は苦笑する。「珍しいね、ドレスなんて」清那は彼女の周りをぐるりと回り、感嘆の声を上げた。「それは私のセリフ!その水色のドレス、目が覚めるくらい綺麗よ。まさか紗雪がこんな格好するなんて」「ねえ、そのスタイリストってどこの誰?紹介してよ!」彼女は紗雪の腕を掴み、ゆらゆら揺らしながらせがむ。紗雪は苦笑して頷く。「分かった、あとで教えるから。それより、一人で来たの?」周囲を見渡しながら尋ねる。本来なら松尾家の両親も来るはずだ。清那は首を振った。「両親と一緒にきたの。来てすぐあなたと兄さんを探してた。でもまさか紗雪たちの方が遅いなんて」その言葉の途中、清那はこっそり京弥の表情を窺う。――暗い。そしてなぜか、彼の視線は彼女の手元に釘付け。紗雪の腕を掴んでいる手を。瞬間、清那はびくっと手を離し、サッと横へ一歩下がった。――なんで自分が従兄を怯えてる?!親友なのに!突然距離をとった清那に、紗雪は首を傾げる。「どうしたの?急に離れちゃって」清那は引きつった笑いを浮かべた。「な、なんでもない。ちょっと暑いかなって......距離空けた方が風通るし」「え?ここ室内だよ。エアコンも効いてるし、もう秋なのに......」その指摘に、清那は心の中で頭を抱える。――言い訳下手すぎ!でも従兄の機嫌治ってきたし、このまま押し通すしかない。「ほら、こういうドレスって慣れなくてさ。やっぱり普段のラフな服の方が楽だよね」と、自分のパフスリーブを見下ろして小さくため息
Read more

第1129話

彼女はもう一度、紗雪のくっきりした鎖骨に目を奪われ、思わず触ってみたくなる。美人にくっつきたいなんて、誰だって思うだろう?けれど、横には従兄という巨大な障壁が存在していて、紗雪に近づくチャンスなんてまるでない。清那は心の中でひっそりと毒づく。ほんと、恩知らずな従兄だ。先に紗雪を紹介したのは自分なのに。その結果、自分の親友に触れるどころか、距離を置かれる羽目になるなんて。――自分って、史上もっとも哀れな女じゃない?親友とくっつけたいだけなのに、その機会すら奪われてるなんて。そもそも最初に紗雪を従兄に紹介しちゃったのが失敗だったかも。ここまで考えて、清那は早くも後悔し始める。でも今さら変えようとしても、もう遅い。そんなことを思いながら、しょんぼりと紗雪と京弥のそばに立つ。変わりようがない。二人はもうこんなに親しげなんだから、どうしようもない。紗雪はそんな清那の様子に気づき、少し不思議そうな顔をする。けれど、普段から変な子だし、と深く考えるのをやめた。今日は単に機嫌が悪いだけかもしれない。「彼女、どうしたんだろう......何かあったかな」紗雪が京弥に尋ねる。京弥は首を振る。「さあ。変なのはいつものことだろ」その言葉に、紗雪はまったく否定せず、むしろ納得したようにうなずく。「確かにね。今に始まったことじゃないし」その一部始終を、清那はしっかり目撃してしまった。まさか、二人の中で自分の認識ってこんな感じなの?本当にこの二人......やっぱり似た者同士だ。ショックのあまり口を開きかけたけど、京弥の鋭い視線が飛んできて、反論を飲み込む。――いいや、もういい。二人が仲良ければそれでいい。誤解されたって構わない。従兄に変な疑いをかけられないだけマシ。清那はこっそり紗雪のそばに寄り、小声で囁く。「ねえ、おばさんのところ行かなくていいの?」紗雪は小さく首を振る。「母さんは忙しいの。落ち着いたら私を呼ぶと思うから、邪魔しない方がいいわ。それにもう子供じゃないし、むやみに近づくのは礼を欠くでしょ」清那にはその気持ちが理解できなかった。母娘なんだから、遠慮する必要なんてないのに。どうしてこんな風に壁を作るんだろう。けれど、自分は松尾
Read more

第1130話

彼さえいれば十分。彼はいつだって紗雪の味方で、決して敵には回らない。清那も紗雪の言葉に納得し、話題を変える。「そういえば、なんで緒莉もパーティーに来てるの?」その一言に、紗雪の胸が一瞬ぎくりとする。清那も気付いたのか、すぐに付け足した。「私の姉だし、二川家の一員なんだから。参加するのが普通よ」建前としてそう言うしかない。外で身内の悪口は絶対に言わない――そのルールはよく分かっている。たとえ清那の前でも、この会場では軽々しく喋れない。ここにはいろんな人間がいる。もし聞かれでもしたら、母の面子に傷がつく。その時、京弥が冷ややかに清那を見た。「そんなに暇なのか?」清那が言い返す前に、紗雪が慌てて口を挟む。「まだ始まってないんだし、清那と一緒にいたっていいじゃない」「それはそうだけど......紗雪と二人きりの時間が欲しいなー」京弥は微笑んで言う。その言葉に、紗雪の頬は一気に赤くなる。横目で清那を見ると、彼女はにやにやしながら二人を見ていた。まさか、従兄と親友がこんなに仲良いなんて......なら安心だ。今まで従兄が紗雪に冷たくしないか不安だったけど、これで心配いらない。「あら〜思ってたより仲良しじゃん。私の杞憂だったみたい」清那は嬉しそうに目を細める。「清那、何言ってるの」紗雪は小声で抗議するが、清那はどこ吹く風だ。「うちの従兄なんて普段は無口なのに、紗雪の前だとこんなに喋るんだよ?しかも人前でそんなこと言うとか、羨ましいにも程があるよ!」その一言に、紗雪はさらに真っ赤になる。対して京弥はというと、内心とても気分がいい。――後で清那の両親に言って、少し小遣い増やしてやるか。普段気付かなかったけど、この子、意外と気が利く。紗雪は真っ赤な顔で、京弥を睨む。「だから言ったじゃない。変なこと言わないでって!」京弥はそっと彼女の腰に手を回し、柔らかな声で言う。「ごめんごめん、俺が悪かった」そして、耳元で小さく囁いた。「こんなに恥ずかしがり屋だとは思わなかったよ、さっちゃん」外から見れば、二人は耳元で甘く囁き合っているようにしか見えない。清那は思わず吹き出した。自分の従兄が、ここまでデレる日が来るなんて。これなら安
Read more
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status