All Chapters of クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!: Chapter 1131 - Chapter 1140

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第1131話

清那はずっと微笑みを浮かべながら二人を眺めていて、特に目の前でこそこそ話している様子に、思わず茶化した。「お願いだから、二人とも。ちょっとは周りの目も気にしてよ。こっちはまだ独り身なんだからね。そんなに見せつけて、良心って痛まないの?」胸を押さえて、ものすごく傷ついたふうに装う清那。その姿に、紗雪は吹き出した。「わかったよ。そういえばうち、優良物件の青年いっぱいいるけど。本気で恋したいなら、紹介してあげよっか?」その言葉を聞いた途端、清那は慌てて手を振り、気まずそうに笑った。「やだよ。紗雪も知ってるでしょ?私、せっかくの人生を恋愛なんかに費やすのは嫌なの」それを聞いた紗雪は、心底納得したようにうなずいた。確かに、彼女はそういうタイプだ。口では色々言っても、実際にやるとなれば絶対に乗り気じゃない。そして、紗雪と京弥が耳元で話していた様子は、近くにいた誰かの目にしっかりと焼き付いていた。その男は、迷いと痛みを顔に浮かべ、横に垂れた手をぎゅっと握りしめた。考えまいとしても、残酷な現実は容赦なく迫ってきて、どうしても頭から離れない。最初は、気にしなければそれでいいと思っていた。けれど結局、どれだけ遠ざけようとしても、彼は二人に近づきたくなり、紗雪の一挙一動が気になって仕方がなかった。だから、美月が招待状を持ってきたとき、一瞬迷ったものの、結局すぐに出席を決めたのだ。そして今、パーティーに来て早々、二人が前よりさらに仲睦まじくしている姿を目にしてしまった。日向は不思議に思った。――以前はこんなに親密じゃなかったはず......紗雪が一ヶ月昏睡していたあの期間が原因なのだろうか?実は、紗雪が目覚めてから見舞いに行こうと思ったこともあった。だが、よく考えれば、そこには京弥もいるに決まっている。わざわざ自分を惨めにしに行く必要なんてない。人には人の人生がある。距離を置けば置くほど、逆に彼女のことが気になって、胸の奥で小さな虫がずっと暴れているようで、彼は気が狂いそうだった。バカみたいだと自分でも思う。でも、それが現実だ。今日ここに来たのも、ただ紗雪の近況を知りたかったからだ。そして今、楽しそうに笑っている彼女を見て、ようやく胸をなでおろした。そう思い、日向は会場を
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第1132話

日向はすぐに心の中で気持ちを立て直し、微笑みを浮かべて三人の方へ歩み寄った。紗雪の前に来て、ようやく穏やかな声で言った。「さっき君たちのことに気づかなくてさ。ちょっと食べ物を取りに行こうと思ってたんだ」適当に理由をつけて、気まずさを和らげる。正直に言ってしまっても、誰にもメリットがない。今の言い方が一番丸く収まる。清那は悪気なくコクコクとうなずいた。「なんだ。てっきり見かけたのに、わざと挨拶しなかったのかと思ったよ」その言葉に、紗雪までちょっと気まずくなる。ほんとに清那は......なんでそんな無防備に言っちゃうの?まあ相手が日向だからよかった。多分気にしないだろう。案の定、日向はにこやかに言った。「まさか。君たちは僕の大事な友達だよ。挨拶しないなんてありえない。それに、僕は二川グループとも仕事してるしね。新しい後継者の紗雪には挨拶しないと」その言葉を聞いても、紗雪は驚きはしなかった。母がきちんと対外の情報整理をしているはずだし、隠す必要もない。そもそも、みんながこのパーティーに来た理由はそれだ。日向の言葉は自然で、聞いていて心地よかった。彼といると、まるで冬の暖かい日差しのようで、無理のない優しさがある。こういう人と過ごす時間は嫌いじゃない。距離感も礼儀も分かっていて、誰も困らせない。すると清那が目を丸くした。「ちょっと待って。紗雪、後継者になるの?私、そんなこと聞いてない!」まるで紗雪が国家機密でも隠していたかのような顔。紗雪は思わず肩をすくめた。「清那いつも忙しいでしょ?言うタイミングなかったし。それに私も最近知ったばかりよ。それにさ、後継者かどうかなんて、私にとってはどうでもいいの。プロジェクトを担当させてくれればそれで十分だからね」その説明に、清那はあっさり納得した。たしかに、紗雪はそういう人だ。仕事とプロジェクトしかない。私生活ほぼゼロ。そんな人に「後継者」なんて肩書き、ただの飾りに過ぎない。しかし、日向の見方は違った。「後継者になるってことは、それだけ責任も大きくなる。でも紗雪ならできるって分かってるよ。今後仕事で手伝えることがあったら、遠慮なく言って。迷惑だなんて思わないから。僕たちはパートナーなんだし」紗雪は真剣に
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第1133話

京弥はそばで二人のやり取りを見ていて、どこか面白くない。わざと日向の視界に入る位置で、紗雪の手をぎゅっとつねった。紗雪は少し痛みを感じ、顔を向けかけたところで、彼の目に浮かぶしょんぼりした表情とぶつかる。一瞬で、なぜ彼がそんなことをしたのか理解した。紗雪は仕方なく、軽く彼の手をぽんと叩いて落ち着かせる。ここは外だし、何かあるなら家で話せばいい。夫婦のことは夫婦の間で済ませるべきだ。清那も二人のさりげないやり取りに気づき、にやりと笑ったかと思えば、わざとらしく口を尖らせた。そして、日向の腕をぐいっと引っ張る。「これ以上ここにいたらジャマになるだけだよ。いかにも新婚さんって感じで、最近ほんとに甘ったるいんだから」紗雪はわざと凶悪な顔つきを作る。「誰が甘ったるいって?」声には笑いが混じっていて、怒っているわけではないのが分かる。ただ、清那との掛け合いを楽しんでいるだけだ。清那は気にせず、日向を引き連れて離れていく。「そりゃ、ここでイチャついてる人達に決まってるでしょ」日向は最初は離れたくなかったが、ふたりの関係が前より確実に深まっているのを見て、受け止める。ここにいても仕方ない。見届けられたなら、それだけで十分だ。これ以上こだわれば、自分がもっと苦しくなるだけだ。一番いいのは――彼女を中心にする世界から、自分で抜け出すことだ。日向は横目で、自分の腕を引っ張りながら前を歩く清那を見た。彼女はぶつぶつ文句をこぼしている。「あの二人ますますラブラブじゃん。こっちはめっちゃつらいんだけど。前はこんなんじゃなかったのにさ。紗雪、私がまだ独身って忘れてないよね?もう一緒に居たくないから」その愚痴に、日向は思わずぷっと吹き出す。音に気づいた清那はぴたりと止まり、顔を上げた。「......なに笑ってんの?」腰に手を当て、少しでも変なこと言ったら殴り込むぞ、という勢い。日向は慌てて手を振る。「な、何も言ってないよ?」「それならいいけど」清那はむっとしつつ、口を尖らせる。「まったく、二人で幸せになって......こっちはまだひとりぼっちなのに」その様子が妙に可愛くて、日向は思わず手を伸ばし、彼女の柔らかい髪を優しく撫でた。「大丈夫だ。僕がいるじゃない」
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第1134話

この言葉を口にした瞬間、彼は舌を噛み切りたくなるほど後悔した。どう聞いても、まるで「クズ男の決まり文句」みたいじゃないか。以前の自分は、決してこんなことを言う人間じゃなかったのに。相手の説明を聞いた清那は、首を横に振って、胸の奥に湧いた妙な考えを振り払った。――相手はあんなにも真っ直ぐで誠実な人間だというのに、自分の頭の中には、なんでこんな変なことばかり浮かんでくるんだろう。「やっぱりなんでもないよ」清那は唇をきゅっと結び、自分の考えを正さなければと思った。もうこんなふうに歪んだ見方をしてはいけない。日向はこんなに正直な人なのに、自分が変な方向に考えたら、それは彼に対して不公平だ。日向は、清那の表情がくるくる変わるのを見て、彼女はまた妙なことを考えているとすぐに察した。その様子がおかしくて、思わず笑みがこぼれる。「とりあえず何か食べに行こう。お腹も減ってきたし、こんなことで悩むのはやめよう」その言葉を聞いた瞬間、清那の瞳がぱっと明るくなった。さっきまで彼にどう説明しようか悩んでいたのに、彼のほうから話を切り出してくれたおかげで、ちょうどいい逃げ道ができたような気がした。元々おおらかな性格の清那は、考えてもわからないことを深く気にしない。相手が助け舟を出してくれるなら、素直に乗ればいいだけだ。彼女は日向の肩を軽く叩き、明るく笑った。「そうだね。私もお腹すいた。せっかくのパーティーで食べないなんてもったいないし、ちょうどおいしいものがある場所を知ってるんだ」そう言うと、スカートの裾をつまんで先に歩き出した。日向は、彼女の華奢な背中を見つめ、その瞳の奥にふっと笑みを浮かべた。その瞬間、彼の頭の中から紗雪の姿はすっかり消えていた。目の前にいるのは、清那だけ。清那のようにサバサバしていて、単純で心がまっすぐな女の子など、彼の周囲では珍しかった。今まで彼が関わってきた女性たちは、誰もが策略を巡らせたり、彼の前で競い合ったりするような人ばかりだった。そういう世界に長くいれば、どんなに美しくても退屈してしまう。だが、清那のようなタイプは新鮮だった。紗雪の強さが彼を惹きつけたのと同じように、目の前の女性の無邪気さも、また別の魅力を放っていた。自分の心の中を整理した日向は、これか
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第1135話

他の社長たちも口々に賛同した。紗雪は以前、商業界の場にも顔を出したことがあるので、皆どこかで彼女を見た記憶があり、美月のそばにいる緒莉ではなく、紗雪の顔をちゃんと知っていた。その顔立ちは、一度見れば忘れられないほど鮮烈なものだ。ひと目見ただけで、思わず息を呑むほどの美しさ。今、美月の隣に立つ緒莉も美しいには美しいが、あの圧倒的な存在感とまではいかない。記憶に焼き付くほどの「驚き」はない。しかも、紗雪は能力も際立っていて、容姿などむしろ目立ちにくい長所にすぎない。その言葉を聞いた瞬間、美月の横で緒莉は思わず拳を握りしめ、張り付いた笑顔が崩れかけた。――この人たちは一体何がしたい?自分は今、母のそばに堂々と立っているのに、誰一人として自分に興味を示さず、紗雪の所在を尋ねる。まるでわざと見て見ぬふりをしているようだ。――暇なの?人の神経を逆撫でするためにここに来たのか?美月の表情にも気まずさが滲んだが、褒められているのは自分の娘だ。頬は自然と誇らしげに緩む。「紗雪は少し用事があって、もうすぐ着くと思います」そう言いながら、緒莉を前へと押し出した。「こちらが長女の緒莉です。海外の大学でデザインを専攻し、奨学金も数多く受賞して、海外のデザイン賞の証書も持っています。体があまり強くないけれど、能力は私も太鼓判ですよ」場の空気が一瞬止まる。皆、互いに目を合わせ、小さくうなずくだけだった。彼らは美月の意図を察した。誰も積極的に話を広げず、緒莉に対して形だけの笑顔を向けるに留まる。心底、興味がないのが手に取るように分かる。なぜあの圧倒的に優秀な紗雪を堂々と紹介しないのか。なぜ名も知られていない長女をわざわざ押し出すのか。理解に苦しむ、という顔だ。もし自分たちなら、迷わず能力ある娘を前に出すだろう。利益を生む稀有な人材。しかも美しい。そんな存在は滅多にない。「さすが二川会長。いい教育施していますね」「本当に羨ましいです。紗雪さんがあれだけ優秀なうえに、緒莉さんまでこれほどとは......すごい家系です」「素晴らしい。今度うちの息子と交流させていただきたいものです」口では褒めるが、視線には熱がない。それ以上、緒莉について聞く気もなく、会話を続けるつもりもない
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第1136話

美月は、他の社長たちがまるで興味を示さない様子を見て、それ以上話を続けるのをやめた。商売人として、空気を読むことくらい分かっている。相手が明らかに乗ってこない話題なら、切り替えればいい。「皆さん、そろそろ時間です。このあと私から一つ発表があります。うちの紗雪は必ず来るので、ご安心を。今日のパーティーも、彼女に関係していますから」美月は意味深に微笑み、わざと含みを持たせた。その言葉に、さっきまで冷めていた空気が一気にわき立つ。「ほう?それは何でしょう?」「まったく聞いてませんでしたね、そんな話」「急いで来たから情報集める暇がなかったな」皆が目を輝かせて身を乗り出し、情報を引き出そうとする。しかし美月は終始穏やかに微笑むだけで、声をひそめるように言った。「すぐに分かるでしょう。きっと満足いただける結果になるはずですよ」その一言で、さっきまでの興味のなさは吹き飛び、場は期待の色に染まった。まるで別人のように態度が変わる――そんな光景を、緒莉は想像もしていなかった。自分はてっきり、母に紹介されたときは注目され、称賛の言葉を受けるだろうと思っていた。胸を張って準備していたのに、返ってきたのは気のない相槌だけ。――これを受け入れろというほうが無理だ。幼い頃から、自分は「選ばれた子」だと思っていた。どこへ行っても注目され、褒められ、持て囃されてきた。けれど、それは紗雪がいない場所に限ってのこと。彼女が一歩出れば、光はすべて奪われた。小さな頃から、その残酷さを知っていた。客が来れば、自分を可愛いと言ってくれる。けれど紗雪が現れた瞬間、視線は全部そちらへ移る。「まあ、こちらが紗雪?なんて可愛い」「いい名前ね、きっとすごい人になるわ」「この鼻と目、本当に綺麗ね」自分はただ横で笑っているだけの「背景」に変わる。学校でも同じ。どんなに頑張って一位を取っても、紗雪が更新する。発表されるのは紗雪の名前で、自分の記録はやがて誰にも覚えられなくなる。だから留学した。国内にいたら、永遠に踏み台にされるだけ。芽を潰されると分かっていたから。そして今、母の口から出た「発表」の言葉。胸に湧き上がる嫌な予感。――紗雪がグループの後継者になる、とか?その可能性
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第1137話

だが、美月は彼女の視線など一切気に留めず、そのまま壇上へと向かった。その様子を見て、緒莉はどうすることもできず、深く息を吸い込むしかなかった。――どうか、自分の考えていることじゃありませんように。もし本当にそうなら、彼女は絶対に母を許さない。――こんな場面で後継者の発表だなんて......今まで自分が積み上げてきたものは何なんだろう。努力は全部、滑稽な勘違いだったということ?必死で走っても、結局みんなの目に映るのは紗雪だけ。どれだけ手を尽くして、紗雪を一ヶ月も病床に伏せさせたというのに。ようやく手にしかけた優位も、彼女が帰ってきただけで全部ひっくり返される。せっかく説得した人たちも、またそっちに寝返って......本来なら、紗雪がずっと眠っていれば、全てうまく運んでいたはずだったのに。今はもう、流れは完全に予測不能になってしまった。――お願い。今日のパーティー、早く終わって。違うはず、絶対に違う。発表は、別の件だ。そんな願いとは裏腹に、美月は舞台へ上がり、揺らがぬ目で会場を見渡した。マイクを整え、落ち着いた声で話し始める。「皆さま、本日はご多忙の中お越しいただき、誠にありがとうございます」その声で、会場の視線は一斉にステージへと向けられた。紗雪と京弥も自然とそちらへ歩き出す。いつの間にか清那が紗雪のそばに来て、肩を軽く叩きながら笑った。「ねえ、もしかして後継者の発表?おめでとう、これからは私の生活も、頼んだよ?」その笑みは心からのもので、長くそばで見てきた彼女だからこその言葉だった。紗雪がここまで来るまでどれほど苦労したか、誰より知っている。だから今こうして笑っていられる姿が胸に沁みた。近くにいた日向も、静かに、だが確かに嬉しそうに頷く。共に仕事をし、その実力を目の当たりにしてきた。鋭さ、決断力、柔軟な視野。商いにおいて自分は彼女には到底及ばないと痛感していた。その才覚は、多くの男でさえ気圧されるものだ。だが、喜びがあれば、嫉妬もある。人混みの中、緒莉は母を睨みつけ、今にも歯を噛み砕きそうな表情を浮かべていた。――あれだけは、絶対に言わないで。もし発表されたら、その瞬間、自分は完全に終わる。勝ち目なんて、どこにもなくなる。だが、美月
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第1138話

「どうしてそんなことに?」壇下から、次々と声が上がる。今回の件に好奇心を抱いている者は多かった。「そうですよ、前は両家の関係ってすごく良かったじゃないですか?しかも長女を嫁がせて、縁組するって話まであったのに」「間違ってなければ、もう婚約までしてたはずですよね?どうして急に?」「言われてみれば、その後の話聞きませんね」みんなが競うように議論し、表情には驚きが浮かぶ。中には安東グループと深い協力関係にある会社もいて、顔に迷いや苦い色が混じり始めた。今や彼らは安東グループと切り離せない関係で、多くのビジネスが繋がっている。特に一部の大型プロジェクトは、すでにがっちり組まれていて、もし本当に関係を断てば、大きな損失は避けられない。今、二川グループがこの発表をしたことで、多くの企業が安東グループと関係を断とうとするだろう。そうなれば、自分たちの利益への打撃は計り知れない。小さな会社ほど、戦々恐々とし、これからどうすべきなのか分からず戸惑っていた。美月はそんな人々の表情を一つひとつ見逃さず、静かに目を細める。この一手が、鳴り城全体にどれほどの影響を及ぼすか――彼女自身、よく分かっていた。だが、これはもう避けられないことだ。以前、安東グループと関係を保っていたのは、孝寛に対する最大限の情けだった。それでも、いずれは切り離す宿命だったのだ。「落ち着いてください。皆さんの不安も理解しています。でもこれは、私が熟考した上で決めたことです。どうかご理解いただければと思います」美月の声は柔らかいが、その言葉には揺るぎない決意がこもっていた。「そして、この件についてあれこれ推測するのは控えてください」さらに続けて言う。「緒莉との婚約ですが、いずれ正式に解消します」この言葉を聞いた瞬間、鳴り城の多くの若手たちが、別の思惑を抱き始めた。今や二川グループは絶好調。もし二川家の長女と関係を結べば、将来は約束されたも同然。事業面でも、二川グループが万全のサポートをしてくれるはず。人混みの中でその光景を見ていた緒莉は、そんな男たちの下心を見抜き、心の中で鼻で笑った。――まさかとは思うけど......辰琉との縁が切れたと聞いて、今度は自分にチャンスが回ってきたとでも思ってる?滑稽に
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第1139話

日向はとうとう我慢できず、指先で軽く清那の頭をコツンと叩いた。「何を訳の分からないこと言ってるんだよ。そんな気があるわけないだろ。彼女がどんな人か知ってるし、そもそも僕、ああいうタイプには全っ然興味ないから」清那は唇を尖らせ、頭を押さえながら少し拗ねた声で言う。「ちょっと言ってみただけじゃん。そんな真面目に否定しなくてもよくない?逆にそんな必死だと、本当に気があったんじゃないかって思っちゃうんだけど」その一言に、日向は思わず頭が真っ白になる。「......とにかくありえないから。ほら、ちゃんと二川会長の話聞こう?」紗雪は横でそのやり取りを見て、思わず口元を緩めた。いつもは冷静で頼れる印象の日向が、こんなふうに表情豊かになるなんて。清那の前だと、まるで別人みたいだ。――まさか、二人って......?そんな考えがふっと胸をよぎる。もし本当に気持ちがあるなら、本人同士の気持ちを尊重しなきゃいけない。勝手にお見合いみたいに勧めるわけにもいかないし。紗雪は一度その思考を切り上げ、視線をふたたび壇上に戻した。美月はまだ話を続けており、会場の視線は再び壇上へ向けられる。みんな、もうひとつの重大発表が何なのか気になって仕方がなかった。今日の場には、もともと二つの重要な告知があると知らされていた。すでに安東グループとの協力解消は発表された。残るもう一つは何なのか。知っている者もいたが、多くは興味津々で、特に「二川家の次女」の正体を見極めたかった。美月は穏やかに微笑んだ。「続いて、より重要な発表をしたいと思います。これは、会社の未来を左右する決定です」その言葉に、場内がどよめく。緒莉は手のひらを強く握りしめ、指先が白くなる。――来た。母の言葉の意味は、もう明白だ。つまり紗雪を正式な後継者とする、ということ。美月は騒ぎを気にすることなく、はっきりと言い切った。「皆さんご存じの通り、私はもう年を重ね、引退を考える時期になりました。そしてこの期間、紗雪が見せてくれた成果は、皆さんの目にも明らかです。だから私は、会社を正式に彼女に引き継ぐことにしました」その瞬間、舞台のライトが紗雪を照らし出す。清那は興奮気味に紗雪の腕を掴み、目をきらきらさせながら囁いた。
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第1140話

紗雪は軽く喉を整え、マイクの前に立った。「こんばんは。二川紗雪です」落ち着きと自信に満ちた声が、パーティー場の隅々まで響き渡る。「二川グループの後継者として任命いただき、大変光栄です。これからは私が会社をさらに高みへ導けるよう、全力を尽くします」言い終えると、紗雪は一歩下がり、右手を胸元に添えて深く一礼した。真摯で誠意のこもった礼。その姿に、会場の人々は感動を隠せない。「見た目が良いだけだと思ってたけど、話し方まで堂々としてるな」「そうだな。言葉だけじゃなくて、ちゃんと実績を出してる」「契約の数々、私たちもちゃんと見てきたしな」幹部陣も、美月の判断に満足げだ。一方、緒莉は群衆の中で歯を噛みしめていた。彼女もかつて二川に入ったことはある。しかし当時、この人たちは何と言った?――こいつらも所詮、勢いのある方に尻尾を振るだけの連中だ。今の自分が落ちぶれたから、今度は紗雪へ媚びへつらう。緒莉は拳を握り、嫉妬と怒りに満ちた目で舞台を睨む。「紗雪。絶対に許さないわ......!」舞台では、美月が紗雪の隣で誇らしげに娘を見つめていた。名誉も、利益も、会社の未来も、この娘がもたらしたものだ。それは理解している。だが緒莉のことも考えなければならない。もともと体も弱く、会社に触れさせない以上、今後の身の振り方を考えてやらなければ、母として非難を浴びるだろう。紗雪は姿勢を正し、マイクを美月に返す。美月はにこやかにマイクを受け取り、紗雪が壇上を降りようとしたその時、声をかけた。「紗雪、ちょっと待って」紗雪は足を止め、不思議そうに振り返る。――言うべきことは全て言ったはずだ。いったい何を?客たちも首を傾げる。しかし美月は気にせず、視線を客席へ向けた。「緒莉も上がってきて。話したいことがあるの」緒莉は眉を寄せたが、胸に小さな期待が芽生える。母がここで呼ぶということは、自分にとって悪い話ではないはずだ。堂々と客の視線を浴びながら、緒莉は壇上へ。姿勢を正し、紗雪を真似た堂々とした立ち姿を取る。客席で清那が小声で言う。「ただの猿真似って感じ」日向は何も言わないが、目は同意していた。京弥の瞳に冷たい光がよぎる。二人が並び、美月が間に立つその様子
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