「出場者と馴れ合うために来たわけではないので、少し距離を保ったほうがいいでしょう。あまり近すぎると、ひいきしているなんて言われかねませんからね」千弦がそう言い終えた瞬間、紗雪はわずかに眉を上げた。「あいにくですが、ちょうど私も同じ考えです」そう答える紗雪は背筋をまっすぐ伸ばし、堂々としていた。その瞳には人を惹きつける強い光が宿っている。「何しろ篠塚さんは審査員ですから。私のような出場者と私的に親しくしていたら、篠塚さんのほうの名誉に傷がついてしまいます。私はただ番組に参加している一般人ですけど、篠塚さんは違います。国内外で名の知られた実力派の女性経営者です。この番組に参加してくださるだけで、番組にとっては光栄なことですから」紗雪の言葉は終始、千弦を立てる内容だった。千弦は目を細めた。紗雪がこれほど弁の立つ人間だとは初めて知った。しかも、その言葉には一切の隙がない。反論できる箇所がどこにも見当たらなかった。まるで最初からそうするのが当然であるかのような話し方だった。そして何より、紗雪の言葉は理にかなっていて、否定する余地がない。結局、自分もその流れに乗るしかなかった。「ならいいですけどね」しばらく黙り込んだ末、千弦はそう言い残した。そしてそのまま大股で立ち去っていった。その場には監督と紗雪、清那の三人だけが残された。監督は困惑した様子で二人を見た後、去っていく千弦の背中へ視線を向けた。彼にはいまだに理解できなかった。さっきまで普通に話していたはずなのに、どうして突然一人が怒ったように去ってしまったのか。しかも、それが自分の番組で起きている。そんな監督の表情から考えを察したのか、紗雪が声をかけた。「大丈夫ですよ、監督。そんなに心配しなくても。番組が始まったばかりなら、こういうことは珍しくありません。約束します。この番組で問題を起こして監督を困らせるようなことは絶対にしません」その言葉を聞き、監督は驚きを隠せなかった。この業界に長くいると、人間関係も利害も入り混じって、まるで伏魔殿のようになってしまう。だからこそ、紗雪のように穏やかな性格の人間はほとんど見かけない。しかも彼女自身もスタジオを経営している。いわば新時代の社長だ。それなのに、こんなにも穏やかに話
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