だが今になって、日向はようやく気付いた。自分と京弥の間には、どうしようもないほどの実力差があるのだと。日向の問いかけに、清那もどう答えていいか分からない。言葉を濁し、曖昧に誤魔化すしかなかった。「私もどう答えたらいいか分からないの」清那は軽く咳払いし、言葉を継いだ。「とにかく、うちの兄さんはね、あんまり気性が良くないの。だから絶対に、彼の逆鱗に触れないこと」じゃなきゃ、酷い目に遭う。その後半の一文は、清那の心の中だけで補った。さっきの連中がいい例じゃないか。追い出されたあと、この病院にはもう居場所がないだろう。清那には、そのことがよく分かっていた。一方、緒莉と辰琉の二人は、陰からこの一部始終を見ていた。そして、院長が京弥に示した態度も目の当たりにしていた。それを見た緒莉は、思わず息を呑む。どうやら、自分の妹婿はただ者じゃないらしい。そう思った瞬間、緒莉はゆっくりと拳を握り締めた。あの紗雪、随分と隠していたのね。自分には一言も言わなかったくせに。まさか、こんな実力者を夫にしていたなんて。今まで一度もそんな話、聞いたこともなかったのに。辰琉も、先ほどの光景を見て、内心恐怖を覚えていた。「緒莉......君の妹婿って、一体何者なんだ?」その言葉を聞いた緒莉は、思わず白い目を向けたくなる。この男、ほんと役立たず。何かあるとすぐ私に聞いてばかり。他に取り柄があるわけでもなし......長年一緒にいても、辰琉は少しの困難があれば「お母さん、助けて」と言い出すような男だ。そのうえ、余計な一言で人を苛立たせることもしばしば。そんな性格だから、緒莉は昔から辰琉の母親のことも好きになれなかった。思い返せば、彼女の言葉ひとつひとつが、いつも苛立ちを呼び起こすのだ。こんな姑と上手くいくわけがない。テレビや動画でよく見る嫁姑問題。食い飽きるほど見てきたし、初めてじゃない。辰琉の性格を考えれば、結婚後の未来は想像に難くない。まさに、悲惨の一言。だからこそ、緒莉は結婚を先延ばしにしてきた。もっと条件のいい相手を探した方がいい。これ以上、辰琉に時間を費やすつもりはなかった。辰琉の問いかけに、緒莉も答えに窮し、鼻をこすりながら気まずそうに言った。
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