「そう、その安東家よ」紗雪はおかしさを隠せずに笑った。「安東家は二川家とのつながりがあるから、どうにか持ちこたえてる。そうじゃなかったら、とっくに鳴り城の名門から落ちてるはずよ。よくもまあ威張り散らしていられるわね」京弥の目に危うい光が宿る。「安東本人が、家の現状を知らない可能性は?」「それはない」紗雪の声は揺るぎなかった。京弥は少し驚いた。なぜ彼女がそこまで断言できるのか。もしかして、ずっとこの件を気にしていたのか?彼の視線に気づき、紗雪は気まずそうに鼻を触った。「実はずっと気にかけてたんだ」その告白に、京弥は思わず笑みをこぼす。ここまでくると、ふたりの間にはもう言葉にしなくても通じ合うものがあるのかもしれない。心の中で考えていることが、自然と相手に見透かされてしまう――そんな関係。そう考えると、少し不思議で、そして心地よい驚きだった。紗雪は照れくさそうに続ける。「当時は、緒莉のために本気で考えてたの。あんなふうに適当に嫁がせたくなくて。それで、あちこちから安東家のことを探り回ってたのよ」京弥は胸が締め付けられるような思いで、そんな彼女を見つめる。「優しい妹だな」けれど、紗雪はもう気にしてはいない。緒莉が今どんな態度を取ろうと、もう関係ない。少なくとも、自分は一度は真心を注いだ。それを大切にしなかったのは相手の方なのだ。社会は誰かがいなくても止まらない。それと同じで、人の関係もまた、壊れるときは壊れる。そんなのは特別なことではない。だからこそ、自分の人生を大切にすればいい。緒莉のことなど、もう考える必要はない。「姉妹の絆」なんてものは、もともと存在しなかった。それを最初に捨てたのは、緒莉の方だ。一度捨てられた感情は、もう戻らない。どれだけ尽くしたところで、意味はない。みんな馬鹿じゃないのだから。この世界で生きるうちに、そういうことをよく理解するようになった。特に、緒莉に対する気持ちに関しては。ふたりの関係は、いつも緒莉が先に背を向けた。ならば、自分を好いてくれない人に執着する必要などない。紗雪は、自分をすり減らすようなことは決してしない人間だ。だから立ち直るのも早かった。自分には親友の清那もいる
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