彼女ももちろん分かっていた。伊藤がすべて自分のためを思ってのことだと。けれど、どうしても心を抑えられず、自分で確かめに行くしかなかった。美月の言葉を聞くと、伊藤は手を動かしながら荷物をまとめ、顔も上げずに言った。「奥様、止められないというのなら、この老いぼれ、どうか一緒に連れて行ってください」一片の迷いもなく、その顔には強い決意が浮かんでいた。美月は胸を打たれ、老いた瞳に熱い涙をにじませる。彼女はこれほど自分が取り乱せば、きっと家の使用人たちは軽蔑の眼差しを向けるだろうと思っていた。ところが伊藤だけは、いつもと変わらず接してくれる。美月は伊藤の肩を軽く叩き、真剣な声で言った。「分かったわ。付き添ってくれるというのなら、一緒に行きましょう。ありがとう、伊藤」美月は情に厚い人間だ。とくに最近の出来事を経て、多くの人の本性を思い知らされたことで、なおさら身近なものを大切に思うようになっていた。それは人であれ物であれ、同じこと。美月が承諾したのを確認すると、伊藤は余計な言葉を挟まず、自室へ戻って荷造りを始めた。彼は一度決めたことは絶対に曲げない頑固な男だ。そして今回も、その決意が揺らぐことはなかった。美月を一人で行かせるなんて、とても安心できないのだから。ため息をひとつついて、伊藤は部屋で荷物を整えた。こめかみの白髪が、気のせいか一層増えたように見えた。一方、美月はベッドに腰を下ろし、すでに冷静さを取り戻していた。顔には迷いが消え、未来を見据える眼差しが宿っている。娘の安否は分からない。だから必ずこの目で確かめに行かなければならない。だが会社のほうも、人を任せなければならない。そうでなければ、あの老獪な連中に、骨まで食い尽くされかねない。頼れるのは、腹の底まで知っている人物だけ。他の者など、信用する気になれなかった。美月が思案していると、伊藤が静かに戻ってきた。その顔はすっかり落ち着きを取り戻し、先ほどの慌てた様子はもうどこにもなかった。「奥様、荷物はすべて整えました。空港にも手を回してあります。いつでも出発できます」その手際の良さに、美月は思わず感心した。だが、ふいにあることを思い出してしまう。額をぱしんと叩き、悔しげな顔を浮かべた。「奥
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