綾子は尋ねた。「お父さんが出てくるのを待たないの?」悠斗は答えた。「待たないよ」綾子は何か言おうとしたが、結局飲み込んだ。悠斗は物分かりがよく、気配りができると感じたからだ。それに、早急に手配すれば、新井のお爺さんに悠斗の孝行心を示すことができる。お爺さんは自分や博明のことは嫌っていても、孫には甘いはずだ。これは新井のお爺さんとの距離を縮める絶好の機会だ。そう考え、綾子は熱心に準備に取り掛かった。通話を終えると、悠斗はすぐに別の相手に電話をかけた。橘家と蓮司の訴訟手続きがどこまで進んでいるか、いつ開廷するのかを探らせるためだ。法廷で、新井のお爺さんに邪魔をさせるわけにはいかない。悠斗は蓮司が訴訟沙汰になっているという情報を、会社の内部チャットや掲示板で拡散させた。こんな絶好の機会を利用しない手はない。何しろ、これは蓮司自身がわざわざ差し出してくれた弱みなのだから。暗くなったパソコンの画面には、口角を吊り上げた悠斗の顔が映り込んでいた。その瞳は、喜びと興奮で輝いている。今回ばかりは、橘家も蓮司を見逃しはしないだろう。自ら墓穴を掘るとは、愚かすぎて笑いが止まらない。自分が引きずり下ろすまでもなく、蓮司は勝手に自滅してくれたのだ。……夜の休憩時間、新井グループの全社員が、社内のグループチャットで社長の新たなスキャンダルを目にし、瞬く間に話題騒然となった。以前の付きまといなら、個人のモラルの問題で済んだかもしれない。だが今回は、違法行為や犯罪に関わる内容だ。社長といえども、ただでは済まないだろう。以前、社長が橘家の令嬢に大金を投じて復縁を迫り、世間を騒がせた時は、橘家は訴えを起こさなかった。だが今回、突然情報が流出したということは、橘家が本気で法的手段に出たということだ。一般社員にとっては、ただの酒の肴に過ぎず、自分の仕事をこなすだけだ。だが上層部にとっては意味が違う。彼らが懸念するのは、今後の新井グループの体制だ。情報は小規模なチャットグループで回っていたが、密告者がいないわけがない。話は下から上へと伝わり、最終的に大輔の耳に入った。知らせを受けた大輔は、悔しさのあまり机を叩いた。今日は蓮司からボーナスをもらい、ぐっすり眠れると思っていたのに、またしてもトラブルだ。彼はまず広報部に対応
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