とっくに定時は過ぎ、人事部の担当者も謝罪に訪れ、上司に叱責されたという。公平は愛想笑いを浮かべて理恵を見送る中、他の社員たちはそれぞれ残業する者、帰宅する者に分かれていた。エレベーターの中で。「今日は仕返ししてくれてありがとう」透子は理恵の腕に絡みつき、お礼を言った。「ふん、これであなたの部署の連中も懲りて、もういじめてこないでしょ」理恵は得意げに言った。「でも、どうして桐生さんをクビにさせなかったの?見てるだけで目障りなのに」彼女は付け加えた。「録音の件は、私自身に隙があったの。会社で私用電話なんてするべきじゃなかった。社員が陰で噂話をするなんて、どこの会社でもよくあることだし、先輩がすぐにグループを解散させてくれたから、大きな被害はなかったわ」透子は説明した。親友の肩に頭を預け、彼女は続けた。「通報されたのは、履歴書に『未婚』って書いたこと。これは確かに私のミス。あの時、直し忘れてたの」「それに、私のせいで蓮司が旭日テクノロジーを買収しようとしたでしょ。先輩を困らせたくなかったの」一通り聞き終えた理恵は、眉をひそめて尋ねた。「本当に買収されそうになったの?だったら、さっさとうちの会社に転職しなさいよ。じゃないと、また新井に付きまとわれるわ」「大丈夫、新井のお爺さんが出てきて、蓮司の買収を阻止してくれたから」透子は言った。理恵はそれを聞いて頷き、少し考えてから言った。「やっぱり桐生さんはダメね。もし私の会社でこんなことが起きたら、絶対に全員クビにしてる。ましてや、彼はあなたに気があるくせに」「先輩は創業者で、社長なんだから。当然、評判を気にしないと」透子は言った。理恵はその意見に納得できなかった。好きな女性が辛い目に遭うのを我慢できる男がどこにいるだろうか。しかも、彼女をいじめた人間を会社に残しておくなんて。評判を守るなんて言っても、結局は自分の体面を気にしているだけだ。陰口を叩かれるのを恐れているに過ぎない。二人が一階に着いた時、理恵は他のエレベーターと自分たちが乗ってきたエレベーターを見比べて尋ねた。「これ、役員専用じゃない?桐生さんがカードキーをくれたの?」透子は頷いた。「そっか。じゃあさっきの言葉は撤回するわ。桐生さんも、そこまで……」理恵が言い
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