「……以上、佐々木浩司が在任中に不正に得た利益は、合計六千五百四十万円に上ります」大輔は、そう締めくくった。「関連証拠はすべて司法機関に提出済みです。背任及び収賄の罪で、刑事告訴の手続きを進めます」蓮司は静かに頷く。それを聞いた浩司は、その太った体を二、三歩よろめかせた。解雇されるだけでは済まない。蓮司は警察にまで通報し、自分を完全に社会から抹殺する気なのだ。「会議は続ける。マーケティング部の副部長、石井誠(いしい まこと)を呼んでこい」蓮司は冷ややかに命じた。「彼を本日付で新部長に任命する。そしてこの場で報告させろ。ここにいる役員どもに、その器量を見せつけてやれ」「はい」大輔は短く応じ、すぐに部下に指示を飛ばした。確かに、プロジェクトの報告は一般社員でもできる。しかし、蓮司は今日の報告を誠の『昇進試験』と結びつけ、役員たちの前でその手腕を披露させるという大義名分を作った。こうすれば、誰も彼のやり方に異を唱えられない。彼は巧みに論点をすり替えたのだ。ほどなくして、誠が駆けつけた。彼はまず蓮司と役員たちに深く頭を下げ、それから悠斗の手から資料を受け取ると、壇上に上がって淀みなく報告を始めた。こうして、取締役会を揺るがした茶番は、静かに幕を下ろした。蓮司は報告を聞きながら、視界の端で会議室の一番後ろに座る男を一瞥した。──悠斗。まだ残っていたか。面の皮が厚すぎる。これで彼が『無関係』だとでも証明するつもりか。蓮司は視線を前に戻す。その表情は、不気味なほどに静まり返っていた。昨夜、情報を拡散した者たちは、警察が徹夜で割り出した。しかし、彼らは皆、金のためにやったと口を揃え、黒幕の存在を頑なに否定している。蓮司はもちろんそれを信じず、捜査を続けさせているが、決定的な証拠はない。だからこそ、彼は今日、あの古狸どもと悠斗に対して、遠回しに釘を刺すことしかできなかったのだ。だが、問題ない。すべての罪が明らかになった時が、悠斗をこの会社から追放する時だ。会議が終わり、誠が蓮司に挨拶をして部屋を後にすると、終始、空気のように存在を無視されていた悠斗も、屈辱に奥歯を噛み締めながら席を立った。その背後から、あの古狸どもが、嬉々として蓮司に美月との結婚について尋ねる声が聞こえてくる。「吉日はまだ
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