思慕はドアを閉めた。黛衣は少し経ってからようやく我に返り、「どうして、私たちがもう2、3年も付き合ってるなんて言ったの?」と尋ねた。思慕はじっと彼女を見つめたかと思うと、いきなり服を脱いで着替え始めた。黛衣は反射的に両手で目を覆う。そんな彼女を横目に、彼は着替えながら平然と聞き返した。「じゃあ、俺たちは一夜限りの関係でしたって言えって?」黛衣は黙り込んだ。けれど指の隙間から、つい彼を見てしまう。彼女が何を考えているのか分かっているくせに、思慕はわざと意地悪く尋ねた。「そんなに俺の身体、好き?」彼は長年トレーニングを続けている。――だからこそ、妙に自信満々だった。黛衣の白い頬がほんのり赤く染まる。彼女は着替えを抱えてウォークインクローゼットへ逃げ込み、扉を閉める間際になって、小さな声でぼそりと言った。「あなたみたいなナルシスト、見たことない……」思慕はその後を追い、扉の外から軽くノックした。「そういえば、前はいつも俺に敬語だったよな。今じゃすっかり『あなた』呼ばわりか。切り替えが早いな、氷室黛衣。その調子で頼むぞ。人前でボロを出したらただじゃおかないからな。下手したら、俺をたぶらかした女って噂まで立つぞ」すると、中から黛衣が言い返してきた。「噂になるなら、あなたのほうでしょ」「こんなに真面目な俺が?」思慕は思わず小さく笑った。確かにそうだ。あんなに生真面目で不器用な彼女に、男を誘惑するような真似ができるはずもない。実際、誘ったのは彼のほうだった。甘い言葉でその気にさせたのも、彼だった。思慕はすこぶる機嫌がよかった。身支度を終える頃、黛衣もウォークインクローゼットから出てきた。薄手のニットに、もともと穿いていた黒いスカート。ただトップスを替えただけなのに、驚くほどよく似合っている。ゆるく波打つ黒髪を下ろし、その上から思慕の黒いコートを羽織ると、さっきまでの堅苦しさはすっかり消え、まるで昔から周防家で大切に育てられてきた令嬢のように見えた。――やっぱり、もともとの品がいいんだよな。この数年、ずいぶん苦労したんだろう。着替えを済ませた思慕も、いかにも育ちのいい御曹司といった佇まいだった。一方の黛衣は、今ではすっかり年若い女性らしく見える。思慕のほう
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