空が藍色に沈みはじめた頃、京介はようやく白金御邸に戻ってきた。漆黒に輝く車体は暮色のなかで淡く光を返し、ドアが開く——三人の子どもたちが駆け寄ってくる。澄佳は風のように走り抜け、澪安は背が伸びて、もう妹を抱き上げられるほどだ。願乃は両腕を伸ばし、「パパ!」と声を張り上げる。その声だけで、どんな疲れも一瞬で溶けていく。京介は順に三人を抱きしめ、最後に願乃を腕に収め、頬に軽く口づけた。「ママは?」願乃は丸顔におかっぱ頭、ふっくらした小さな指で二階を指す。「ママ……本」少しだけ子どもたちと過ごしたあと、京介は彼らを使用人に任せ、まっすぐ二階の主寝室へ向かった。ドアをそっと押し開けると、居間には柔らかな灯りが滲んでいる。舞は花柄のワンピースに長い髪を下ろし、読書灯のもとで名著を開いていた。夢中で頁を繰るその横顔は、小さな瓜実顔にほのかな艶を帯び、見ているだけで心がほどける。京介の胸が不意に震えた。彼は隣に腰を下ろし、かすれ声で問う。「何を読んでる?どこまで進んだ?」舞が顔を上げる——整ったスーツ姿の男は、灯りの下で輪郭がさらに際立ち、成熟した精悍さを放っている。見とれている間に、顎をそっと指でつままれ、唇に軽く触れる口づけと共に低く笑われた。「俺、葉山社長のヒモとしては合格かな?」舞も笑みを浮かべる。「まあ、悪くないわね」京介の肩にもたれ、柔らかな声で一節を読んで聞かせ、「いい本よ。時間ができたら読んでみて」と囁く。京介はソファの背にもたれ、眉尻を揉みながら、わざとぼやいた。「会社じゃ書類の山と会議ばっかりだ。うちの奥さんはのんびりしてていいな」細い腰を軽くつまむと、ほどよく肉がついていて——実に、心地よい。京介は満足げに口元を緩めた。そんな夫婦の戯れを、廊下からのノックが遮った。「周防社長、お荷物をお持ちしました」京介はドアを開け、受け取る。舞が自然に尋ねた。「何かしら?」京介は笑い、彼女の前で四角いベルベットの箱を開ける。中にはディオールの高級パールネックレスが、眩く収まっていた。それを取り出し、背後からそっと舞の首に掛ける。そして、後ろから舞を抱き寄せ、耳元で低く囁いた。「気に入った?同じシリーズの時計があったろう。ちょうど揃うな。お茶会
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