翔雅は篠宮に電話をかけ、澄佳の病状と入院先を尋ねた。篠宮は最初こそ口を閉ざしたが、結局は情にほだされて答えた。「葉山社長は周防家にいますよ。でも……一ノ瀬社長、どうか刺激しないであげてください。やっと平穏を取り戻したんです。彼女は、あなたと相沢真琴の間に入りたくないんです」翔雅は革張りのシートに身を沈め、低く言った。「俺と真琴は、そういう関係じゃない。それに……澄佳とは何があろうと二人の子供がいる。彼女が病んでいるなら、見舞うのは当然だろう。もうすぐ正月だし」篠宮は苦笑した。「正月だって?あなた、自分がどれほど葉山社長を苦しめているか分かってますか?彼女はもう一緒にいなくてもいいと思ってます。相沢真琴とのことはあまりに見苦しいです。一ノ瀬社長、はっきり言います。相沢真琴はあなたが思っているほど弱い女じゃありません。全部偶然ですか?相沢強志の出所の日に撮影開始、そして彼に捕ました。彼女は大人でしょう、警戒心がまったくないとでも?都合よく流出する写真、都合よく撮られたキス……偶然が重なりすぎています。もしまだ彼女を純粋だと信じるなら、私はもう何も言いません」翔雅は静かに答えた。「確かに真琴が仕組んだこともあるかもしれない。けれど、相沢強志にわざと捕まったとは思えない。あんな屈辱的な写真を、自ら広めるはずがない。女なら誰だって名誉を守ろうとする」篠宮は言葉を失った。——翔雅はあまりに理想主義だ。芸能界の人間性の醜さを散々見てきた身としては、名誉も清白も手放す人間など珍しくないと知っている。だが言葉を尽くすだけ無駄だった。結局すべては、翔雅自身の選択。少年時代の初恋が、救済を待っている。しかも今の彼には、それを実現する力がある。英雄願望に酔った男に、自分が誰の夫で、誰の父親であるかを省みる余裕などなかった。篠宮は通話を切った。……翔雅は市街に車を走らせ、子供の玩具を山ほど買い込み、さらに女性用の栄養補助品も揃えた。後部トランクは満杯になった。黒いレンジローバーが周防家に着くと、門番に止められる。「一ノ瀬様、ご予約は?」窓を下げ、翔雅は短く告げた。「澄佳に会いに来た」門番は差し出された煙草を受け取り、一口吸ってから困った顔をする。「勘弁してくださいよ、私たち下っ端は命令に逆らえない
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