翔雅は半ば膝をつき、澄佳は身を傾けて彼の腕に抱き寄せられていた。背筋越しに見える雪のように白い肌に黒髪が絡みつき、その艶やかな姿は、男の魂をも奪うほど妖しく美しかった。かつて翔雅もその美に溺れていた。だが今、この胸に湧き上がるのは激しい衝動よりも、深い痛みだった。彼は失いかけたものを取り戻すように、強く彼女を抱き締めた。——今はまだ自分のものではない。だが、いつかきっと。そう思った瞬間、胸の奥が熱を帯び、思わず彼女の唇を塞いだ。離れたくない、離せない、もう放したくない。その口づけは熱を帯び、肌から心臓へと火を広げていった。絡み合い、繰り返される口づけに、澄佳は身動きもできず、ただ仰け反るようにして彼の腕に閉じ込められ、その口づけを受けるしかなかった。唇が離れると、澄佳はいつものように手を上げかけたが、その手は翔雅に握り込まれた。顎を彼女の頭に寄せ、かすれた声で囁く。「服を着せてやる。な?着替えて、下に降りて一緒に食事して……せめて今夜は、穏やかに過ごそう」「嫌よ」胸元に押しつけられた声は冷たく短い。翔雅はそっと腕を緩め、漆黒の瞳で彼女を射抜くように見つめた。やがて手を伸ばし、傍らにあった衣服を取り上げると、慈しむように彼女の肩へと掛ける。その間も視線は一瞬たりとも逸れなかった。長く温かな指が布越しに身体を撫でるたび、澄佳の身に細やかな震えが走る。忘れかけていた熱の記憶が、胸の奥から次々と呼び覚まされていった。やがて彼は立ち上がり、衿のボタンを外し、シャツを脱いだ。逞しい胸板と肩幅は、鋭い視線と相まって雄々しい美を放つ。浅灰のシャツに袖を通すその背中を、澄佳はソファにもたれて黙って見つめた。思い返すのは痛みばかりの記憶。伏せた唇に、苦い笑みがこぼれる。——誰もさすらいを望むわけじゃない。誰も唯一の存在でありたい。けれど、翔雅はそれを与えてはくれなかった。着替えを終えた翔雅は再び彼女の前に戻り、膝を折ってその細い足首をそっと包み込んだ。指先で軽く押さえると、澄佳が小さく息を呑む。その瞬間に動きを止め、彼は顔を上げて見つめる。「氷で冷やそう。終わったらちょうど食事の時間だ」返事を待たず、彼は階下のキッチンへ向かった。居間の冷蔵庫にも氷はあったのに、あえて下まで取りに行ったのだ。一階のダイニング
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