慕美が目を覚ましたとき、すでに昼近くだった。全身がじんわりと痛み、羞恥の残り香が胸の奥で疼く。しばらく横になってから起き上がると、小さなテーブルの上に名刺と銀行カード、それに一枚のメモが置かれているのが目に入った。そこには「新堂智朗」という名と電話番号が記されていた。澪安の秘書らしい。ちょうどそのとき、スマートフォンが震えた。画面を見ると、澪安からのLINEの友だち申請だった。――もう同じベッドを分け合ったというのに、まだ友だちですらなかったのだ。慕美は唇を噛み、指先で承認を押した。ほとんど間を置かずに、澪安からのメッセージが届いた。【まもなく智朗が迎えに行く。引っ越しは任せておけ。荷物は気にするな、必要なものはあとで全部新しく揃えればいい。車の運転はできる?おまえ専用に一台買ってやる】慕美は即座に拒んだ。【要らないわ。バスかタクシーで十分よ】それ以上、澪安は押しつけてこなかった。きっと忙しいのだろう。彼女がスマートフォンを置いたその瞬間、扉を叩く音がした。コートを羽織り、玄関を開けると、眼鏡をかけた知的な青年が立っていた。まさしく澪安の秘書、智朗だ。「澪安様の秘書をしております。新堂智朗と申します」「どうぞ……中で少し待っていてください。荷物をまとめますから」智朗は控えめに首を振った。澪安がこうした役を任せるのは初めてだ。彼女がただの「知り合い」ではないことは、ひと目で分かった。澪安の言葉の端々に、覆い隠せぬ独占の影が差していた。智朗はその気配を敏感に察し、部屋へは足を踏み入れず、廊下に身を留めた。――王子様とシンデレラごっこ、ってところか。澪安は彼女を救い上げようとしているのだろうか。慕美は最低限の衣服や化粧品、そして必要な証明書を小さなスーツケースに収めただけだった。荷物の少なさに智朗は驚いたが、何も言わずに受け取り、彼女を伴って階下へ降りた。外には黒塗りのロールス・ロイスが待っていた。「こちらの車は今後、九条様の送迎用になります。専属の運転手も付いておりますので、通勤のときも、ちょっとした外出のときも、遠慮なくお使いください」そう説明しながら、智朗は心中でため息をついた。自分は博士課程まで修め、年収は千五百万円から二千万円。けれども、H
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