翔雅は芽衣の頬をそっとつまんだ。「パパはね、すごく遠くへ行って『鬼を退治する桃太郎』になったんだよ」芽衣が元気よく手を挙げた。「わかった!パパはお姫さまを助けに行ったんでしょ?」翔雅は小さな額に口づけを落とす。「違うよ。お姫さまじゃなくて、芽衣と同じくらい可愛い子どもを助けに行ったんだ。その子はもう家族のもとに帰ったんだよ」芽衣の目が潤む。「その子、すごくつらかったの?いっぱい苦しいことがあったの?パパ、お菓子を買ってあげた?」横で章真もじっと父を見つめていた。翔雅は胸の奥が複雑にざわめき、思わず二人を抱きしめた。心の底から澄佳に感謝した。子どもたちをこんなにも澄んだまま育ててくれたことに。「もちろんだよ。これからは毎日お菓子が食べられるはずさ」芽衣は小さくうなずき、「それならよかった。ママが言ってたの。世界がもっと良くなったら、みんなの子どもが幸せになれるって」……翔雅の鼻の奥がつんと痛んだ。言葉にならない感情が胸を満たす。若い頃、彼は真琴に出会い、その後、澄佳に出会った。手にした幸せを自ら壊してしまったこともあったが、最終的には澄佳と二人の子どもを得た。これほどの幸運があるだろうか。その時、外からノックの音。「奥さまがお電話を受けました。お子さまを周防邸にお連れするそうです。旦那様はご自宅で召し上がりますか?それともご一緒にいらっしゃいませんか?」翔雅は顔を上げずに答えた。「一緒に行くよ」芽衣は「やったー!」と声を上げ、父の腹の上で跳ね回った。危うく命を落としそうな勢いだったが、翔雅はそんな娘を見て嬉しくなり、起き上がって頭を撫でる。「さあ、着替えよう」芽衣が甘えるように言った。「パパ、朝ごはんも作って」「よし、パパが作ろう」清都から戻ったばかりで一睡もしていないはずなのに、翔雅の体には新しい力が満ちていた。一刻後、二人の子どもを連れて階下へ。高い襟のセーターにスチールグレーのパンツ姿。静かな気品を纏った男が台所に立つ。芽衣と章真は小さな影のように後を追い、パパの朝ごはん作りを見守った。使用人が慌てて止めに入る。「旦那さま、我々がいたします」しかし芽衣が胸を張った。「ダメ!パパが私と章真に作るの!」翔雅の胸に誇りがあふれる。澄佳と自分の子ど
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