今、橘千尋(たちばな ちひろ)の身体を貪る男の名は鷹宮征司(たかみや せいじ)。航空技術の最大手、大鷹航空技術の社長である。彼女が彼と夜を共にすることになったのは、他ならぬあの「甲斐性なし」の夫、佐藤健太(さいとう けんた)のおかげだ。臨海市では、征司は表社会にも裏社会にも顔が利く有力者だ。 噂によれば、性癖は倒錯的で、きらびやかな社交界の女性には見向きもせず、もっぱら純粋そうな一般女性を好むという。ゲテモノを好んで食するなど、食の嗜好もかなり独特だが、夜の営みはさらに常軌を逸し、際限なく荒々しい。 数年前には、あるダンサーが彼によって弄ばれ、大量出血を起こして生死の境をさまよった。病院で大量の輸血を受けてかろうじて一命を取り留めた後、臨海市内の高台にある豪邸がその女性に与えられたという。一度の『受難』でそれが手に入るなら、むしろ安いものだと嘲る声もあった。昼間の征司は、洗練された物腰の紳士だ。だが今は、まるで獣のように豹変し、千尋を骨の髄までしゃぶり尽くすような勢いで組み敷いている。痛みと恐怖、そしてどうしようもない惨めさに襲われ、千尋は夫の健太の姿を思い浮かべずにはいられなかった。「んっ……」ほんの一瞬、意識が逸れただけだというのに、征司は不快そうに彼女の顎を掴んだ。彼が激しく腰を突き上げる様を眼前で見せつけられ、そのあまりに露骨な光景に、千尋は顔を真っ赤にして目を背けたくなる。征司はこういう時に彼女が上の空になるのを嫌った。先ほどもそれで罰を受けたばかりだ。だから、千尋は必死に意識を目の前の現実に集中させた。その甲斐あってか、初めてのはずの二人の身体は、驚くほど息が合っていた。「また何か考えていたな?」「いいえ、何も……」千尋は頑なに否定したが、容易く見抜かれた。征司の意のままに翻弄され、千尋はついに耐えきれなくなり、意思とは裏腹に身体が小刻みに震え始めた。征司は千尋の反応に悦に入り、彼女の喘ぎ声を聞いて興奮を覚えた。だが、本当の彼女はこんなふうではない。根は保守的で、物静かで、華やかな社交場はむしろ苦手なのだ。彼女の人生は、どこまでも平凡で、多くの人がそうであるように、ごく普通な人生を歩んできた。大学を出た後、特別なコネも人脈もない千尋は、生活のため
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