All Chapters of 愛も縁も切れました。お元気でどうぞ: Chapter 401 - Chapter 410

電話の向こうが不意に数秒静まり返り、そして軽い笑い声が聞こえた。「どうして分かったの？」これは間接的に認めたことになる。苑の眼差しがわずかに沈んだ。「感です」美穂は深呼吸をし、電話の向こうからライターが点火する音が聞こえた。長い時間が経ってから、美穂はようやく認めた。「彼よ」「では、あなたたちは……」「何もないわ」苑が何を言いたいのか分かっていた。苑が言い終わらないうちに、美穂は直接口を開いて遮った。「彼は私をホテルまで送ってくれただけで、行ってしまったわ。一度も私に触れなかった」美穂は一口煙を吐き出し、その声にはどこか自嘲があった。「意外でしょう？堂々たる大久保家の令嬢が、自分から誘ったのに男に断られるなんて。正直、私の自信は少し傷ついたわ」美穂は天賦の才に恵まれた令嬢で、どれほどの男が彼女に言い寄ってきたか分からない。なのに男に冷たくあしらわれ、確かに自尊心が少し傷ついた。苑は眉をひそめ、指が無意識に窓ガラスをなぞった。「どうして？」「さあね？私の魅力が足りなかったのかしら。それとも……彼が不能だったのかも？」苑は一瞬黙り、不意に尋ねた。「では、あなたは彼が好きなんですか？」「好き？」その二文字はまるで美穂の笑いのツボを押したかのようだった。美穂は何か面白いことでも聞いたかのように笑った。「苑、私はもう感情には麻痺しているの。誰かを愛するより、自分を愛した方がましよ」美穂の口調は淡々としていたが、世事を達観したような疲労が滲み出ていた。今日の彼女はまるで別人のようで、普段のあの明るく情熱的な女とは全く違っていた。苑はわずかに眉をひそめた。「では、どうして……」「どうして彼を助けたのかって？」美穂は再び苑の言葉を引き継ぎ、軽く笑った。「苑、あなた、わけもなくこの件を持ち出したりはしないでしょう。突然私にこんなことを聞くなんて、仲人でもしたいの？それとも……私に何か手伝ってほしいことがあるの？」苑は一瞬固まり、美穂が自分の考えを見抜いたのを見て、少しもばれたことへの羞恥心はなく、逆に笑い出した。「お義姉さんは、さすがに聡明ですね」「言ってごらんなさい。私に何をしてほしいの？」美穂の声が不意に真剣になった。苑はしばしためら

章一はまだ自制できていたが、震える手が今の彼の興奮を物語っていた。「この馬鹿息子め、もう少しで俺たちをびっくりさせて死ぬところだったぞ」茉凜がすぐ後に続き、目を覚ました兄を見て驚いて目を大きく見開いた。がらんとした病室は一気に人でごった返し、美穂は何も言わず黙って隅へ退き、この家族団欒の光景を見て、口元が無意識に上がった。「今回は美穂のおかげよ」美桜は美穂の功績を忘れておらず、不意に振り返りぐっと彼女の手を引いてベッドのそばへ連れてきた。「先生が言うには、もしあなたがずっと彼に話しかけていなかったら、彼はもしかしたら……」美穂は首を振った。「実は何もしていない。ただ……一言言ったら、ちょうど彼を刺激しただけ」「どんな言葉がそんなに不思議なの？」茉凜は興味津々に尋ねた。「別の男を探しに行くって言ったの。しかも何人も」美穂はいつも思ったことをそのまま言う。何の躊躇もなく、先ほどの言葉をそのまま繰り返した。病室は瞬間的に静まり返った。茉凜が真っ先に笑い出した。「どうやら兄貴はやっぱりあなたのことが気になるのね！」「彼が私を気にかけるわけないじゃない。彼の心には自分の初恋がいるんだから。たぶん私に浮気されたら恥をかくのが嫌で目を覚ましたんでしょう」その言葉を聞いて、美穂は白目をむき、無意識に反論した。その言葉を聞いて、ベッドの上の天城優紀が唇を動かした。何かを言おうとしているようだったが、目を覚ましたばかりでまだひどく衰弱しており、声が出なかった。美桜は彼の状況に気づき、心を痛めて息子の手を握り、振り返って美穂に言った。「いずれにせよ、今回はあなたのおかげよ」美桜は一度言葉を切り、また二人の間のことを思い出した。「優紀が目を覚ましたからには、あなたたち……」美穂は平然と言った。「私たちは離婚届を出す。お義父さん、お義母さん、ここ数年お世話になった。だがこの結婚はもともと間違いだった。とっくに損切りすべきだったのだ」章一はため息をついた。「いい子だ。ここ数年、苦労をかけたな」美桜の眼眶は赤くなったが、これも二人の若者のことだと分かっていた。自分が彼らの代わりに決める資格はない。「私たちはあなたを止めないわ。でも離婚する前に、私たち、直接あなたのご両親に謝

蒼真は苑をそっとベッドに投げ、そして身をかがめて覆いかぶさってきた。両手を苑の身のそばに撐き、彼女を自分の下に閉じ込めた。蒼真の黒い瞳が苑を凝視し、その中には灼熱の赤い光が揺らめいていた……蒼真が本気で来ようとするのを見て、苑は慌てて手を伸ばして彼の胸を押した。「蒼真、やめて……私、ファイルがまだ……」蒼真はゆっくりと頭を下げ、その声は低い。「天城夫人、君はこの口が……本当にしつけが必要だと知らないのか」言い終わるなり、蒼真の唇はすでに覆いかぶさってきた。蒼真のキスは横暴で熱烈で、その掌は苑の腰のラインに沿ってゆっくりと上へ移動し、指先が通る場所ごとに、一陣の戦慄が走った。苑は蒼真にキスされて呼吸が乱れ、拒絶する手は次第に力を失い、指が無意識に彼の服の襟を固く握りしめた。苑の反応を感じて、蒼真の目の奥に一抹の笑みがよぎり、さらに深くキスをした。蒼真がさらに調子に乗ろうとしたその時――ブーン、ブーン、ブーン――携帯が不意に震え出した。蒼真の動きが一瞬止まり、眉をきつく寄せ、目の奥に一抹の不耐がよぎった。「誰だ、こんなに目のない奴は？」苑も瞬間的に我に返り、その隙に蒼真を押しのけ、息を切らしながら言った。「電話に出て」蒼真は黒い顔で手を伸ばして携帯を探り、着信表示も見ずに直接通話ボタンを押し、「大至急の用事があることを願う。さもなければ、明日お前をアフリカの鉱山へ掘りに行かせてやる！」電話の向こうは二秒黙り、そして美桜の怒声が聞こえてきた。「天城蒼真！お前、躾が必要？よくも母親にそんな口の利き方ができるな？！」「……お袋」蒼真ははっと携帯を遠ざけ、表情が一瞬固まり、そして軽く咳払いをして、その口調は瞬間的に和らいだ。苑はその様子を見て、思わず笑い出し、結果として蒼真に睨みつけられた。美桜の声が受話器を通して聞こえてきた。そこには十足の威圧感があった。「この馬鹿息子！随分と偉くなってきたね？数日家を空けて、電話一本もよこさないとは！」蒼真はこめかみを揉んだ。「お袋、この二日間嫁さんと出張中だよ」「出張？お前が苑を追いかけて行ったんだろう？」美桜は容赦なく彼を暴露した。蒼真は無言だった。蒼真が何も言えないのを見て、美桜は冷たくフンと鼻を鳴らした

「大久保家？あの一番の物持ちの大久保家？」「そうだ。経済が破綻し、負債が全面的に爆発したらしい。あの富貴はすべて表面を取り繕っていただけだと……」苑の心臓がどきりと跳ねた。すぐに蒼真を見た。「大久保家が大変なことに？」蒼真は眉をひそめた。「聞いていない」苑は多くを語る暇もなく、慌ててパーティー会場の外のテラスへ向かい、美穂の電話をダイヤルした。電話は長い間鳴り続けたが、一向に誰も出なかった。苑の心が少しずつ沈んでいった。苑は誰も出ない携帯を握りしめ、眉を固く結んだ。身を翻してパーティー会場へ戻り、早足で蒼真の元へ向かった。「電話が繋がりません」苑は声を潜めた。「大久保家の件は本当ですか？」蒼真の表情は意外ではなかった。ただ軽く頷いた。「ああ」苑は鋭く、蒼真がとっくに知っていたことに気づいた。「いつ知ったのですか？」「大久保家の資金繰りの問題はもう半年以上続いている」蒼真は苑を隅へ引き寄せ、低い声で説明した。「彼らはずっと苦しいながらも持ちこたえていた。今回の破綻は銀行が突然融資を引き上げたからだ」苑の心臓がきゅっと締まった。「ではどうするのですか？大久保家は破産しますか？」蒼真はすぐには答えず、逆に尋ねた。「君は俺に大久保家を助けてほしいか？」「もちろんです！」苑はためらうことなく頷いた。「お義姉さんは私たちを助けてくれました。今彼女が困っているのに、私たち座視するわけにはいきません」蒼真はため息をついた。「苑、助けたくないわけじゃない。大久保家の穴が大きすぎるんだ」蒼真は一度言葉を切り、声がさらに低くなった。「もし天城グループが全力で大久保家を救えば、俺たちの資金繰りも厳しくなる。今、天城家を狙っている連中は少なくない。もし俺たちが隙を見せたら……」苑は蒼真の懸念を理解し、唇を噛んだ。「ではどうするのですか？ただ大久保家が倒れるのを見ているわけにはいきません」苑は不意に何かを思い出し、目が輝いた。「そうでした！あなた山を持っているでしょう？私に贈ってくれたあの馬走山。それを売却して急場をしのげます」蒼真は眉を上げた。「あれは俺が君に贈った終生の記念の贈り物だぞ。君そんなに簡単に売りたいのか？」苑は焦った。

好きな人に対しては口では否定できても目は嘘をつけないという。今、良樹の眼差しがその答えだった。春子は冷笑し、興奮した感情のせいで声が少し震えた。「ビジネス上の付き合いなら、あなたの書斎の引き出しにあるあのスクラップブックは何なの？経済誌に彼女の特集記事が載るたびに、あなたはそれを切り抜いて別に保管しているじゃない？」春子の問いを聞き、良樹の顔色が一変し、猛然と振り返って彼女を睨みつけた。「俺のものを勝手に見たのか？」「私はただ……」春子は良樹の鋭い視線に刺されて一瞬縮こまったが、すぐに自分が正しいと思い、また背筋を伸ばした。「昨日あなたの家へ届け物をしに行った時、あなたのお母様が私に書斎で待つように言ったのよ！」苑は二人の間の剣呑な雰囲気を鋭く察知し、適時に割って入った。「江口さん、今日は仕事の話をするのに良い時ではないようです。別の日を改めましょう」良樹は口を開いたが、その視線は苑の落ち着いた顔と春子の真っ赤な眼眶の間を行き来し、最終的にただ固く頷いた。「申し訳ありません、白石さん」春子は二人のやり取りを見て、先ほどの良樹の自分への態度と比べ、心の中はさらに委屈だった。「良樹、私はあなたの婚約者なのよ！あなたは一度もそんな目で私を見たことがない！」「春子、もうやめろ。まず君を送って帰る」「あなたの偽善は必要ないわ！」春子は何の躊躇もなく良樹の手を振り払い、身を翻して宴会庁を走り去った。良樹はその場に立ち尽くし、彼女が去っていく背中を複雑な表情で見つめていた。「江口さん、追いかけなくていいのですか？」良樹は無意識に追いかけようとしたが、今日の春子の馬鹿げた行動を思い出し、最終的に首を振った。「いいんです。彼女は小さい頃からああなんです。わがままに慣れています。しばらくすれば自分で気持ちの整理がつくでしょう」そう言う時、良樹の口調にはどこかどうしようもなさがあった。苑は物思いにふけって彼を見ていたが、やはり自分の疑問を口にすることを選んだ。「あなたは……浅川さんが好きなんですか？」「政略結婚に過ぎません。春子はまだ大人になりきれていない子供のようなものです。彼女に対しては……兄のような感情と責任しかありません」良樹の言葉に、もともと冷ややかに傍観していた蒼真は、その