和樹は紳士的に椅子を引いた。「どうぞ」席に着くと、ウェイターが料理を運び始めた。和樹は自ら美穂に赤ワインを注ぐ。「ここの看板料理はなかなかのものですよ。美穂さん、どうぞお試しください」美穂は頷き、形だけ数口食べると箸を置いた。「今田さん、そろそろ本題に入らない?」和樹も無理強いはせず、グラスを置いた。「ええ。美穂さんは、どのような協力をご希望で?」「ご存知の通り、今の大久保家に一番欠けているのは資金よ。もし今田さんが十分な資金援助を提供してくださるなら、大久保グループの一部の株式を交換条件として差し出すわ」和樹は眉を上げた。彼女が株式交換を提案するとは信じられないかのようだ。「あなたに決定権が?」美穂は苦笑して首を振った。「やむを得ない状況でなければ、私もこんなことはしたくないわ。でも父は今心労が重なり、母は心労のあまりまた入院してしまった。大久保家のただ一人の娘として、私が立ち上がるしかないの」その言葉を聞き、和樹は物思いにふけって頷いた。「美穂さんのその気概、感服いたします」彼は一度言葉を切り、不意に話題を変えた。「ですが、天城家がすでに大久保家を助けていると伺いましたが?」美穂の眼差しが一瞬揺れたが、すぐにその感情を隠した。「今田さんは本当に情報通ね」「ビジネスは戦場と同じです。敵を知り己を知る、でしょう。なにしろ美穂さんと天城家の関係は……」和樹は言葉を濁した。「今田さんのご懸念は分かっているわ。でも私はもう離婚したの。天城家が助けてくれるのはただ昔の情けよ。でも情けはいずれ尽きるもの」美穂は彼を遮った。和樹は腹を立てるでもなく、逆に頷いた。「理解できます」和樹は手の中のグラスを軽く揺らし、ゆっくりと口を開いた。「美穂さん、協力はできます。ですが一つ条件があります」「どんな条件?」「大久保グループの核心技術資料が欲しいのです」和樹は彼女の目を直視し、その感情の変化を一瞬も見逃さなかった。「交換条件として、市場価格より20%高い資金で大久保グループを援助します」やはり食いついてきた。美穂の心臓がどきりと跳ねたが、表面上はわざとためらった。「それは……核心技術は大久保グループの生命線だもの……」「美穂さん、よくお分かりの
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