「天城さん、あなたは二重人格ですか?」結局彼女と結婚したのは復讐のためなんでしょ。それでいて永遠の愛だの言い出すとか、苑は本気でこの男、頭のネジが外れてると思った。「うん、多分な。だから君にも体験させてやろうと思って」食事を終えると、蒼真は苑を子ども用のおもちゃの車に乗せた。見た目はコンパクトで、遊園地の子供向けカーみたいだけど、大きな四輪タイヤがついていて、まるで山道を走るバギーみたいだった。いざ走り出すと、苑は思った。見た目で判断するなって言葉、人だけじゃなくてモノにも通じるんだな。この車、どう見てもただの遊具だけど、走行は安定してるし、スピードだって申し分ない。通りを走りながら、景色をゆっくり楽しめるくらい。蒼真は行き先を何も言わなかったけど、苑には分かった。今日は一日、遊びに連れて行ってくれるつもりなのだと。まぁいいか。ここまで来ちゃったんだし。だったら今は、思い切って楽しめばいい。そういえば、あの数年彼女は蓮に付きっきりで、休暇なんて取ったことなかったし、旅行も行けなかった。たまに出張に同行できても、ただの移動だった。唯一の例外は、万仏山での願掛け。セドナの街はとても綺麗で、人通りも少ない。店はどこも静かで、だけど店の前では路上ライブしてる人がいたりして、焦りとか生活の不安なんて一切感じられない。まるで、稼げても稼げなくても気にしてないみたいに、今を楽しんでる、そんな空気。「羨ましい?」苑の小さな心の動きを、蒼真は見逃さなかった。車が角を曲がると、白髪まじりのひげをたくわえた老人がラテンダンスを踊っていた。苑は思わず目を見張った。踊りの上手さもさることながら、あの年齢で堂々と人前で踊れるって、それだけで心の在り方が違う。苑にはまだ到底真似できない。蒼真は、苑が興味を示したことに気づいて車を止めた。苑は降りずにそのまま踊る老人を見つめながら、つぶやいた。「不思議ですな。どうしてここの人たちはあんなに焦りがなくて、あんなに楽しそうに生きられるんでしょう」「自分を許してるからだよ」蒼真のその言葉に、苑は彼のほうを見た。黒のサングラスが蒼真の鼻梁にかかっていて、光のせいか、唇の色まで鮮やかに見える。ほんと、この男ってどの角度でも、どの瞬間でも、絵になる。蒼真がふと顔を向けた。サングラス越しにも
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