「兄さん一人?義姉さんは?」蒼真はいつものように椅子にだらりと背を預け、だるそうな姿勢で座っていた。しゃべり方もゆるく、けれどそんな彼でもこの一流レストランの空気には不思議と溶け込んでいた。「彼女はここにいない。君だってそれ、分かってるだろ」優紀は姿勢よくきちんと座り、両手を丁寧にテーブルの前に揃えていた。その整った佇まいは、弟の蒼真とは正反対だった。蒼真が片眉を上げてにやっと笑う。「まあな。けど、兄さん自身がどこにいるか知らないんじゃない?!」それ、言うのか……あまりにも急所を突いてない?しかも彼女も目の前にいるってのに、もうちょっと空気読めないのか。たとえ相手が実の兄でもこれはやりすぎ。苑はこっそりと優紀をうかがった。表情に乱れはなかったが、眉間の影はさっきよりも深まっていた。「弟嫁の前なんだから、ちょっとは私に花持たせてくれよ」優紀は軽く冗談めかして、空気を和らげようとした。さすがに苑もいたたまれず、テーブルの下で蒼真の足をつま先でそっと蹴った。彼がゆっくり視線を上げ、黒い瞳の奥に渦を巻いた。苑は吸い込まれそうな気配に慌てて目をそらし、足も静かに元の位置へ戻した。「苑さん、蒼真。これは兄からの新婚祝いだ」優紀が小さな箱を取り出して、テーブルの中央に置いた。苑が丁寧に断ろうとしたその瞬間、蒼真がまた口を開いた。「何これ?恋人に贈るみたいな雰囲気じゃん」苑がまた彼を蹴りたくなった。ほんとにこの人はろくなこと言わない。「開けてごらん」優紀は終始穏やかだった。蒼真が何を言おうと、まったく動じる様子はない。顔立ちが少し似てなければ、苑は本気で「この二人、別の家の出かた?」と思うところだった。「お気持ちだけ……」苑が言い終える前に、蒼真が箱を引き寄せて苑の前にすっと置いた。「祝いってのは気持ちだから、断るもんじゃない。気に入るかどうか中身を見たら?気に入らなきゃ、もう一個もらえばいい。兄さんは金に困ってないから」蒼真は完全に押し売りモードだった。恥ずかしさでいっぱいだったが、優紀の澄んだ目を見て、苑は観念して箱を開けた。中にはクリスタル製の家の模型。箱を開けた瞬間、眩い光を放ち、目がくらみそうになった。苑は一瞬、骨董品か何かかと思ったが、蒼真がすかさず言った。「兄さん、模型で遊べってこと?俺た
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