苑が目を覚ましたとき、蒼真の腕の中にいた。昨夜、蒼真が彼女を抱いて部屋へ運んだあと電話をしに出ていった。彼女は風呂に入ってそのまま眠りに落ちた。蒼真がいつ戻ってきたのかも知らず、気づけば彼の隣で眠っていた。表向きだけの夫婦関係のはずなのに、今この状況はまるで本物のようだった。「天城夫人はやっぱり抱きしめるのが好きなんだな」蒼真の声に苑はびくっとなった。慌てて身を引こうとした彼女だったが、そのとき気づいた。自分の手が彼の腰にしっかり回っていたことに。たぶん幼い頃から親がいなかったせいだろう。彼女は極度に安心感に飢えていて、寝るときはいつもぬいぐるみを抱いていた。この年齢になっても、大きなクマの抱き枕を抱いていないと安眠できない。昨夜は、それを彼と勘違いしてしまったのだ。そんなこと、口が裂けても言えるはずがない。朝から喧嘩になるのもごめんだ。「天城さん、これからは私がベッド使う時は、あなたがソファで寝て。それか私がソファに行きますから」そう言いながらベッドを下りた彼女は、ふと思い出してスマホで時間を確認し、蒼真に尋ねた。「今日出発するって言ってましたよね?なんでまだここにいるんですか?」「そんなに俺を追い出したいのか?」蒼真はいつも話を変な方向に持っていく。苑は昨夜のことを思い出す。歩いて帰るなんて無理だし、飛行機しかないはずなのに、この時間ではもう遅すぎる。「まさかまた行かないつもりですか?」「俺が行かないとそんなにがっかりか?」蒼真のズレた返しに、彼女は本気で呆れる。昨日の晩ご飯、塩分多すぎたんじゃない?朝からこんなことで気を回す自分に、苑はそう思った。「一時間後の便だ」苑がバスルームのドアを閉めようとしたその時、蒼真が言った。苑はそれをただの報告だと思った。だが閉めたドア越しに何か引っかかり、再び開けて確認しようとした。目に飛び込んできたのは、ガウンを脱ぎ、ボクサーパンツ一枚の蒼真の姿。あまりに刺激的な光景に、苑は一瞬固まり、それから慌ててドアを閉めた。顔は一瞬で真っ赤になった。一瞬しか見ていないはずなのに、目に焼き付いて離れない。広い肩、細い腰、整った腹筋。そして何より、見えてはいけない下まで……ドアの外で、蒼真もまた驚いていた。別にわざとじゃない。だが神様ってやつは本当に味方してくれるらしい。
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