苑は笑っていたが、慎介は泣き出したい気分だった。病室を出るなり、口が止まらなかった。「今田さん、この女の言うことなんか信じちゃダメですって!山田は今まで苦労なんてしたことないのに、中なんかに入れていいんですか?それに……」「腹黒い上に欲深なんですよ。金も車も受け取らないって言って、他人の金は使わない、もらった車には乗らない、まるで生まれついての金持ちみたいな口ぶりで」「しかも今田さんの秘書になりたいとか言ってて!あの人、天城蒼真の奥さんなんですよ。もしかしたら天城の……」言葉の続きを言う前に、当の人物が現れた。蒼真だった。シルクのシャツの襟元は少し開き、上質ながらも堅苦しくない。彼自身の奔放さと気だるげな雰囲気をそのまま体現していた。彼と和樹が向かい合う。その姿は、ひとりは気ままで自由奔放、もう一方は孤高で冷徹。まるで東南アジアの湿気とシベリアの寒気がぶつかるかのような、相容れぬ気配が走った。「今田さん、奇遇ですね」先に口を開いたのは蒼真だった。和樹は軽く頷いた。「天城さん」「誰かのお見舞いですか?」蒼真の目元にはどこか皮肉めいた笑みが浮かんでいた。「ちょうど見てきたところです」和樹の声は相変わらず冷たく、抑揚がない。蒼真の目に笑みが広がった。「今田さんは、いつも距離感あるのに、珍しく気にかける人がいるんですね」「ええ、滅多にないことです」和樹の口調はゆったりとしていたが、芯のある声だった。その一言が妙に引っかかって、蒼真は唇を軽く持ち上げた。「そんなふうに言われると、今田さんの気を引く人物がどんな人なのか、興味が湧きますね」感情を見せなかった和樹の顔に、わずかな笑みが浮かぶ。「用がありますので、またの機会にでも天城さんと話しましょう」そう言って彼は一礼し、その場を後にした。蒼真の目にあった笑みも、その瞬間、すっと消えた。照平は空気の変化を感じ取り、小さく咳払いをした。「えっと……あいつ、ちょっと挑発してたような」その一言で、周囲の空気はさらに冷え込んだ。言ったそばから後悔する照平。最近どうも口と脳の連携が悪く、言葉が滑る。「奥さんの方、迎えに行かない?それとも俺が代わりに行こうか?」ちょうどその時、苑がこちらに歩いてきた。白のシルクシャツにベージュのスラックスという控えめな服装ながら、引き締ま
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