All Chapters of Load of Merodia 記憶喪失の二人: Chapter 31 - Chapter 40

55 Chapters

30.夜の森

「……」「……」 焚き火の前、セロもわたしも無言。  まず、わたしがいつ前のリラに戻るのかだよね。わたしじゃ共通点なんか無いし、既に聞きたいことは聞いて暇ですって顔してるわ。とは言え、戻る必要ある ? 記憶云々じゃなくて人格が違うでしょうよ。 後は……腹減ったわ。「森ごと無くなった……せめて焼けた動物とかいない…… ? 全部炭なんだけど」「動物が焼かれたところで絶対に食べないって。牧場で火事になったらその羊を食べれるわけじゃない 」「ネズミ一匹くらい、地面からも出て来てもいいのに……」「俺がネズミなら怖くて出れないな」「魔法は……力加減が難しいのよね。だから大型魔物の討伐は調度いいの。好きに暴れてもそうそう消し炭にならないし。S級になりたくてなったんじゃないわ」「……」 セロは顔を上げると、ふと思いついたように話し出す。「雪山で何があったんだ ? 」 う……。それ聞く ? 「……最近、ゴールドドラゴンとシルバードラゴンの番が悪さしてるでしょ ? グリージオで討伐依頼をギルドに出してたんだけど、立候補者が全然いないわけ。  それで仕方なく、エル……エルンスト王を除いた五人で討伐に行くことにしたの」「何故エルンスト王は行かなかったんだ ? 」 お。なんか意外に興味あるのかな ? 結構ズカズカ聞いてくるじゃん女嫌い君。「エルが自分で行ったら、成功した時、自分で王家の予算から報酬を貰う事になるでしょ ? ダメでしょ。そんなヤラセのお小遣いみたいな事」「一理あるが、討伐は出来たのか ? 」「分かんない。番をまず観察して、一頭ずつ倒そうとしたの。でも思いのほか時間も長引いて、そのうち雄に合流されちゃって。  雄を何とか引き剥がそうと、雌の背中からわたしだけパーティから離脱したんだけど……」「ああ。突っ走った感じが手に取るように分かる……」「何それ ! そ、そんな事……」「その双剣は ? 」「お、雄のシルバードラゴンは……物理の方が効くし……カイの双剣を力強くでもぎ取って、飛び乗り………………ましたね……」「……一緒に歩きながら、そうなんだろうなって、思ってた」 どーも、すみませんね !! 「カイって奴も災難だな」「あいつは大丈夫よ。裸で砂漠に放り出しても笑って帰って来そうな奴だし」「怪物…… ? 」「ってか、あんた偽
last updateLast Updated : 2025-06-19
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31.狂曲と星の唄

 ……眠れない。 いつまで経ってもセロはテントに入らないし。まさか外で凍死してないでしょうね ?  グリージオに行くまでの間に、他のメンバーに会えればいいけど簡単じゃないか。 荷袋から地図を取り出す。 ゴルドラに乗った地点から考えて、あのスピード……確かに雪山の上空までは来たんだろうな。シルドラが見えたのは夕日の方角。ゴルドラとシルドラは簡単に離れなかったと考えると、西から西北へ向かったかも。 空気抵抗を抑える魔法はわたしとシエルしか使えないし、シエルも相当消耗してたはず。ならドラゴンから落ちたのはわたしだけじゃない…… ? まさか皆んな怪我…… ??? いやいや、それは無い。レイが討伐の中断を判断したんだし、カイもシエルも素直に従ったはず……。このままグリージオに向かえばいいんだ。 ……なんでわたしだけ突っ走っちゃったんだろ。雪山で二ヶ月も無駄にして。 でも、記憶が無かったにしても、放置過ぎない ? 別に自由なら自由でいいか。「はぁ〜……」 レイは ?  エルは忙しくても、レイはわたしが落ちた辺りも把握してるはずだし、なんで探しに来てくれないのよ。もしかして怒ってる ?  駄目。眠れない……。 ──ポン♪「…… ? 」 セロ ? 楽器を取り出す音だよね ?  わたしが寝てんじゃない。テントの横でギーギー弾く奴いる ? 信じられない。マイペース過ぎ。「ちょっと……」 テントから顔を出しと、やっぱりセロは狐弦器の弓を張っている所だった。「なんで今弾くのよ」「弾きたくなったら弾く。どうせ起きてたろ ? 」「……起きてた」
last updateLast Updated : 2025-06-20
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32.縺れる意識

「そんなに驚く ? そもそも基礎が出来てないと使えない石だもん」「それは知って……え ? じゃあ、ワザと力技で歌ってたのか ? 暴走してたが !? 」「暴走はしてないわよ ! 変な曲に最後まで付き合いきれないと思ったからよ ! 」「変な曲……」 セロは地面にヘナヘナと座り込む。「本当に別人なんだな。  今の曲は前のリラとも合わせてる」「へぇ ? そうなんだ」「あいつは途中で止まった」「でしょうね。初見で弾いたり歌ったりする曲じゃないわよ、今の曲」「まあな」 全くもう。  でも、なんだかスっとしたわ。ここまで思い切り歌う事って今までなかったし。「地下牢の中は凄く反響するから……。外で歌うとこんなに消耗するのね」「……その生活で、どこで音楽を学んだんだ ? 」「何もしてないわ。長く牢にいるとね……聖堂やら城やら、音のあるものは聴こえて来るから……。  結界に入れられてから、多分、人間とは違う時間の流れで過ごしてたの。十八歳っていうのも、ギルドでジョブプレートを作る時に他人と外見を比較して決めた年齢だし」「じゃあ……アリアの村の司祭が言ってた……二十歳頃、修行中にグリージオで見た地下牢の少女って……」「ん ? そんな話したの ?   まぁ、本当ならわたしだと思うよ ? 」「……」「何よ ! ババアって思った !? 」「いや。歌に関して驚いただけ。年齢と実力はイコールじゃないとしても。……まさか、元のリラよりこんなに差があるとは……」「学んだら歌えるってわけでもないと思うわ。  だってその理屈だと、突然湧いた人格の偽リラが、どう音楽を学んだかもフワッとしてない ? そこそこは歌えてたんでしょ ? 」「ああ、それはそうだが……。俺は狐弦器だけは忘れてなかったし。記憶喪失は人格が変わる現象ではないからな 」 そもそも、なんでわたしにもう一人の人格がいるのか……。突然出来るにしても、こ
last updateLast Updated : 2025-06-21
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33.対面

 セロが記憶の無い間のことを話してくれたけど、全然要領を得ない。「あっちのリラは……歌わないって言ってたのに、なんで歌わせたの ? 」「いや、挑発したらノるかなと……」 違う。そんなこと聞きたいんじゃない。  でもセロの演奏をを歌でねじ伏せるなんて……。「それで返討ちにされるなんて、どんだけ……本当はDIVA使ってたんじゃないの ? 」 想像できない。  川沿いでセロが弾いたコロコロ変動していくあの難しい曲。あれにDIVAなしで歌い合わせるなんて……。  少なくても、今のわたしには無理。「そっか……ならわたし、『偽リラ』って言われても仕方無いね……」 なんか……。なんで少し傷付いてるんだろう。  そりゃあ今まで歌った事なかったし、何も覚えてないんだから出来ないのは普通じゃん。魔法も万能じゃないわけだし。  でも、そんな簡単に歌われちゃったら……。「記憶があるんだから、あっちが大元なんだろうな」 じゃあ、わたしってなんなの ?   元のリラに戻った方が……。誰も、何も損しないじゃない。「でも、なんか怖かったな」 怖い ? 「何が ? 人格が ? 」「人格は気にならないが、メロディがな。  感情だけで突っ切られる。演奏してて、俺はそんな事に動揺することは普段無いんだが。ヒヤヒヤしたな……。始終安心できなかった」「それは、上手いからなんでしょ ? 」「……相性もあるさ。俺はお前に歌って貰った方が断然気持ちいいし、弾いていても楽しいと思う。これは……俺だけか ? 」「え !? まぁ、楽しいし。  そ……そうじゃ無かったら、組んで吟遊詩人なんかなってない……んじゃ ? 」「そうだよな ? 」 よ、良かった。  これでオリジナルに戻って ! とか言われたら……。言われたら ? その時がもし来たら、わたしは本当にどうなっちゃうの ? 「リラ ? 」
last updateLast Updated : 2025-06-22
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34.悪戯

「そうか。世話になったな。レイと呼んでくれ。出来るだけ過去に近い環境の方が思い出すこともあるかもしれないな」「そういうもんでしょうか ? 俺も記憶に関してはあれこれ言える立場ではないので」 記憶が戻らない。 わたし、本当にドラゴン討伐中に落ちたんだ。それもわたしがS級冒険者なんて……今は微塵も魔法覚えてないし。 どうすればいいのか分からない。 仲間の誰かに会ったら、何か変わると思ってた。 けれど、仲間に会っても……わたしがリラじゃないなら記憶も感情も共有してないんだから何も思い出しようがない。「あー……下が雪で良かったな。 でもエルに報告したら面倒そう……正直揉み消したい」 そう言ってレイは苦笑する。「怒られちゃいますか ? 」「勿論。 心配してたし。でも……本当に別人だな。今戻って来いと言っても、納得しないだろ」「あの、はい。ごめんなさい」「ま、こんなこともあるだろ」 え、それだけ ? 「出直すよ。先にシエルを会わせた方がいいな。セロ、お前のその呪い ? みたいなのも解けるだろうし……別に無理に連れて行くこともないだろうし。 石を見せて歩かないってのは賛成だ」 冷静に話してるけど、何か……気まずそう ? 元のリラとは仲良かったのかな。 パーティの話もだいたい頭に入れたけど、まだ気が進まない。この双剣も、わたしが勝手に仲間からもぎ取ったなんて考えられない。カイさんは気の毒ね。 それにしても、探してた仲間がこんなパッと現れるとは思ってなかった。わたしは会いたかったはず。けれど、こうして会ってみると……。何も感情が湧いてこない。「それとも二人一緒にこのままグリージオに来る ? 」 レイの言葉にセロが首を横に振った。
last updateLast Updated : 2025-06-23
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35.報告

「バレてるし」 執務室で書類に埋もれていたエルが顔を上げる。「何が ? 」「下手くそかよ。今、何時だと思ってんの ? 」 レイが再びドラゴンに乗り、グリージオに戻ったのは日が昇ってからだった。「城内にいないって言うし、街の外れに飛龍が来てたって聞いたし……お前なんか隠してるよな ? 」「そこまで聞くならもう知ってんだろ」 レイは不貞腐れたように椅子にひっくり返った。「開き直るんじゃないよ」「リラに会って来たんだよ」「やっぱり。なんで連れて来ないんだよ、今どこにいるんだ ? 」 エルに聞かれてレイは天を仰いだまま両手で頭を抱える。「……んだった」「は ? 」「はぁ〜〜〜……別人だった。中身が」「……はあ ? 何 ? 何だって ? 」 一先ず、説明はリラがパーティから単独行動して離脱した時に遡った。「離したはずのゴルドラに襲われて、リラちゃん一人で攻撃したんだろ ? 」「それが、その時……あいつ油断して尻尾食らったんだよ。下に落ちてった……」「うん。まず俺、聞いてないんだけど」「全部説明できるか面倒だ。俺たちが振り落とされたのその後だし……大分距離は開いたとは思ってたんだけど、すぐに見つかると腹括ってたし」「後出しの情報多すぎ」「北方に標高の高い山脈があるだろ。なんかそこで二ヶ月、彷徨ってたってさ」「…… ??? 」「記憶を失くして」「記憶っ !!? 今は !? 」「時々リラに戻るらしい」「……もっと分かるように説明しろよ」 事の深刻さを理解したエルがようやく立ち上がる。書類の隙間からほんの少しだけあった窓の光も遂に塞がった。  そのまま呆然とレイの話を聞き続け、エルも苦い顔をする。聖堂に何と説明すればいいのか。リラの社会見学はエルの許可、そして白魔術師であるシエルの報告書によって許されている。エルが同行していなか
last updateLast Updated : 2025-06-24
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36.存在価値

 仮眠したけど、眠れなかった ! あんな丸裸の地面に眠れないよ ! 魔物の餌になるもん ! 「まだ激寒だが、水分を摂らないのもよくない」 地図で川の場所を確認して、何とか遠回りで男爵の屋敷を目指す事になった。「飲み貯めは出来ないよ」 テントも失い、その中に食事も水も入ってた。全部纏めて谷底に吹き飛んだ。水は何とかなったけど、汲んで持ち歩けないのはどうにもならない。「身体冷えるか ? 白湯にしてから飲む ? 」「ううん ! 大丈夫」 セロって女嫌いってより、人見知りって方が強いよね。本当に嫌いなら、そんな気遣い無いでしょ。不器用……とも違うし。未だにドキッとする。 それにしても、防具屋の奥様のクッキー。結局、口にしいないまま無くしちゃった。申し訳なさでいっぱいだわ。見た目も美味しそうだったから余計に。お腹空いた……。「……飛龍の人って馬鹿なの ? 普通考えるじゃない。夜に冒険者のとこに来たら、そりゃあテントもあるでしょ ? これが狐弦器だったらどうしてたのかしら」「俺に言われても。想定外だ。 慣れてる連中だ。その場で言い出せば予備も持ってたのかもしれんが、俺たちはそれどころじゃなかったな」「そうね。あんな人に懐いてるドラゴン、驚いたわ。普通なら討伐される対象魔物なのに」「だからこそ、特殊な一族なのかもな。 ボヤいてても仕方ない。早めに出発しないと、お茶の効力も無くなるしな。俺はもう寒い。指に感覚ない」 そう言ってセロは冷えて震えた手をヒラヒラさせる。指先が真っ赤。「凍瘡になったら大変だよ。そうだ、わたしのグローブを使って」 ただの滑り止めだけど、何もしないよりいいよね。楽器を弾く大事な指先だし。 セロの手にグイグイ、装備のグローブを被せていると、不意にセロが真っ青になって呼吸が止まっているのに気付く。「いや、自分でやるから触らないでくれ……」「
last updateLast Updated : 2025-06-25
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37.モモナへの逃避行へ

「今からルートを変えるか ? 男爵の屋敷に行かずに逃げてもいいが」 確かに。そうすれば行方をくらませる事が出来る。いっそ仲間の元に戻る気が無いならそれもいいのかも……。「温暖な地域を目指して……どこか小さい村で小銭を稼ごう。最悪食うに困ったら動物を狩ればいい。豪勢な旅ではないが……」 決めないと。迷ったまま進んで、後悔したくない。「うん。……セロ、わたし戻れなくてもいい。連れて行って ! 」 セロは少し驚いたような顔はしたけど、すぐに懐から地図を取り出した。「分かった。 まず男爵の屋敷に行かないならこの領土から出よう……。現在地から行けて領土に入らない村は……」「まだアリアから東の森を出たところだよね ? 」「ああ。ここから南に行くとプラムって集落がある」「南か……」「確かに南下し続ければグリージオに近くはなるが、プラムからは決して近くない。 その村で準備を整えたら、真逆の西に向かおう」「西か……ジルとレオナのルートは ? 」「二人と同じ道は通れない。レベルが違いすぎる」 そっか……今のわたし、戦力にはならないからなぁ。「大陸のど真ん中のルートにさえ出ればなんとかなる。そして最終地点はモモナ港だ」 一緒に地図を見るけど、その真ん中のルートですら幾つ町や村を経由するんだか……相当かかりそう。だけど、この大陸の最西端  モモナ港かぁ。地図上のシンボルを見るからに大きな街なのが分かるし、きっと都会なんだろうな。「行ってみたいね、モモナ港……」「ああ。ここにも城があるが、グリージオとは関わりのない王家だから安心だ。目指すか」「うん ! 」
last updateLast Updated : 2025-06-26
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38.モモナ道中

「うぉぉぉっ !! 」 信じるは己の肉体のみ。高い瞬発力と武器を扱う経験値。 カイの双剣は凄まじいスピードで地面を這う。  植物を薙ぎ倒し、斬られた葉は風に乗り空へと舞い上がる。「オラァァァァ !! 」「おい、見ろ ! なんて速さだ !! 」 馬車を引いた男が、つい興奮して客へ話しかける。馬車から身を乗り出した母子たちも珍しい光景に思わず声を漏らしていた。「まぁ、凄いですわね」「おにーちゃーん ! 頑張れー」 カイはモモナ港の城下町を出発してすぐ、この馬車屋に捕まった。脱輪した馬車を持ち上げる作業を手伝い、事故の経緯を聞いた。  大きな町のすぐ近くとはいえ、程よく気候が安定しているこの辺りでは、人の手入れも疎かで雑草が伸びるのが早いのだ。草根の読みを一つ間違えれば溝や轍にハマる。  他の馬車も道の先で立ち往生していた。馬も馬車屋も乗客も、葉っぱを巻き上げながら道を進んでくる塊に目を丸くしていた。 そう。  カイは新しい双剣で草刈りをしている。「うおぉぉ ! 」 両手を大きく振りながらも、身のこなしは軽々しい。一振でも広い範囲を、切っ先は道を開く。 その様子を、一匹の白い烏が上空から観ていた。「もう十分だ ! 助かったよ兄ちゃん ! 」 カイは双剣を鞘に収めると、赤い髪をカシカシと掻く。「いや〜俺も楽しかったっす。モモナで買ったばっかだったんすよ、この双剣」「え !? そりゃあ、申し訳ないことをしたな……刃こぼれしてないかい ? 」「んにゃ、ぜーんぜん ! 大通りの一番端にある鍛冶屋で買ったんすけど、腕いいっすよ ! 」「あ、ああ。確かゼンチって旦那の店だな」「剣を新調した時って、一番最初は生き物以外を斬らねぇと悪運が付くんすよ」「えぇ ! ? 初めて聞いたが、そうなのかい ? 」「俺の故郷……アカネ島の言い伝えっすけどね」「アカネ島ぁっ !!? ここから真逆の極東じゃねぇか
last updateLast Updated : 2025-07-01
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39.白いカラスと森の鳩

 空高く舞い上がった白いカラスは風を捕まえると北へ向かう。『やっぱりカイはモモナにいたのか。今日中にはコッパーに着くから合流だなぁ』 シエルは聖堂に与えられた臨時の客室で、魔術を使っていた。  仲間の居場所を占いで当て、精神を野生動物に飛ばす。そしてカラスの目を借りて、カイの居場所は突き止めた。『この身体で北まで行くのはキツイな。  ありがとう、カラスちゃん』 シエルの中身が分離したカラスは、木の枝に止まると一度身震いし、再び森へ帰っていった。 コッパーの聖堂にシエルの精神も戻る。大きな椅子に小さな子供の身体。  疲労だけが大人以上の消耗をしている。「はぁ〜……カイは相変わらずだなぁ。  さてと、グリージオに反応した二つは多分レイとエルだよね ?  だとしたらやっぱり北にいるのはリラ ? 」 机に広げた世界地図に付いた赤い丸。  二つはグリージオに。一つはコッパーにいる自分。もう一つはすぐ隣のモモナ港の城下町に。  そして北の山脈に二つの反応。  シエルの占いは当たるのだが、今回だけは自信がなかった。「北は二人。二人ってどういう事 ? でも残るはリラだけだし……とりあえず行ってみるかぁ」 シエルは試験管から青い液体をグラスにそそぎ、一気に飲み干す。「魔力が持てばいいけど……」 口元を拭い、再び精神を集中する。 ──雪、山、寒い空気。そしてシヴァの恵みにあられる氷の大地。どうか受け入れて── ゆっくりと瞳を開ける。ふわふわの羽毛にズムッとした胸。『宜しくね、鳩ちゃん』 鳩に乗り換えたシエルは巣箱から飛び立つ。『ここはぁ、アリアの村って所かぁ。カイの我儘で寒い地域はルート取りしないからなぁ』「すみません、痛み止めを」 道具屋の前に多くの人が並んでいた。『地面の砂の抉れ方……グラスボーン ? こんな寒いところにもいるの ? 』 しばらく村を旋回するがリラの姿は無い。  その代わり、別なものを見つける。『なにあのクレーター ! 村の先に剥き出しの地面がある ! 』 何を隠そうリラが吹き飛ばした森の跡地である。『うわぁ〜、うわぁ〜、凄い凹み ! 隕石にしては、上から落ちてきた爆風とは違う感じ ? なんて言うか、こう横から……魔法で吹き飛ばしたような…………』 鳩なのに血の気が引くとはシエル自
last updateLast Updated : 2025-07-02
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