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34.悪戯

last update Last Updated: 2025-06-23 16:00:00

「そうか。世話になったな。レイと呼んでくれ。出来るだけ過去に近い環境の方が思い出すこともあるかもしれないな」

「そういうもんでしょうか ? 俺も記憶に関してはあれこれ言える立場ではないので」

 記憶が戻らない。

 わたし、本当にドラゴン討伐中に落ちたんだ。それもわたしがS級冒険者なんて……今は微塵も魔法覚えてないし。

 どうすればいいのか分からない。

 仲間の誰かに会ったら、何か変わると思ってた。

 けれど、仲間に会っても……わたしがリラじゃないなら記憶も感情も共有してないんだから何も思い出しようがない。

「あー……下が雪で良かったな。

 でもエルに報告したら面倒そう……正直揉み消したい」

 そう言ってレイは苦笑する。

「怒られちゃいますか ? 」

「勿論。

 心配してたし。でも……本当に別人だな。今戻って来いと言っても、納得しないだろ」

「あの、はい。ごめんなさい」

「ま、こんなこともあるだろ」

 え、それだけ ? 

「出直すよ。先にシエルを会わせた方がいいな。セロ、お前のその呪い ? みたいなのも解けるだろうし……別に無理に連れて行くこともないだろうし。

 石を見せて歩かないってのは賛成だ」

 冷静に話してるけど、何か……気まずそう ? 元のリラとは仲良かったのかな。

 パーティの話もだいたい頭に入れたけど、まだ気が進まない。この双剣も、わたしが勝手に仲間からもぎ取ったなんて考えられない。カイさんは気の毒ね。

 それにしても、探してた仲間がこんなパッと現れるとは思ってなかった。わたしは会いたかったはず。けれど、こうして会ってみると……。何も感情が湧いてこない。

「それとも二人一緒にこのままグリージオに来る ? 」

 レイの言葉にセロが首を横に振った。

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     セロが記憶の無い間のことを話してくれたけど、全然要領を得ない。「あっちのリラは……歌わないって言ってたのに、なんで歌わせたの ? 」「いや、挑発したらノるかなと……」 違う。そんなこと聞きたいんじゃない。  でもセロの演奏をを歌でねじ伏せるなんて……。「それで返討ちにされるなんて、どんだけ……本当はDIVA使ってたんじゃないの ? 」 想像できない。  川沿いでセロが弾いたコロコロ変動していくあの難しい曲。あれにDIVAなしで歌い合わせるなんて……。  少なくても、今のわたしには無理。「そっか……ならわたし、『偽リラ』って言われても仕方無いね……」 なんか……。なんで少し傷付いてるんだろう。  そりゃあ今まで歌った事なかったし、何も覚えてないんだから出来ないのは普通じゃん。魔法も万能じゃないわけだし。  でも、そんな簡単に歌われちゃったら……。「記憶があるんだから、あっちが大元なんだろうな」 じゃあ、わたしってなんなの ?  元のリラに戻った方が……。誰も、何も損しないじゃない。「でも、なんか怖かったな」 怖い ?「何が ? 人格が ? 」「人格は気にならないが、メロディがな。  感情だけで突っ切られる。演奏してて、俺はそんな事に動揺することは普段無いんだが。ヒヤヒヤしたな……。始終安心できなかった」「それは、上手いからなんでしょ ? 」「……相性もあるさ。俺はお前に歌って貰った方が断然気持ちいいし、弾いていても楽しいと思う。これは……俺だけか ? 」「え !? まぁ、楽しいし。  そ……そうじゃ無かったら、組んで吟遊詩人なんかなってない……んじゃ ? 」「そうだよな ? 」 よ、良かった。  これでオリジナルに戻って ! とか言われたら……。言われたら ? その時がもし来たら、わたしは本当にどうなっちゃうの ?「リラ ? 」

  • Load of Merodia 記憶喪失の二人   32.縺れる意識

    「そんなに驚く ? そもそも基礎が出来てないと使えない石だもん」「それは知って……え ? じゃあ、ワザと力技で歌ってたのか ? 暴走してたが !? 」「暴走はしてないわよ ! 変な曲に最後まで付き合いきれないと思ったからよ ! 」「変な曲……」 セロは地面にヘナヘナと座り込む。「本当に別人なんだな。  今の曲は前のリラとも合わせてる」「へぇ ? そうなんだ」「あいつは途中で止まった」「でしょうね。初見で弾いたり歌ったりする曲じゃないわよ、今の曲」「まあな」 全くもう。  でも、なんだかスっとしたわ。ここまで思い切り歌う事って今までなかったし。「地下牢の中は凄く反響するから……。外で歌うとこんなに消耗するのね」「……その生活で、どこで音楽を学んだんだ ? 」「何もしてないわ。長く牢にいるとね……聖堂やら城やら、音のあるものは聴こえて来るから……。  結界に入れられてから、多分、人間とは違う時間の流れで過ごしてたの。十八歳っていうのも、ギルドでジョブプレートを作る時に他人と外見を比較して決めた年齢だし」「じゃあ……アリアの村の司祭が言ってた……二十歳頃、修行中にグリージオで見た地下牢の少女って……」「ん ? そんな話したの ?  まぁ、本当ならわたしだと思うよ ? 」「……」「何よ ! ババアって思った !? 」「いや。歌に関して驚いただけ。年齢と実力はイコールじゃないとしても。……まさか、元のリラよりこんなに差があるとは……」「学んだら歌えるってわけでもないと思うわ。  だってその理屈だと、突然湧いた人格の偽リラが、どう音楽を学んだかもフワッとしてない ? そこそこは歌えてたんでしょ ? 」「ああ、それはそうだが……。俺は狐弦器だけは忘れてなかったし。記憶喪失は人格が変わる現象ではないからな 」 そもそも、なんでわたしにもう一人の人格がいるのか……。突然出来るにしても、こ

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