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30.夜の森

last update Last Updated: 2025-06-19 16:00:00
「……」

「……」

 焚き火の前、セロもわたしも無言。

 まず、わたしがいつ前のリラに戻るのかだよね。わたしじゃ共通点なんか無いし、既に聞きたいことは聞いて暇ですって顔してるわ。とは言え、戻る必要ある ? 記憶云々じゃなくて人格が違うでしょうよ。

 後は……腹減ったわ。

「森ごと無くなった……せめて焼けた動物とかいない…… ? 全部炭なんだけど」

「動物が焼かれたところで絶対に食べないって。牧場で火事になったらその羊を食べれるわけじゃない 」

「ネズミ一匹くらい、地面からも出て来てもいいのに……」

「俺がネズミなら怖くて出れないな」

「魔法は……力加減が難しいのよね。だから大型魔物の討伐は調度いいの。好きに暴れてもそうそう消し炭にならないし。S級になりたくてなったんじゃないわ」

「……」

 セロは顔を上げると、ふと思いついたように話し出す。

「雪山で何があったんだ ? 」

 う……。それ聞く ?

「……最近、ゴールドドラゴンとシルバードラゴンの番が悪さしてるでしょ ? グリージオで討伐依頼をギルドに出してたんだけど、立候補者が全然いないわけ。

 それで仕方なく、エル……エルンスト王を除いた五人で討伐に行くことにしたの」

「何故エルンスト王は行かなかったんだ ? 」

 お。なんか意外に興味あるのかな ? 結構ズカズカ聞いてくるじゃん女嫌い君。

「エルが自分で行ったら、成功した時、自分で王家の予算から報酬を貰う事になるでしょ ? ダメでしょ。そんなヤラセのお小遣いみたいな事」

「一理あるが、討伐は出来たのか ? 」

「分かんない。番をまず観察して、一頭ずつ倒そうとしたの。でも思いのほか時間も長引いて、そのうち雄に合流されちゃって。

 雄を何とか引き剥がそうと、雌の背中からわたしだけパーティから離脱したんだけど……」

「ああ。突っ走った感じが手に取るように分かる……」

「何それ ! そ、そんな事……」

「その双剣は ? 」

「お、雄のシルバードラゴンは……物理の方が効くし……カイの双剣を力強くでもぎ取って、飛び乗り………………ましたね……」

「……一緒に歩きながら、そうなんだろうなって、思ってた」

 どーも、すみませんね !!

「カイって奴も災難だな」

「あいつは大丈夫よ。裸で砂漠に放り出しても笑って帰って来そうな奴だし」

「怪物…… ? 」

「ってか、あんた偽
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