それに比べて、婚姻届を出す人は少なく手続きもスムーズだった。だから、優希と哲也は少し遅い時間に来たけれど、手続きはすんなりと、あっという間に終わった。担当の職員が、優希と哲也に婚姻届の受理証明書を手渡した。二人はそれを受け取った。哲也はそれを開いてちらっと見ると、すぐに目をそらした。優希の反応は彼よりもっとそっけなく、見向きもせずに、そのままバッグに放り込んだ。哲也はその様子を見て、さらに面白くない気持ちになった。この結婚は、自分が優希をさんざん説得してやっとこぎつけたものだ。でも、彼女のこの態度はあまりにもぞんざいすぎる。逆に颯介のほうと結婚したかったといった様子だった。颯介のことを考えると、哲也の表情はさらに曇った。「行くぞ」哲也は冷たい声で言った。「送っていく」そう言われ、優希も素っ気なく返事をすると、哲也のほうを見ずに、さっさと外へ歩き出した。哲也は彼女の後ろ姿を睨みつけ、奥歯をギリリと噛みしめた。なんて冷たい女なんだ。そう思いながら哲也は怒りを胸にしまい、帰り道、自分から優希に話しかけることは一切しなかった。一方の優希は、車に乗ってからずっとスマホでメッセージを返していて、とても忙しそうだ。哲也の機嫌なんて、気にかける余裕はなさそうに見えた。信号待ちで何度か止まるたびに、哲也は隣の優希をこっそり盗み見たが、彼女はいつも、夢中でスマホを操作しているだけで、誰かとやり取りしているのかは知らないが、周りのことなどまったく目に入っていない様子だった。そう思うと、哲也の胸のうちは、一層モヤモヤした。こうして、家に着くまで、二人の間に会話はなかった。庭に車が停まると、優希はようやくスマホをしまった。そしてドアを開けようとしてから哲也の方を向き直り、平坦な声で言った。「送ってくれてありがとう。じゃあ、先に入るね」そう言われ、哲也は彼女を見つめ、ハンドルを握る手にぐっと力を込めた。3秒ほど黙っていたが、ついに堪えきれなくなり、冷たい声で問い詰めた。「言っておくが、俺たちはもう夫婦なんだぞ」すると、車から降りようとしていた優希は、ぴたりと動きを止めた。哲也の方を向くと、少し考えてから口を開く。「届けを出したから、夫婦だってことは分かってるわ。でも、結婚式までは実家で暮らしたいの」
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