輝をホテルの部屋まで送り届けると、綾は急いで病院に戻った。澄子の容態は安定していたが、退院したいと言い張り困っていた。病状については、まだ本人に伝えておらず、治療方針が決まってから話すつもりだった。澄子を落ち着かせると、綾は丈を探しに行った。丈は事務室にはおらず、一緒に勤務している看護師によると、今は手術中で、あと1時間ほどで終わるらしいとのことだったので、綾は頷き、後でまた来ることにした。ナースステーションの前を通りかかった時、処置室から出てきた浩二とぶつかりそうになった。ふと目が合うと、綾の動きが一瞬止まった。こんなところで浩二に会うとは思ってもいなかった。さらに驚いたのは、浩二の顔が、まるで風船のように腫れ上がっていたことだった。「本当に、狭い世の中だな!」浩二はいらだった様子で小馬鹿にしたように笑ったが、そのせいで口元の傷が裂け、思わず顔を歪めた。「くそっ......」彼は怒りを抑えきれず、綾を睨みつけて言った。「誠也に取り入ったからって、安心するなよ!綾、せいぜい不適合の結果がでることを祈ってろよ!もし適合でもしてみろ、俺に土下座して頼みこむことになるぞ!」そう吐き捨てると、浩二はいら立ちを抑えきれない様子で立ち去った。綾は振り返り、浩二の後ろ姿を見つめながら、眉をひそめた。適合検査?浩二が、適合検査を受けに来た?誠也が、浩二に頼んだのだろうか?そんなはずはない。彼は他人のことに干渉するような人間ではないし、それに、今は離婚調停中なのだ。夫婦としての利害関係もないはずだ。誠也が自分を助ける理由なんて......「佐藤先生」看護師の声に、綾は我に返った。顔を上げると、丈が立っていた。白い白衣を着た丈は、手術後の疲れが見えるものの、優しげな表情をしていた。彼は綾の前に来ると、軽く会釈して「綾さん」と声をかけた。「佐藤先生、またお時間を頂戴して申し訳ありません」綾は少し間を置いてから、「母の治療方針は決まりましたでしょうか?」と尋ねた。「中でお話ししましょう」綾は頷き、丈の後について執務室に入った。「こちらが、今朝行った検査結果です」執務室で、丈は数枚の検査結果を綾に渡しながら言った。「漢方内科の先生と相談した結果、お母さんは現在、体力がかなり弱ってい
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