病院に着き、綾がエレベーターに乗り込んだ途端、背後から足音が聞こえた。エレベーターの鏡には、誠也の姿が映り、綾は唇をぎゅっと噛み、彼を無視した。誠也は乗り込み、綾に一目やったが、そのまま彼女の後ろに立った。続いて六、七人が乗り込んできて、エレベーターの中は一気に混雑した。前にいた恰幅の良い女性に押されて、綾は数歩後ずさりせざるを得なかった。綾の背中が、男の逞しく広い胸に、時折触れる。誠也は綾より頭一つ分ほど背が高く、彼の身体からほのかにミントの香りが漂ってきた。この香りは、彼女にとって馴染みのあるもので、いくつかの情景が脳裏に浮かんできた。過去5年間、自分も一般的な妻のように、出勤する夫にネクタイを締めてあげていたのだ。そして彼も当たり前のように、出かける前に自分の腰を抱き寄せ、軽くキスをしていた......今となっては、それはまるで皮肉なことだ。綾はそんな感傷的な思いを振り払い、背後の男を気にしないように努め、エレベーターが澄子の入院階に到着すると、ドアが開くと同時に、綾は急いで外に出た。しかし、今回、誠也は追いかけず、ただその場に立ち、彼女の後ろ姿を見送った。彼女はもう振り返らず、その遠ざかる背中は閉まるエレベーターの扉によって遮られた。......綾は高橋に、「今日はもう帰って休んで。明日の朝また来ていただければ大丈夫なんで」と告げた。高橋が帰ってから間もなく、星羅がやってきた。二人はドアを閉めて小声でネット上の騒ぎについて話し始めた。「遥が長文のあなたを庇うような投稿をしていたけど、あれは彼女が自分で書いたんじゃないと思う。きっとゴーストライターかなんかに書かせたんだわ!」綾はSNSを開き、その長文の投稿を見つけると、ざっと目を通した。内容は、まあまあ満足いくものだった。「前の擁護投稿を削除したってことは、後ろめたいことがあるからでしょ!」星羅は鼻で笑って続けた。「前の投稿は、一見あなたを庇っているように見せかけて、実はファンを誘導してあなたの人格を疑わせるような内容だったんだから!でもね、遥が長文投稿した途端、あなたとおばさんに関するネガティブな書き込みが全部消えて、トレンドからも綺麗さっぱり消えたのはおかしいと思わない?まるで誰かが裏で操作してるみたい」「きっと誠也の
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