要は綾を追いかけ、「綾......」と声をかけた。「要」笙の声が背後から聞こえてきた。要は歩みを止め、振り返った。笙は彼の前に歩み寄り、厳しい表情で言った。「今日はお前が碓氷グループの社長になる大切な日だ。主要株主も全員いるから、俺と一緒に来て、紹介する」要は目を伏せ、感情を抑えながら「はい」と答えた。笙は振り返り、誠也を見て冷たく笑った。「碓氷グループは今日からお前とは関係ない。出て行け。警備員を呼ぶ前に!」要は誠也を見た。優希が大好きな、あの優しい目には、複雑な感情が渦巻いていた。だが誠也は笙と要に目もくれなかった。碓氷グループは確かに今日から彼とは関係ない。しかし、笙は絶対に知ることはないだろう。碓氷グループの社長が交代したのは、笙が勝ち取ったからではなく、誠也自身が必要としなくなったからだ。そして要の方へ、誠也は黒い瞳を向けた。要は言った。「誠也、綾はあなたを一生許さないだろう。あなたは負けたんだ」誠也は唇を歪め、冷たく薄ら笑いを浮かべた。「たとえ俺が捨てた女でも、あなたが手を出すのは許さない」「あなたは......」「要!」笙は要を叱りつけた。「株主を待たせるな。早く俺と来い」要は拳を握りしめ、唇を固く結んで、笙と共に会議室へと入った。柏も誠也を一瞥し、得意げな顔で会議室に入った。清彦は誠也を支えようと近づいたが、誠也に「床に落ちているペンを拾ってくれ」と言われた。清彦は驚き、誠也の視線の先を見た。先ほど誠也が倒れた場所に、ペンが1本落ちていた。清彦はペンを拾い、誠也に渡した。誠也はペンを受け取ると、指先で軽く払い、胸ポケットに挿し直した。「碓氷先生、オフィスに他に何か持って行くものはありますか?片付けましょうか......」「いいえ」誠也の声はかすれていた。「このペン以外、何もいらない」清彦は理解できず、誠也の胸ポケットのペンを見た。「綾からのプレゼントだ」誠也は唇を歪め、目尻を赤くした。「入江さんの裁判を手伝ったお礼だって言われたんだ。俺はそれを信じていたなんて......」このペンは、結婚1周年の記念に、綾が「お礼」として彼に贈ったものだった。今になって思えば、本当に自分が愚かだったと思う。綾はかつて、本当に彼を愛していたのだ。それ
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