丈は星羅のバッグに視線を向け、眉間にシワを寄せた。まさか、離婚届を出してすぐに戻ってくるつもりか?ふん、本当に待ちきれないんだな。一方の星羅は彼を見ず、伏し目がちで、表情ひとつ変えなかった。丈から見れば、それはまるでどうでもよさそうに見えた。綾も心穏やかではいられず、丈の方を見て言った。「佐藤先生、車を呼んで、空港へ向かいましょう」丈は眉をひそめ、軽く返事をした。霧雨は相変わらず降りしきっていた。三人はタクシーで空港に到着した。国際線の便を新たに申請するには、時間がかかる。早くても一時間は待たなければならない。特別待合室で、綾は電話をかけるふりをして外に出た。二人きりにさせて、丈も冷静になっただろうし、彼の性格ならきっと星羅に話しかけるだろう、と考えていたのだ。綾は一時間近く外にいて、航路申請が完了したという連絡を受けた。飛行機は20分後に出発する。それを確認すると、綾は待合室に戻った。しかし、そこに丈の姿はなかった。星羅だけがソファに座っていた。綾はため息をつき、星羅の隣に座った。星羅はうつむき加減で、スマホを見ていた。待ち受け画面は蒼空だった。「星羅」星羅は顔を上げて綾を見た。綾の心配そうな目に、星羅は気づいていた。「大丈夫よ」星羅は無理やり笑顔を作った。「私たち、性格も価値観も合わなかったの。早く別れて正解だったと思う。蒼空のことは心配だけど、佐藤家なら何不自由ない暮らしを与えられるはずだし、それに男の子でよかった。もし女の子だったら......きっと、私は決心がつかなかったかもしれない......」綾は星羅の手を握り、「本当に大丈夫なの?」と尋ねた。星羅は頷いた。「ええ、大丈夫......」そう言われて、綾はもう何も言わなかった。星羅は強がっているだけだと、綾には分かっていた。しかし、このまま二人が喧嘩を続けていたら、子供のためにもならないだろう。このあと十数時間のフライトかけて帰国するんだから、もしかしたら二人にとってこれが最後のチャンスだったのかもしれない。......翌日、北城時間の午後1時過ぎ、プライベートジェットが空港に着陸した。太陽が照りつける中、キャビンが開いた。星羅と綾が先に降りていった。その後ろを、丈が
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